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 福岡通信 02/03/15 (金) <前へ次へindexへ>

 確実に進むチーム改革。副島サガン、C大阪に大善戦。


 文/中倉一志
 澄み切った青い空、柔らかな日差し、穏やかな空気。南国九州に春がやって来た。そして、その春の訪れとともに、サッカーファンにとっては待ちに待ったJリーグが帰ってきた。ひとつのボールを追いかけ、地元選手の活躍に一喜一憂し、揺れるゴールネットに大きな歓声を上げる。勝利のときはその喜びに浸り、敗れたときは悔しさを胸に雪辱を期す。サッカーで始まり、サッカーで終わるあの至福のときが、また私たちの前に帰ってきた。

 そんな季節の到来の中でも、ホームの開幕戦は、地元サポーターや、サッカーファンにとっては特別な思いで迎える試合になる。現場スタッフの編成が変わり、選手補強を終えたチームがどんな姿を見せてくれるのか。「おらが町のクラブ」のスターは今年も地元ファンの声援に応えてくれるのか。そして、迎え撃つ相手のチームはどんなサッカーをしてくるのか。長いシーズンを占う大事な一戦に様々な思いが交錯する。そして願うは地元チームの勝利の2文字だ。

 そんな思いを胸に、鳥栖スタジアムには多くのサポーターとファンがやって来た。午前11:00、鳥栖スタジアムの正面ゲートの前には、開場を待ちきれない多くのファンが長い列を作り、チケット売り場の前にも、当日券を求めて多くの人たちが並んでいる。そして、その列は長くなることはあっても短くなることはない。集まった観衆は7,214人。サガン鳥栖にとっては、ホーム開幕戦ではチーム史上最多となる観客数を数えた。

 フロントを刷新し、新監督を迎えての初めてのシーズン。ファンの期待は自ずと高まっている。不本意なシーズンになった昨シーズンの雪辱を晴らしたい。副島新監督のもと、生まれ変わったサガン鳥栖を見せてもらいたい。ホーム開幕戦となるこの一戦で、ダントツのJ1昇格候補に上げられているC大阪に堂々と渡り合ってもらいたい。そんな気持ちを誰もが胸に抱いている。そして緑のピッチの上に我らが11人の選手が現れる。観客の胸の高鳴りが最高潮に達したとき、ホーム開幕を告げるホイッスルが鳴った。



 いきなり鳥栖はC大阪のペナルティエリア内に進入。相手DF陣を冷やりとさせる。そして続く3分、素早くパスを展開して右サイドを突破すると、新加入の川崎がクロスボールをゴール前に送る。強豪相手に一歩も引かない。それどころか、真正面から勝負を挑む、そんな気持ちがひしひしとスタンドに伝わってくる。動き出しの速さ、シンプルに素早くつなぐパス。そして、思い切ってサイドをオーバーラップしていく選手たち。そのプレーに観客はチームが明らかに変わっていることを実感した。

 西澤明訓、森島寛昭、尹晶煥を中心にするC大阪の特徴は、トップにボールを当てて、2列目から森島、徳重がスペースへ飛び出し、そして尹晶煥が絶妙なパス回しでチームをコントロールするというもの。縦への速さが身上のチームだ。そんなチームに対して「スピードをダウンさせる事に主眼をおいたゲームプランを立てた」(副島監督)という副島サガンの布陣は4−3−1−2。中盤で激しくプレスをかけて相手のパス回しを潰しにかかった。

 これが見事に成功した。中盤の底に並んだ鈴木、佐藤(陽)、矢部がスピーディな動きで相手の自由を奪い、DF陣は、その3人と連携して1トップ気味の西澤にボールを持たせない。ボールを奪うと、右SBの森が味方を信じきって思い切りのよいオーバーラップを見せ、前線では竹元が質の高い動きでボールを引き出す。そして、トップ下に位置する川崎は巧みにボールをキープして絶妙なパスを繰り出す。「結束・連動」。そのキャッチフレーズ通りのプレーで、終始C大阪を押し込んだ。

 結果的には、わずかな隙を突かれて2ゴールを奪われ、そして、いくつもの決定機を作り出しながらもゴールが奪えずに、ホーム開幕戦で勝利を挙げることが出来なかった。だが「戦う闘志を前面に押し出した鳥栖の前に、やっとの思いで勝ちを手にした。出足の速さ、球際の激しさが前節の山形とは比べものにならなかった。この試合に勝てたことはたいへん大きい」と語った西村監督(C大阪)の言葉に偽りはない。鳥栖は大きく変わった。



 試合前のポイントは鳥栖がどこまでC大阪に食い下がれるかだと思っていた。しかし、試合途中から、それはどうやったら勝てるかに変り、終了のホイッスルを聞いたときには、勝てるゲームを落とした、そんな印象に変っていた。決してC大阪の出来が悪かったのではない。相手を上回るスピードとプレッシャーで、自らの力で試合の流れを引き寄せた。以前から「大物喰い」との評判をもつ鳥栖だが、その内容は、過去のそれとは大きく違っていた。

 ポイントはいくつかあるが、中盤の底で精力的に動き回り、ボールがあるところには必ずといっていいほど顔を出していた佐藤(陽)の活躍を抜きには今日の試合は語れない。昨シーズン終盤からボランチの位置にコンバートされた佐藤(陽)は、3人のボランチの中央に位置して主に守備を担当。左右に位置する矢部、鈴木とバランスを取りながら、C大阪の中盤を封じ込める中心となっていた。以前から非凡な才能を見せていた佐藤(陽)だったが、一段とたくましさを増している。

 また、ユニヴァ代表の肩書きを持つ鈴木が、その才能を発揮し始めたことも大きい。昨シーズン福岡から移籍してきた鈴木は、非凡なものを見せながらもプレーの遅さが目立ち、安全策を選択するあまり消極的な印象が拭えなかったが、この日の試合では、積極的にプレスをかけ、素早くボールを展開する姿が随所に見られた。矢部、佐藤(陽)とのコンビネーションもよく、今後、この3人が攻守の要の役割を果たしていくことは間違いない。

 そして、成長著しい森の存在も頼もしい。この試合では何度も右サイドを崩すシーンが見られたが、鳥栖の新たな武器になりつつある。また、新加入の川崎の活躍も大きなポイントのひとつだ。ボールをキープする技術を持ち、パサーとしての役割をも果たせる川崎は、早くも鳥栖の攻撃の起点になりつつある。昨年は、このポジションに難点を抱えていたが、それを埋めただけではなく、飛躍するための最大の武器になる可能性を秘めている。



 第2節を終えて1分1敗は昨シーズンと全く同様のスタート。しかし、その内容は全く違う。記者会見では、敗れた原因を分析し今後の課題を口にするとともに「100%ではないが、合格点は出せたと思う。ホーム開幕戦としては、自分の色をさわり程度出せたのではないか」と語った副島監督。チーム改革の手応えを確実に感じ取っているようだ。それは、スタジアムに訪れた観客たちも同様。敗れた悔しさを感じつつも、今シーズンの鳥栖に期待する声が多かった。

 しかし、あえて苦言を呈すれば、大切なのはここからの戦い方だ。明らかに内容は大きく変ったが、今後はそれを結果という形に表すことが必要になる。チーム改革の成果は確実に現れている。その伸びしろは試合を続けていく中でさらに伸びる可能性は大きい。だが、それを勝利という具体的な形に結び付けてこそ、本当の意味でチームが脱皮できる。そのためには、解決しなければならない課題も残されている。

 最大の課題といえば、やはりゴール前での精度と言うことになるのだろう。何度も決定的なシーンを作り出したものの、ゴールの予感と言う意味では、チャンスの少なかったC大阪の方に強く感じたことも確かだった。J2では最後のフィニッシュで苦労するチームが多く、最後のところで決めきれるかどうかが勝負の分かれ目になる。ゴール前でのポジショニング、ゴール前へ供給するクロスボールの精度等を改善することが、今後の鳥栖の動向に大きく影響することになる。

 最後に。長い怪我の治療を克服し、ようやく復調の兆しを見せていた竹元が再び怪我で試合途中からピッチを退いた。最悪の状況は免れたが、診断の結果は全治4週間の捻挫。症状は重い。本人、チーム関係者のみならず、スタジアムに訪れた観客にとってショッキングな出来事だった。竹元には再び試練が与えられた。しかし、怪我をしてしまった以上、辛い思いを克服して治療に専念してもらいたい。サポーターは竹元がピッチを縦横無尽に駆け回る姿を待ち望んでいる。そんな皆の思いを力に代えてもらいたい。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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