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 福岡通信 02/04/05 (金) <前へ次へindexへ>

 今だから言おう!「一丸となればやれる」


 文/中倉一志
 激しく檄を飛ばすピッコリ闘将の下、所狭しとピッチの上を走り回ったイレブン。合言葉は「一丸となればやれる」。その言葉通り、一丸となったイレブンは最後までボールを追い、ゴールを目指した。2、3人で相手を囲い込み、ボールを奪うとスペースへ放り込んで、そこへ選手が飛び出していく。先制されても必ず追いつき、ホームでは強豪チームを完膚なきまでに叩いた。どんな時でも目指すのは勝利のみ。前向きに戦う男たちがそこにはいた。

 J1昇格以来、万年降格候補と呼ばれていたチームが闘志を前面に出して生まれ変わった。その姿は、中央のメディアにはダーティと称された。勝ち続けても正当な評価を受けることは少なかった。しかし、スタジアムにやって来る観衆は本当の姿を知っていた。いつしか博多の森は満員の観衆で埋め尽くされるようになり、誰もがピッチの上の選手と一緒に戦った。博多の森の熱狂。それは福岡サポーターだけでなく地元の誇りでもあった。

 だが、順調な日々は長くは続かない。更なる飛躍を誓ってスタートした2001年シーズン、勝てない日々が続く。福岡は再び下位を低迷する。そして終盤は5連敗。J2への降格が決まった。万博競技場で涙に暮れる福岡サポーター。しかし、みんな前を向いていた。そして、ピッチを去る選手たちとともに再びJ1で戦うことを誓いあった。「一丸となればやれる」。それが福岡の合言葉。あきらめるなどという言葉はどこにもなかった。

 迎えた2002年シーズン、ディビジョン2第6節。福岡は博多の森に湘南を迎えた。ここまで2勝2敗1分と波に乗れない福岡にとって、大切なホームゲームのはずだった。しかし、観客はわずかに4,515人。スタンドにはフロントの対応を批判する横断幕が張られている。試合途中に起こった「今井辞めろ」コール。噛み合わないサポーター同士の声援。そしてバラバラの選手たち。万博競技場でJ1復帰を誓ってからわずか5ヶ月。チームとサポーターは、自分たちが築いてきた大切なものを失いかけている。



 混乱の火種は、昨シーズン終了後に起こったフロントのドタバタ劇にある。残留と思われていたピッコリ元監督の突然の解雇。チームを変え、そして支えていたベテラン選手たちの大量解雇。将来を期待されていた中堅選手たちの相次ぐレンタル移籍。その一方で、なかなか決まらない指揮官と、思うに任せない選手補強。しかも、強化担当の後任が決まらず、柳専務が強化部長を勤めるという異例の事態まで引き起こした。

 しかし、確かにフロントの対応に不十分な点があったとはいえ、J2に降格したという事実や、若手が育っていないという福岡の構造的な問題を考えれば、監督の更迭も、ベテラン選手たちの大量解雇も止むを得ないものだった。新しいチーム編成が後手に回った感は否めないが、新監督の招聘も、選手補強の状況も、あの時点からスタートしたことを考えれば満足の行くものだったといえた。後は心を一つにするだけ。準備は整っているはずだった。

 そんなチームを支える行政や企業も変わらぬ支援を続けることを約束してくれた。行政が、地域にあるスポーツクラブとして、チームを変らず支援することを表明したことの持つ意味は大きかった。そして、J1と比較すれば、はるかに露出が少なくなるJ2にも関わらず、前年度と同様の支援をしてくれた地元企業の姿勢は福岡を強く後押しすることにもなった。こうした後押しが、混乱しかけた福岡を救うことになったのは間違いのない事実だろう。

 そしてフロントは「1年でJ1」という方針を発表する。サポーターの中には、フロントが何処までやるのか疑問視する声がなかったわけではない。確かに体制は整ったかに見えたが、何か大事なものが欠けている印象が拭い去れなかったからだ。強化担当の専任者が不在のままだったことが最大の要因の一つだった。しかし、遅ればせながらも、フロント改革の意思を見せる経営陣に、再び飛躍することを夢見てシーズン開幕を迎えた。ただし一抹の不安を残しながら。



 ところが、そのわずかな不安が開幕戦で現実のものとしてサポーターの前に突きつけられた。勝負の世界である以上敗れることもある。しかし、あまりにも内容が悪すぎた。出来上がっているはずのチームはバラバラ。その戦い振りは目を覆うばかりだった。対戦相手はJ2。昨年と同じ内容ということはチーム力の低下を意味する。そして、その後の戦い振りは、サポーターの不安を募らせるものばかりだった。予想される範囲内で、最も最悪の事態が福岡を襲った。

「チームの戦い方が見えない」「監督の戦術が分からない」等々、今井監督が批判の矢面に立たされた。フロントが1年でJ1と表明しながら、決してJ1昇格が第一目標と口にしない監督の態度に不信感を持つサポーターもいる。そしてくすぶるフロント批判。3月29日には強化部長を務めていた柳専務の福岡市役所への復帰が決まり強化担当者が不在になるという信じられないことまで起こった。もはやサポーターの不信感は頂点に達した。

 細かなことを挙げていたらキリがない。一番の問題は、チームそのものが目標を失っているかのように見えることだ。確かに「1年でJ1」という目標が変ったわけではない。しかし、フロントの数々の態度や、監督の言葉、そして選手の戦い方からは、何が何でもJ1に上がるという強い意志が感じられない。ひとつ、ひとつの出来事を一つの糸で結びつけることが出来ないのだ。何を目指して活動しているのか、サポーターにはさっぱり見えてこない。

 どんなに金があっても、どんなに実力者をそろえても、そして、どんなに立派な目標を立てても、目標に向かって心を一つにしなければ、全ては宝の持ち腐れだ。チームの力とは、経営陣、監督と現場スタッフ、選手、そして、それを支える行政、企業、サポーターの総力で決まるもの。決して誰か1人が悪いわけでもないし、誰かが1人で改善できるものでもない。全員の意思が一致してこそ力が発揮できる。それを失いつつある今、福岡は最大の危機を迎えている。



 いま真っ先にやらなければならないことは、もう一度何のために戦っているのか、その目標を再確認し徹底することだ。目標ははっきりしている。「1年でJ1」だ。どんな些細なことでも、全ては、この目標を達成するという観点から行われなければならない。それさえ徹底できれば、人事問題も、選手補強も、監督の問題も、その方法の全てが決まる。選手だって戸惑っている場合ではない。ベテランが多いチームに経験がないとは言わせない。勝ち方は知っているはず。死に物狂いで戦った姿勢を思い出すだけだ。

 監督だけを批判の矢面に立たせることも避けなければならない。今の福岡の問題は、監督采配にあるのではない。それ以前の、チームが何に向かって進んでいるのかがはっきりしないことにある。サポーターの不信感も突き詰めればそこにあるのだ。その問題を解決しない限り、どんな手を打ったところで上手くはいかない。監督問題を論じるのは、それからでいい。しかし、それほど残された時間が多くないことも忘れてはならない。

 そして、何のために戦っているかを再確認しなければならないのはサポーターも同じだ。今の現状を見れば文句のひとつも言いたいことは十分に理解も出来る。しかし、その方法論に問題はないのだろうか。サポートとは、チームの力を最大限に引き出すためにやるもの。どうしたらピッチの上で選手が力を発揮できるのか、いま考えるべきことはそれだけだ。現在の抗議行動が、ピッチの上の選手たちに力を与えているとは到底思えない。

 残念ながら、やらなければならないことは山ほどある。しかし、出来ないことを非難し、誰かを悪者にしたところで問題は何も解決しない。出来ること、出来ないことを明確にし、非難ではなく、どうしたら解決できるかを考えることだ。幸い、サポーターのリーダーは、チームと話し合える立場にいる。それぞれの考えをリーダーに託し、リーダーは忌憚のない意見をチームに伝えて、互いの問題意識を一致させればいい。そうすれば解決策は必ず見つかるはずだ。

 福岡は金のないチームだった。そのため、全てのことが万全に準備されているわけではない。しかし、そんな中、他のスタジアムにはない一体感と、最後までボールを追いかけるアグレッシブな姿勢で戦い抜いてきたはずだ。中央のメディアがどう評価しようと、それがスタジアムを訪れる観客の誇りだったはずだ。困難に陥った今こそ、その気持ちを思い出すときだ。「一丸となればやれる」。それこそが福岡の合言葉だ。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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