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 福岡通信 02/04/12 (金) <前へ次へindexへ>

 今年の高校サッカーは面白い。鹿児島実業がFBS杯を制す。
 第9回FBS杯高校サッカーチャンピオン大会 決勝戦 星陵高校vs.鹿児島実業

 文/中倉一志
 春の訪れとともに、高校サッカーもいよいよ新しいシーズンに突入した。新しいチームは、昨年度の全国高校サッカー選手権終了後に各地区で行われた新人大会でスタートを切っているのだが、高校の春休みにあたるこの時期は本格的にチーム強化を図る絶好の時期。いわば、シーズン前のトレーニングキャンプに相当する時期でもある。3月中旬からは全国各地で様々なフェスティバルが開催され、各校とも精力的に大会に参加し、チーム強化を図っている。

 そのフェスティバルの中で最も大きな規模を誇るのが、ここ福岡で行われるFBS杯。今年で9回目を数えるこの大会は、九州新人大会、福岡県新人大会の上位校を中心に全国各地の強豪校を招いた合計16校によって争われる。各フェスティバルの最後を飾る大会でもあり、強化の成果を図る大会として各校とも力を入れて臨んでいる。そのせいか、スタンドからはJリーグ各チームのスカウトたちが熱い視線を送っている。

 4グループに分かれた予選リンク戦を勝ち抜いてきたのは、国見、東福岡、鹿児島実業、大津というお馴染みの九州勢と、市立船橋、藤枝東、星陵、前橋育英の、こちらもサッカーファンには馴染みの深い4チーム。「非常にレベルの高いチームが多かった。各学校の特徴、色が見え隠れしていました」(鹿児島実業・松沢監督)との言葉通り、決勝トーナメントは見所のある試合ばかり。そんな中、星陵高校と鹿児島実業が決勝戦に駒を進め生きた。

 石川県代表の星陵高校は今大会初出場。昨年の全国高校サッカー選手権のメンバー10人が残る、2年がかりで仕上げてきたチームだ。特徴は後方からでもパスをつないでビルドアップするサッカー。最前線では1年生のときからレギュラーを張る田中選手が虎視眈々とゴールを狙う。対する鹿児島実業はメンバーが大幅に変ったこれからのチーム。楽しみなのは2年生コンビの2トップ。そして伝統の縦に速いサッカーは今年も健在だ。



 ゲームは緊張感のある立ち上がりを見せる。ブロック予選で一度対戦していることもあって、相手の出方を伺いながら、まずはしっかりとゲームを作っていこうという意図が感じられる。そして最初の決定機は8分、鹿実のFW森井選手が頭で落としたボールを柳崎選手がゴールを狙う。前を向いてフリーで放ったこのシュートはクロスバーを越えてしまったが、これをきっかけにして、鹿実がゲームの主導権を握った。

 鹿実の攻撃の特徴は、ツインタワーの森井・八坂選手のポストプレーと、左サイドの宇陽選手を起点としたサイド突破。これに田中選手、柳崎選手の両MFがスペースに飛び出してきて攻撃に厚みを加えている。特に、左サイドのスピードある攻撃は効果的で、星陵はこの攻撃を止められないでいる。4−5−1の布陣を敷く星陵としては1トップの田中選手にボールを預けたいところだが、鹿実の勢いに押されて思うようにボールをつなげない時間帯が続いている。

 しかし先制点は星陵。決めたのは1年生の時からエースFWとして活躍する田中選手だ。ペナルティエリア内にこぼれたボールを見逃さずに素早く自分のボールにすると、落ち着いてゴール左隅に流し込んだ。田中選手は、この先制点の直前の22分にも、CKのこぼれ球に鋭く反応して左ポストを叩くシュートを放ったが、ほとんどチャンスがなかったにもかかわらず、一瞬の隙を見逃さない鋭さは、非凡な才能を持っていることを窺わせた。

 その後も、ボールに対する集散の速さで上回る鹿実が試合の主導権を握っていたが、ラストパスの精度に欠いてチャンスを作れず。やがて、鹿実の動きが重くなった頃を見計らって星陵が持ち前のボール回しの上手さを発揮し始めた。決してボールを蹴り出すことはせず、プレスをかけてくる鹿実を落ち着いて交わすと、最終ラインからでも、しっかりとボールをつないでビルドアップしていく。派手さはないが良く鍛えられたチームであることが分かる。



 ここまでの流れから、後半もスターとともに星陵が巧みにボールを回してゲームを作るかに見えた。しかし2分、鹿実が得意の左サイドからの攻撃で同点弾を挙げる。左サイドに流れたFW八坂選手がサイド深い位置に進入。折り返したクロスボールはFW森井選手には合わなかったが、流れたボールがファーサイドにつめてきたMF田中選手の足元に。完全にフリーになった田中選手が狙い済まして放ったシュートが豪快にゴールネットを揺らした。

 これで息を吹き返した鹿実は再び前へ前へと攻め始めた。しっかりとボールを動かそうとする星陵のパスワークを高い位置からのプレッシャーで封じ込め、伝統の縦に速い攻撃で前に進む。一方、中盤のパスワークを封じられた星陵は、全員が高い守備意識で鹿実の攻撃を跳ね返す。しかし、前への意識が高い鹿実が時間の経過とともに、その優勢度を高めていく。星陵は縦へパスを入れられず、守備に裂かれる時間帯が増えていく。

 ただ、惜しむらくは、ここでも鹿実がクロスボールの精度に欠いたこと。いい形でサイドを突破するのだが、そこから入れるクロスボールが中央で待つ選手に入らない。「正確にセンタリングが上がれば、もうちょと変っていくんだが」。松沢監督は試合後にそう振り返ったが、3月18日に指導してから27試合目というハードスケジュールでは止むを得なかったかもしれない。結局試合はこのまま70分間が経過。勝敗の行方はPK戦に持ち越された。

 ブロック予選での対戦でもPK戦で決着がついた両校の対戦。鹿実は1人目のキッカーが、星陵は4人目の選手が外してサドンデスに。そして星陵の6人目のPKがポストの外に外れて勝負がついた。鹿実は、ブロック予選での敗戦の雪辱を果たすとともに、FBS杯3度目の優勝を飾った。「春の遠征の結果をFBS杯で出してみようと大会に臨んだ。これはという生徒、これは伸ばしたいなという生徒が一節伸びた感じがします」。松沢監督は、そう言って試合を振り返った。



 各校ともチームが本格的に指導してから間もないこと、春のフェスティバルの中の最後の大会のため疲労が蓄積していること等が重なって、チームとしての完成度は十分とは言い難いが、随所に鍛えられたプレーが見られ、またキラリと光る選手たちも各校に存在していた。星陵のFW田中選手のゴールを狙う嗅覚は非凡なものを感じさせてくれたし、鹿実のMF田中・柳崎両選手のプレーも輝いていた。また「一節伸びた」(鹿実・松沢監督)という鹿実の2年生2トップも、これからの成長が見ものだ。

 さて、現在、日本代表戦車として活躍している小野、稲本、高原、小笠原ら、99年ワールドユース準優勝組の後、残念ながら、ユース年代で全国的に高い評価を受ける選手は少ない。彼らの99年ワールドユースでの大活躍と、その後も素晴らしい成長振りを見せたこともあって、その下の年代は「狭間の世代」とありがたくない名前まで付けられた。これは、先の年代が優秀だったからのことであるが、確かにユース世代の育成に陰りが見えていることも確かだろう。

 また、例年、全国のサッカーファンから高い注目を集める全国高校サッカー選手権大会も、昨年度の大会はやや小粒な印象が拭えなかった。決勝戦後、お話を伺った松沢監督も「昨年は高校サッカーというのは、ちょっと皆さんダウンした」と感想を語ってくれた。しかし、今年のFBS杯を見る限りにおいては、未完成ながら、それぞれの学校とも特徴があり、再び、ユース年代が活性化しそうな予感が漂っていた。

「今年のFBS杯は面白かったよ。それぞれのチームが、それぞれの味で。今年の高校サッカーは面白そうね。楽しみにしていてください、正月は。夏のインターハイから正月にかけて、いいチームが出てくるんじゃないですか。久しぶりにレベルの高い、全体的に非常にレベルの高いチームが多かったですね」。そう締めくくった松沢監督。今年の高校サッカー界は見所が多そうだ。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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