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 福岡通信 02/05/17 (金) <前へ次へindexへ>

 当たり前のことを、当たり前に。


 文/中倉一志
 FIFAワールドカップTM開催のため、Jリーグ・ディビジョン2は第15節を終えて、約2ヶ月間の中断期間に入った。我らが福岡の成績は6勝5分4敗。1年でJ1を目指すシーズンのはずだったが、J1昇格を狙っている兆しさえ見られないままに大事な、大事な15試合を消化してしまった。勝ち点23は首位を行く大分に15差。2位につけている新潟とも既に7の差をつけられた。まだ29試合を残しているとはいえ、その差はあまりにも大きい。

 博多の森に訪れる観客も途方にくれている。とにかく光明が全く見えてこない。互いの連携も、意思疎通もなく、何を狙いとして試合を進めているかも皆目見当がつかない。試合を重ねても何の変化もなく、むしろその内容は悪くなっている感さえある。第11節に行われた鳥栖との試合は、これ以上悪くなることはないだろうと思える試合だったが、第15節の湘南戦は、その試合内容さえ下回った。それはサッカーをしているとは到底思えない内容だった。

 選手起用も、采配も頭をひねるものばかりだ。ようやく第14節の大宮戦で戦術的な展開が見られ、チームとしての狙いが見える試合をしたかに思えたが、翌節の湘南戦では本来ボランチの野田を右アウトサイドのMFで使うという奇策を断行。福岡の右サイドには、ここまで元気なプレーを見せていた河村、長友といった選手がいるのだが、ベンチ入りさえ許されなかった。平均得点が1点にも満たない湘南相手に、まるで3ボランチのような守備的な戦い方。敗戦は当然の結果だった。

 また、「1年でJ1」と声高らかに宣言したフロントも、その言葉と態度がひとつの糸で結びつかない。チーム運営・強化の要となるGMは招聘せず、強化部長がチームから離れても動きもしない。補強を考えているとは言うが、この時期になっても具体的な動きは聞こえてこない。そもそも、実質的な強化担当不在の現在、誰が人選を行っているかさえ不明確なままだ。悪化するチーム状況。その改善の手立てを打たない監督とフロント。福岡はいま壊れかけている。



 残念なことではあるが、現在の福岡のままでは、J1昇格はかなり厳しいと言わざるを得ない。細かいことを挙げればきりがないが、とにかく、チームとして成り立っていない現状ではJ1昇格など出来るはずはない。J2の戦い方に慣れていないなどという声も聞こえてくるが、鳥栖と大分というJ2のチームがある九州では、サポーターでさえJ2の戦い方を熟知している。まさか現場スタッフがシーズン前にJ2の戦い方を研究しなかったわけではないだろう。

 それに、いまの福岡は戦術を問題にする段階にはない。誰も動かず、ボールを蹴ったら蹴りっぱなし。味方のフォローへも行かなければ、スペースを見つけて走りこむ選手もいない。とにかく、攻める時も、守る時も、動いていない選手が多すぎる。ボールを持たない選手はスペースを見つけて走りこむ。ボールを出した選手は必ずパス&ゴーで次のスペースへ動き出す。ボールを持っている選手に対しては必ずフォローに入る。これは、サッカーの基本中の基本だ。

 新しいスタッフ。新しい選手たち。それを新しい監督が指揮するのだから、確かにチームを作り上げるのが大変だという側面はある。しかし、そんなことはシーズン前から分かっていたこと。そういう状況下で、しかも1年でJ1に昇格するという条件で監督を引き受けた以上、それを纏め上げるのが監督としての最低限の義務だ。何も難しいことをやる必要はない。まずは基本動作を着実にやること。それだけでチームは見違えるほど変るはず。それこそがシンプルなサッカーではないのか。

 幸いなことに2ヶ月間の中断期間がある。この期間を利用して、とにかくチームを最低限の決まり事が出来る状態に作り上げることが今井監督の当面の仕事だ。努力ではない。結果として形を残すことが必要だ。だが、就任以来、半年かけて何も作れなかったのだから、同じ考え、行動では、結果は見えている。自らを変革する強い気持ちで臨まなければならない。それが出来ないのであれば「1年でJ1」は絵に描いた餅でしかない。基本動作を徹底できず、そして「1年でJ1」を目指さない監督なら福岡には必要はない。



「基本動作を確実にこなす」という言葉は、そのままフロントにも言えることだ。球団経営といっても何か特別なことをやるわけではない。扱っている商品が「サッカー」というだけであって、一般の企業の経営と何も変るわけではない。会社の理念に沿って、長期・中期・短期の計画を立て、それぞれを実行に移す。実行したら、計画通りに進んでいるかどうかを逐次チェックし、そして計画通りに進んでいない部分について改善策を施す。ただそれだけのこと。普通の会社なら、どこでもやっていることだ。

 この当たり前のことを、当たり前に積み重ねていくことが大切なのだ。特効薬などない。上手くいかなかったら理念に立ち戻り、そして計画を確認し、その達成にあらゆる資源をつぎ込んで改善を行うだけだ。改善は早ければ早いほどいい。上手くいかないことには必ず原因がある。その原因を見つけ出して手を加えることだ。時間が解決するなどとのんびり構えていては事態は最悪の方向へ進むだけだ。何の根拠もなく、ただ監督を信じているだけなら、経営者としての資質を疑われても止むを得ない。

 何も経営責任者がサッカーのプロである必要はない。サッカーに詳しくなくても経営のプロであればいい。そして、経営にあたるプロとしての自覚があるのならば、どんなセクションが必要で、そのセクションをどんな人間に任せればいいかも自ずと分かることだ。目標を達成するためにどんなチームを作る必要があるのか。それを作るためにはどんな指導者が必要なのか。そしてどんな選手が必要なのか。全てはひとつの糸でつながるはずだ。

 それを実現するためには、やはりGMの招聘は急務だ。GMといえば一般企業の企画部長や、人事部長にあたるポジション。会社の理念に沿って、目標を達成するための具体的な方策を立て、実現可能な人材を確保し、従業員を目標達成をしうる人材に育て上げるポジションだ。どんな会社だって、このポジションがなければ成り立たない。それは、アビスパ福岡にとっても同じこと。目指すものを達成するための具体策を立てる人間がいないのでは、どこへ向かって進んでいいかは分からないまま。チームは当然のように迷走する。



 表面上は、チームが勝てないからサポーターやファンがいらだっているようにも見える。しかし、本当のところは、フロントや監督・スタッフが当たり前のことを、当たり前に出来ていないことに不満を抱いているのだということを自覚して欲しい。当然、必死の努力はしていることだと思う。改善へ向けての原因究明もしていることだろう。しかし、その努力はひとつの糸で結ばれていない。どこを向いているのか伝わってこないのだ。

 ビスコンティの解雇問題も同様だ。「1年でJ1」に昇格するためにビスコンティを解雇する必要があるのなら苦渋の選択も必要だ。しかし、今の福岡は、彼の代わりにFWとDFを補強してもさほど変りがあるとは思えない。なぜなら、ゴールが奪えないのは、そして、安定した守りが出来ないのは、いいFWがいないからではない。いいDFがいないからではない。その前に、チームとしてまとまっていないことが原因だからだ。

 であれば、ビスコンティの問題も他の答えがあったかもしれない。確かに往年のキレはなくなっている。解雇という方向も選択肢のひとつであることは間違いない。だが、本当にそういった観点から導き出した結論なのだろうか。サポーターやファンは、そのことに大きな疑念を抱いている。解雇に反対する人も、やむなしと考える人も、どこか釈然としないものが残るのは、そういった理由からだ。これは、ピッコリ元監督の時も同じだった。

 シーズンはまだ終わったわけではない。ワールドカップのおかげで2ヶ月間という時間が生まれた。おそらくこれがJ1昇格への最後のチャンスになるだろう。この期間に、山ほどある問題をひとつずつ、基本原則に沿って解決するしかない。どこからかスーパースターを連れてきても根本は解決しない。自分たちの行動を見つめなおし、当たり前のことを、当たり前に出来る体制を構築することがJ1昇格への道であることを肝に銘じて欲しい。そして、監督問題も、補強の問題も、「1年でJ1」という観点から結論を導き出して欲しい。いまのままなら福岡の明日はない。




注)先週のサポーター通信で九州クラブユース選手権の日程を紹介しましたが、下記の通り会場の変更がありました。今後とも変更がある場合がありますので、観戦にいかれる方は、事前に各チームへお問い合わせされることをお勧めします。

訂正前 5/19日(日)アビスパ福岡vs.サガン鳥栖 11:00 雁ノ巣
                    
訂正後 5/19日(日)アビスパ福岡vs.サガン鳥栖 15:00 唐津市陸上競技場



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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