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 福岡通信 02/05/24 (金) <前へ次へindexへ>

 選手の成長こそが喜び。我らサガン鳥栖ユースサポーター


 文/中倉一志
 太鼓とメガホンを叩いて刻む軽快なリズム。そしてお馴染みのサガン鳥栖コール。しかし、ユースチームの応援にやってくるファンは殆どいない。僅かに選手の家族からの声援が飛ぶくらいで、スタジアムに響き渡る大歓声は聞こえない。それでも、晴の日も、雨の日も、どんな場所でも、たった2人の応援団はサガン鳥栖に声援を送り続ける。短期間のうちに「何か」をきっかけにして成長するユース世代。その「何か」のひとつがサポーターの声援であると信じて。

 メガホンを叩いてリズムを刻むのは梶原宏幸(福岡在住)さん。ユースの試合を見始めたのは2000年の1月に行われた新人戦からだ。きっかけは鳥栖市で行われた川淵チェアマンの講演会の後に鳥栖スタジアムで行われたユースの試合を観戦したこと。元々、鳥栖スタジアムの雰囲気が好きでサガン鳥栖を応援していた梶原さんは、翌週も博多の森でサガン鳥栖ユースの試合があることを知り足を運んだ。試合はアビスパ福岡に大敗。しかし、梶原さんがユースの魅力に取りつかれるのに時間はかからなかった。

 太鼓を叩いて選手を鼓舞するのは時任寛貴(大分在住)さん。サッカーをスタンドで見始めたのは、ディビジョン2が開幕してからだった。地元、大分トリニータの試合を中心に観戦していた時任さんだったが、素晴らしいと評判の鳥栖スタジアムを見にやってきて、サガン鳥栖に惹かれた。しかし、サッカーについて知らないことも多かった。そこで、1試合でも多くサッカーを見ようとユースの試合にも足を運ぶようになる。そして、いつの間にかコールを始め、いつの間にか歌い始めていた。

「いつもユースの試合を見にスタジアムに行くと、彼が1人で応援しているんですよ。ちょうどトップの応援コールや歌を覚えようと思っていたので、これはいいやと思って」(梶原さん)。もともとサッカーが好きな者同士。2人が一緒に応援を始めるまでには、それほど時間は必要ではなかった。自前の横断幕を広げ、大会本部から選手の名前を教えてもらってネームボードを作成したら準備完了。90分間、ただひたすら声援を送りつづける。その熱心さはトップチームのサポーターに優るとも劣らない。



 そんな2人にも仲間が出来た。サガン鳥栖のホームゲームの時に、サポーターが運営するミニFM局のアナウンサーを務めている西川光弘さんだ。最初は放送のネタ探しにやってきただけだったのだが、「試合当日の話の足しになればと思って行ったら、結構、選手たちの意気込みが伝わってきた」と言う。それ以来、鳥栖市で行われるユースの試合には必ず足を運び、2人とともに声援を送っている。

 そしてもう一人が斎藤(熊本在住)さん。とにかくサッカーが好きだという斎藤さんは、カテゴリーにこだわらず、ありとあらゆるサッカーの試合を見て歩いているという。ユースの試合を見始めた理由を次のように語ってくれた。「1月、2月はトップの試合がなく週末が暇になってしまって。とにかく何かサッカーが見たいなということで」。そこで2人と知りあった。以来、ユースの試合があるときは、バイクを飛ばしてどこまでもユースチームを追いかけている。

 さて、そんな彼らにユースの魅力を尋ねてみた。時任さんは語る。「1年生だった選手が3年生になって。ずっと見ているから選手たちが成長しているのが分かる。少しずつ力がついて、ちょっとずつ近づいたり。それを感じる楽しさがある」。梶原さんも、ユースの魅力は毎試合毎に選手の成長が感じられることだという。そして、サッカー未経験者ながら、自らも会社のサッカー部でプレーする梶原さんは、こうも続けてくれた。

「Jリーグのプレーは(レベルが高すぎて)全く参考にならない。だけど、ユースレベルだと一生懸命やろうとしていることが分かる。監督の指示なんかも間近に聞こえる。だから、『ああ、こうやるんだ』と。それにユースの試合は集中開催。時間さえあれば、1日に3試合も見られる。トップチームの試合では絶対にないですよね。3試合あると、応援するのが1試合。あとは、ずっと見て楽しめるし、自分の勉強にもなる」。本当にサッカーが好きなのだ。



 梶原さんも、時任さんもユースの試合だけを観戦しているわけではない。トップチームも九州リーグだって観戦している。とにかくサッカーが好きなのだ。それでも、試合が重なったときはユース優先。しかも、どんなところで試合があろうと必ずスタジアムに駆けつけて、いつもと変らぬ声援を送り続けている。そこまで2人を惹き付けるユースチームの魅力とはなんなのだろう。それは、選手に対する思い入れなのだと2人は言う。

「個人的には近いんですよね。思い入れとかが1、2年のうちに出来てしまって。去年より今年というように活躍していのを見ると、『おっ、上手くなったな』とか、そんなところが見えるから、ついつい。それに試合数が少ないし、見逃すとVTRでは見られませんからね。生で見る以外に方法がないんです」(梶原さん)。

「去年、一昨年と見続けていたから、それに対する思い入れです。以前、7〜8ヶ月間、負けつづけていたことがあって、ようやく勝利したときは嬉しかったです」(時任さん)

 だから週末になると、2人はどこで試合があろうと必ず試合会場へ駆けつける。ユースの試合会場はJリーグと違って交通の不便なところで行われることが多い。見に行くといっても、九州中を駆け回るのは大変なことだ。また設備が不十分なため、雨が降ればずぶ濡れになり、スタンドもなく応援する場所に困ることもある。しかし、2人はひるまない。誰かに認められ、誉められるわけでもないが、ただ好きなサッカーに熱中し、少しずつ成長していく姿を後押しするためにだけスタジアムに足を運ぶ。

 その熱心さに、いまでは、選手や、その家族、そして運営本部の役員の方たちからも声をかけられるようになった2人。しかし、決して深入りはしないと言う。「サポーターとして知らなくていい情報は知らないようにしている。家族の人と話すといっても、たまたま会場であってサッカーの話をする程度。試合会場で応援するだけ。それ以上の接点は持ちません」(梶原さん)。自分たちの声援は選手たちの成長を手助けする「何か」のひとつに過ぎない。だから、それ以上のことは求めない。それが2人のスタンスだ。



 ところで、サガン鳥栖ユースを応援しつづける2人だが、彼らは他のユースチームの成長や頑張りにも、同じような思い入れがあるようだ。試合で戦うことはあっても、同じサッカーをプレーする仲間同士。他のチームの成長も2人にとってはかけがえのない喜びでもある。大分に住む時任さんは、サガン鳥栖との直接対決以外では大分トリニータユースを応援している。梶原さんも、トリニータにもアビスパにも頑張って欲しいと話す。

 そんな2人が経験した出来事の中で、どうしても許せないことがある。それは、あるチームと対戦したときに、相手チームのサポーターが必要以上にサガン鳥栖の選手に罵声を浴びせ、また、審判に対して度の過ぎたアピールをしたことだ。梶原さんは、その時のことを話してくれた。

「厳しい見方はあってもいいと思う。トップに入ったら容赦はしない。ブーイングもありだろう。でも試合中は別にして、試合が終わったら拍手だし、審判に対しても終わってからも執拗な批判をするのは個人的にはいただけないと。それを見た時、一緒に応援しようとは思えなかった。トップチームの選手なら、やられたら、それをプレーで跳ね返すことが求められるけれど、ユースの選手に、そこまで求められてもと思いますね」。

 さて、ユースの選手たちの成長と、未来へ羽ばたく瞬間を見守ることに大きな喜びを感じてチームを支え続ける2人。試合が終わると、サガン鳥栖のサポーターのサイトに試合結果と、次節の予定を書き込んで、多くの人たちに観戦してもらうように呼びかけることも忘れない。ユースチームはプロではない。だから「観客が入ってナンボ」ということではないのだが、やはり、大勢の観客の中でプレーすることは選手たちの励みでもあり、また彼らの成長を促す力にもなる。

 興味をもたれた方は、是非スタジアムに足を運んでもらいたい。そして、2人と一緒に大きな声で選手たちに声援を送って欲しい。ユースの選手たちは、その声援で何かを掴み、そして大きく羽ばたいていくことになるのだから。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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