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 福岡通信 02/07/12 (金) <前へ次へindexへ>

 アビスパ福岡の敵は、自らの中にいる。それでも1年でJ1を目指せ!


 文/中倉一志
 試合終了を告げるホイッスルが鳴った。思わず万歳をする新潟イレブン。その場にしゃがみこむ福岡の選手たち。なんとも表現しにくい感情が私を包む。少しも負けた気がしない。しかし、勝てた試合だったのかと問われれば否と答えざるを得ない。クロスバーや、相手GKの攻守に阻まれたシュートもあるにはあったが、得点を奪える気がしなかったからだ。そして、何をしたかったのかと問われれば、私には分からないと答えるしか術はなかった。

 久しぶりに見るJ2の試合。いつもの開幕戦同様、自分自身に試合をレポートするに足る観察力はあるのか、そんなことを気にかけながら集中して観ていたつもりだった。しかし、いつもならメモで一杯になるはずの取材ノートが、いっこうに埋まらない。「立ち上がりから激しく攻める福岡。守備のことなど構っていない」。「福岡のDFラインの前に広がるスペースを利用して上手くカウンターを仕掛ける新潟」。そうメモをしただけで、あとはシュートを放った時間帯だけが書き込まれていった。

 第16節、博多の森に現れた福岡は、今シーズン一番の出来のように見えた。ボールも動いている。互いの連携らしきものも生まれつつある。先発出場を果たしたFW山田の動きも悪くない。中断前は、DFのオーバーラップがほとんど無かった福岡だが、この日は内藤が攻めあがるシーンも見られた。新加入のサボのディフェンスは安定感がある。不満といえば、同じく新加入の三原を誰も見ようともしないことだったが、それでも、組織とは無縁だった福岡にとっては、何かの流れが生まれつつあるようにも見えた。

 しかし、なぜかわくわくしない。なぜかピッチに引き込まれるような気がしない。冷静に振り返れば、サイドを使えないのはこれまでと同じ。ポストに当てても、カウンターを仕掛けても、後方からの押上げが遅くボールホルダーが孤立する。相手DFが待ち構えているところへクロスを放り込むのもいつもと同じだ。中盤のルーズボールを拾えず、相手の攻撃に対しては中盤の守備が機能せず、あっという間にゴール前まで押し込まれる。見かけはともかく、そこには実態の変わらない福岡の姿があった。



 続く第17節の山形戦、案の定、福岡は勝ち点3を得ることが出来なかった。開始早々の2分に江口が先制点を挙げながらも2点目を奪うことが出来ない。下位チーム相手に試合をコントロールすることが出来ず、むしろ押し込まれるシーンが目立つほど。虎の子の1点を守るべく逃げ切りを図ったが、試合終了まで20秒というところで同点弾を見舞われた。2点目が奪えない攻撃陣。1点が守りきれない守備陣。今シーズン、何度となくくり返されてきた内容と変わりはなかった。

 現在、J1昇格の権利を与えられる2位以内につけているのは、勝ち点44で首位を独走する大分と、勝ち点34の新潟。福岡は、それぞれに20、10の勝ち点差をつけられた5位に低迷している。残り試合は27試合。数字の上だけならJ1昇格の可能性は十分に残されているとも言える。しかし、それを現実のものとするためには、次節から上位チームが福岡のように低迷し、かつ福岡が大分のように勝ち続けていくことが最低条件になる。このハードルが高いのか、低いのか。改めて語るまでもないだろう。

 ありとあらゆる面で、考えうる範囲の最悪の事態が発生した。これがいまの福岡を表現する上で最も適している言葉だと思う。根本的な原因は、GM不在が象徴しいるようにフロントが組織として成り立っていないことにある。それに加えて、疑問符がつく監督の指導力、選手同士の連携のなさやパフォーマンスの低さ、さらには、スタジアムの雰囲気が以前のように一枚岩になっていないこと等が重なり合って、福岡は出口の無いトンネルに陥っている。

 突き詰めていけばフロント改革を実行に移すしかないのだが、組織の構造改革には時間と情熱が必要。例え積極的に取り組んだとしても、今シーズン中に劇的に変わることはあり得ない。解決すべき課題が分かっていながら直ぐに解決できない現状に、サポーターやファンのイライラはつのるばかりだ。当然のように矛先はチームをまとめきれない今井監督に向けられるのだが、監督も現状を打破する術を持っていないように見える。



 現状では福岡にJ1昇格の道は見えていない。「チームはだんだん良くなっている」と今井監督は何度も繰り返すが、むしろ、試合を重ねるごとに昇格の可能性が遠のいていく感が強い。三原とサボの加入は明るい兆しを与えたが、チームそのものは以前と何も変っていない。最後のチャンスと思われたワールドカップ中の2ヶ月間の中断も、福岡は有効に使うことができなかったようだ。これからハードな日程が続く。チームの建て直しに要する時間はない。

 それでもなお、私は「1年でJ1を目指せ」と言いたい。それがクラブの責任であるからだ。シーズン開幕前に福岡は1年でJ1に復帰することを大前提にして、スポンサー企業には昨年までと同じ支援を、そしてサポーターやファンには今まで以上の応援を要請した。福岡を愛する人たちは、一抹の不安を抱えながらもその言葉を信じ、そして様々な支援を行っている。にもかかわらず、その約束を反故にするようなことは許されることではない。

 そもそも、フロントの構造改革など自らの自浄作用で行うこと。それが原因で結果が出せないようなら一般企業ならとっくに消費者からそっぽを向かれる。そうした企業が、どのような末路を描いたかは口にするまでもないだろう。確かにフロントの改革は必要不可欠だ。しかし、それだけが今シーズンの低迷の原因ではない。監督も、現場スタッフも、そして選手たちも、シーズン前に「1年でJ1」と公言したはず。ならば、どんな状況でも責任を果たす。それがプロだ。

 クラブの経営理念、それに沿った中長期的な経営指標の作成、そして、それを実現するための人材育成。これらはフロントの仕事だ。しかし、短期的な目標、すなわち、目の前の試合を勝ち抜いていくのは現場の責任だ。多くのサポーターが嘆くように、福岡がこんなチームになってしまったことに対してフロントは猛省する必要があるが、当面の試合に勝てない責任は現場にある。このメンバーで戦わなければならないことは、最初から分かっていたことなのだ。



 福岡が勝てない原因は個々の力が劣っているからではない。個々の力を結集できないことにあるのだ。課題は両サイドを使えないこと、ボールホルダーに対するフォローが出来ていないこと、そして、DFラインの前に出来るスペースを自由に使われていることとハッキリしている。こうしたことは、1人ひとりがポジショニングを意識したり、互いの約束事を徹底させることで解決できるはず。同じことを繰り返しているだけならプロではない。

 こうしたことを先頭にたって修正するのが監督の仕事だ。もちろん、それは今井監督だって理解しているだろう。監督なりのポリシーもあるだろう。しかし、就任以来、半年以上経っても何も変っていない現実を厳しく見つめる必要がある。いまのやり方では同じ結果しか出ないのは既に明らか。しかし、チームの実情と現在の時期を考えた場合、今更、より優れた監督を招聘できる可能性は低い。ならば、いまの今井監督には、誰の目にも分かるように自分を変え、そしてチームを劇的に変革させる以外に道は残されていない。

 選手の責任も同様に重い。盧廷潤が動きすぎるとの批判も多いが、その一方で、彼以外に動く選手がいないことも事実だ。そのため、ボールホルダーは孤立し、MFが両サイドに開いた後のスペースを誰もケアするものがいない。FWも前線に並んで張り付いているだけ。前後の厚みや、バランスなどは全く無視してしまっているかのようだ。互いの意思を伝え合い、修正し、時には厳しく指摘する。それは選手同士だって出来ることだ。

 サポーターやファンは、福岡がJ1昇格を目指して力の限り戦う姿を待ち望んでいる。フロント、監督、現場スタッフ、そして選手たちが、責任を持って自分の役割を果たし、そして互いに補い合って戦うことを望んでいる。勝てないから苛立っているのではない。J1昇格を口に出すに値するだけの頑張りと努力を見せないから苛立っているのだ。福岡の敵は自分たちの中にいることを自覚して欲しい。今の現状は自分たちで作り出したことを自覚して欲しい。そして、これが最後の激になることを祈らずにはいられない。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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