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 福岡通信 02/08/02 (金) <前へ次へindexへ>

 ワールドカップでの再会を誓って
 第8回JASカップ少年サッカー大会

 文/中倉一志
 強い日差しと30度を超す猛暑などものともせず、子供たちは元気一杯にボールを追いかける。小学生とは思えないテクニックの高さと息の合ったコンビネーション。見事なスルーパスを受けてゴールを狙う姿は未来のJリーガーを予感させる。その熱気と興奮は、軽い気持ちで訪れた私をあっという間に夢中にさせた。第8回JASカップ少年サッカー大会。今週は7月27日、28日の2日間に渡って開催された大会の模様をお伝えしたいと思う。

 JASカップ少年サッカー大会は、久留米市(福岡県)と鳥栖市(佐賀県)のサッカー協会によって主催されている小学校5年生以下の大会。県境を越えたサッカー愛好者を中心として、子供たちのスポーツの楽しさを提供する場所として始められた。今年で8回目を数えるが、第2回大会以降、久留米市の友好都市である中国の合肥(ハーフェイ)と、同じく久留米市の青年会議所の友好都市である韓国の大邱(テグ)からもチームを招待し、子供たちに国際交流の場を提供するという貴重な役割も担っている。

 大会には合肥と大邱から2チームずつの招待チームを加えた32チームが参加。まず4チームずつに分かれた8ブロックでトーナメント戦を行い、それぞれのブロック優勝チームが鳥栖スタジアムで行われる決勝トーナメントに進出する。優勝するためには2日間で5試合を消化しなければならず、15分ハーフの試合とはいえ、子供たちにとっては少々ハードな日程になっている。しかし、好きなサッカーを思う存分出来るとあって、子供たちは疲れも見せずに最後までボールを追いかけている。

 この大会を取材するのは実は2回目。福岡に住まいを移したばかりの頃、私が初めて取材した少年サッカーの大会がJASカップだった。当時は、のんびりとした雰囲気が感じられたのだが、3年ぶりに訪れてみると以前よりも国際試合という雰囲気が色濃くなっているようだ。もちろん、サッカーを通して交流を図るという雰囲気は変らずに残っているが、そこへ、違う国同士が自分たちのサッカーをぶつけ合うという側面がプラスされているようだ。これもワールドカップの影響なのかもしれない。



 さて、厳しい戦いを勝ち抜いて準決勝に進出してきたのは、小川ジュニアFC(熊本)、稲香村(タオシャンツン)小学校(合肥)、南FCトータスJr(久留米)、花園(ファーオン)初等学校(大邱)の4チーム。どこも甲乙つけがたい実力チームだ。一段と目を引くのは稲香村小学校。とにかく大きい。日本や韓国の子供たちと比べると、ひと回りどころか、ふた回りほど大きい。中国は9月から新学期が始まるため、5年生といっても日本や韓国では6年生に当たる子供たちがいるかららしいが、その体格は脅威の的だ。

 その稲香村小学校と準決勝で対戦したのが小川ジュニアFC。準々決勝では大邱の玄風(ヒュンプン)初等学校を下して準決勝まで進出してきた。ベスト4に進出してきたチームの中では最も洗練されたチームだった。しかし、さすがに体格の違いはどうにもならなかったようだ。両サイドを上手く崩すのだが、強いボディコンタクトとプレッシャーを跳ね除けることができなかった。結局、試合は2−0で稲香村小学校が勝利を収めた。

 もうひとつの準決勝は昨年の決勝戦の再現となった。2連覇を目指す花園と雪辱を狙う南FC。ともに一歩も譲らない戦いは今大会一の大接戦となった。花園の攻撃は左サイドが中心。豊富な運動量とアグレッシブにゴールを目指す姿勢は韓国代表そのもので、序盤から激しく南FCを攻め立てた。しかし、南FCも一歩も引かない。花園に劣らない運動量で必死にボール喰らいついていく。11人全員が自陣に引いて、しかも、ところせましと動き回って守るのだから、さすがの花園もゴールを奪うことができなかった。

 結局決着はPK戦へ。しかし、ここでも勝負は決まらない。そして、両チームとも誰も失敗せずに迎えた7本目、南FCが外したのに対し、花園がきっちりと蹴りこんでようやく決着がついた。「勝利に対する意識というか、執着心というのは子供たちの段階でも韓国のほうが上みたいですね。土壌が違うというか、日本はきれいなサッカー、韓国の場合は、それプラス勝利が入っている。この差が最後にでたかな」(田中雄一監督・南FC)。しかし、その差はわずか。両チームともに勝たせてあげたかった試合だった。



 注目の決勝戦は中国代表と韓国代表の試合になった。準決勝を観た段階では、スピード、技術に優る花園の勝利と予想したのだが、やはり、体格差が大きくものを言った。制空権は完全に稲香村小学校のもの。花園がスピードで勝負を仕掛けても、大きな身体を寄せてスピードを殺してしまう。さすがの花園もフィジカルコンタクトとプレッシャーの強さの前に、自分たちの持ち味を発揮することができなかった。結局前半の6分にゴール前の混戦からゴールを奪った稲香村小学校が初優勝を飾った。

 初優勝を飾った稲香村小学校の劉淮(リュウ・ワイ)監督は大会をこう振り返ってくれた。「日本の子供たちは、小さいにもかかわらず技術では韓国にも中国にも負けていないと思います。しかし、就学の時期が違うため、我々の中には6年生も入っているので、その年齢差が出たんじゃないでしょうか。また、韓国のチームは去年の優勝チームで、戦術、コンビネーション、勝利への意識等が浸透していて、かなり強いチームだったという印象です」

 そして、さらに次のように続けてくれた。「去年から参加していますが、今年も招待されてから、子供たちは夏休みも休まずに毎日練習をしてきました。そして、昨日の試合と今日の試合を通じて、子供たちはこのような大会に参加することが出来てよかったと思っています。また、運営委員の皆さんが、少ない人数にもかかわらず、効率よく組織的に動いていただいて、滞りなく順調に試合をさせてもらったことに対し、委員の皆さんに心から感謝の意を表したいと思います」

 また、キャプテンを務めた宛浩(ウァン・ハオ)君は、「優勝できて嬉しいです。厳しい練習を経て優勝を得ることが出来ました。まだ欠点はあるので、これから頑張って補いたい。日本にも見習うところは多いし、韓国も強いチームだったと思います。最初から優勝する自信はなかったが、『意思さえあれば道は開ける』という例えどおり、目標を決めたら必ず成功すると信じていました」と優勝の喜びを話してくれた。しかし、小学校5年生の言葉とは思えないほどしっかりした態度に、ちょっと驚かされた。う〜ん。



 さて、試合会場を取材していて気づいたことは、日本、韓国、中国のそれぞれのお国柄がとてもよく表れていたということだった。稲香村小学校の劉淮監督は、試合中も、そして他の試合を観戦しているときも、厳しい顔をして大きな声で子供たちを叱咤激励していた。おそらく日本でなら、子供を萎縮させると批判する人もいるだろう。また、決勝戦で敗れた花園の子供たちは、決勝戦後、しばらく壁のところに立たされていた。これも日本なら顔をしかめられる行為かもしれない。

 しかし、お話を伺って見ると、両監督とも本当に穏やかな方で、子供たちのことと、サッカーを語る時の表情は実に穏やか。勝利を目指して戦ってはいるが、必ずしも勝利至上主義の方たちではなかった。世界には200を越す国々がある。それぞれの国には、それぞれの事情や規範があり、当然のように、それぞれの行動には違いが表れる。そんな行動を日本と比較してもあまり意味がない。大切なことは、自分たちと違う考えや行動があるということを素直に受け入れることなのだろう。

 小川ジュニアFCの宮崎雄二監督は「(国際交流は)素晴らしいことだと思います。やはり近くの子供だけやってますと、考え方も小さくなりますし、いろんなサッカーがあるんだということを知るということは大切だと思います。相手の監督さんも、相当大きな声を出して叱咤激励されてましたけれど、ああいうのもひとつの文化でしょうし」と話す。そして花園のべ・シルヨン監督に今大会の印象をたずねると、「日本の子供たちがサッカーを楽しみながらやっていることが、とても印象的だった」と話してくれた。

 また、この大会に参加する中国と韓国の子供たちは、大会期間中日本の家庭にホームステイすることになっている。日本語を話せる子供はいないが、それでも積極的にコミュニケーションをとっているようだ。「去年試合に連れてきた子は、いまだにホームステイ先のお父さんとお母さんのことを話している。授業で教えるよりも、直接交流することによって経験したことは生きた勉強になる」(花園・べ・シルヨン監督)。こうして築いた財産は子供たちにとってかけがいのないものになるはずだ。

 この大会に出た子供たちが選手として絶頂期を迎えるのは後10数年先のことだ。その時、ワールドカップの舞台で、それぞれの国の代表としてピッチの上で再会できたらどんなに素晴らしいことか。大会を終えた後、ふとそんなことを考えた。それを中国、韓国の監督たちに伝えると、みんな満面の笑顔を浮かべて強く握手を求めてきた。言葉や文化が違ってもスポーツはひとつ。今度はワールドカップの会場で握手を交わしたいものだ。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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