topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 福岡通信 02/08/09 (金) <前へ次へindexへ>

 新たなる旅立ちの時


 文/中倉一志
 世界に類を見ない、長く厳しいスケジュールのJリーグ・ディビジョン2。そのJ2がようやく折り返し地点に到達した。22節を終えた時点でトップに立ったのは勝ち点51の大分、これを新潟(同44)、C大阪(同42)、川崎(同38)が追いかけるという展開でJ1昇格レースが争われている。しかし、「1年でJ1」という目標を掲げた福岡の前半戦を終えての成績は勝ち点28の6位。某サッカー専門誌では、担当記者にまで「もはやJ1復帰の目標は夢へと変った」と書かれる始末だ。

 福岡の今シーズンの戦い方を見る限り、残念ながら、現在の成績は決して予想の範囲を超えるものではない。しかし、昨年の11月24日の万博記念競技場でJ1への復帰を誓い合った時、そして不安を抱えながらもシーズン開幕を迎えた時でさえ、ここまで不振に陥ると予想した者はいなかっただろう。だが現実は予想以上に厳しかった。狂った歯車は次から次へと連鎖反応を生むかのようにチーム状態を悪化させ、あっという間にどん底まで来てしまった。

 ここまで来る前に手が打てなかったのかという思いは強い。厳しい言い方をすれば、目標を達成するための手を最初から打っていなかったのではないかと考えざるを得ない部分もある。勝負を争う厳しいプロスポーツの世界にあって、何もしないことは後退を意味する。そういう観点から言えば、現在の結果は当然の結果と言えるだろう。それでも、いっこうに改善する気配が見えないアビスパ福岡に対し、普段はあまりアビスパ福岡のことを取り上げることのない地元メディアからも批判の声が強まっている。

 問題は山ほど噴出している。GM不在は解消されないままで、新しい監督も決まらない。早く体制を整えて欲しいという声はあちこちで聞こえている。しかし、最大の問題は、アビスパ福岡が組織としての機能を失ってしまっていること。この状態でGMを招いても、新監督を招聘しても結局は同じことの繰り返しになってしまうだけだ。組織を組織として機能させ、全員が一丸となって問題を解決できる体制作りを整えることが急務であることは間違いない。



 アビスパ福岡は、経営陣を市役所や支援企業からの出向者でまかなっているが、もともと、出向者で固める企業というものは問題を多く抱えるものだ。サラリーマンというものは、長年にわたって仕事をしていくことで、ものの考え方や判断基準というものを身に付ける。しかし、それは所属する企業の理念や価値に裏付けられるものであり、例え同業種であっても会社が違えば、その価値基準は大きく異なる。そうした違った価値基準を持った人間たちが集まって物事を判断するのだから、そう簡単に意見が一致することはない。

 まして、利潤を追求する一般企業と行政をつかさどる市役所とでは、その価値基準が異なっているのは当然のこと。にもかかわらず、一般企業であるアビスパ福岡を市役所と同じ価値基準で裁こうとすれば無理が生じる。しかし、問題が生じても、その問題を解決できなくても、出向者の処遇は出向元の意向に左右され、アビスパ福岡の経営状況と直接にはリンクしない。これでは、「ことなかれ主義」や「無責任」と取られかねない言動が現われるのも不思議ではない。出向そのものを否定する気はないが、ややもすると当事者意識に欠けるのも出向のひとつの側面なのだ。

 なるほど、人事異動の一環として全く畑違いのアビスパ福岡へ出向させられ、しかも任期が終われば出向元に帰される。これを繰り返していたのでは、アビスパ福岡に長期的ビジョンが生まれにくいのも分からなくもない。在任中に無難な行動、すなわち、問題を積極的に解決しようという行動に出ないことも、ある意味では必然なのかもしれない。しかし、企業として活動をする以上、どんな事情があっても、経営者としての責任を全うするのが義務。必要なのは「無難さ」ではなく、新しい物を作り出そうとするバイタリティだ。

 畑違いであろうと、昨日までサッカーのことを知らなかろうと、経営に携わることになった以上、その道のプロになるのは当然のこと。ましてアビスパ福岡は「おらが街のチーム」として多くの人たちに夢と希望を与え、スポーツを通じて新たなコミュニケーションを作り上げる起点となる大事なチームだ。経営陣には、自分たちが背負っている責任の重さを認識して欲しい。かつて西鉄というプロ野球チームを手放さななければならなかった辛い過去を持つ福岡なら、アビスパ福岡の存在の重さは理解できるはずだ。



 現在、7月に専務取締役に就任した前野文雄氏が積極的にフロント改革に精を出していらっしゃると聞く。その行動力、決断力に期待するサポーターも多い。しかし、1人で出来ることには限度がある。この機会に経営陣が一致団結して前野専務をサポートし、フロントの構造改革に手をつけなければ、また今までの繰り返しになりかねない。1日も早く意識改革を行い問題の解決に当たることが求められている。それが出来ず、これ以上混乱が続けば、存続の危機が囁かれ始めるのは遠い先のことではない。

 GMを専任することも大事だろう。新しい監督を招聘することも一刻を争う。しかし、クラブの方針が決まらなければ、誰を招くべきかが決まらない。クラブが一丸となってGMや監督をバックアップする体制を作れなければ、誰も福岡にはやってこない。目先の問題だけを解決したのでは今までと変らない。しかし、だからといって長い時間はかけられない。構造改革を実現するには数々の困難があるが、これが最後の機会だ。いま変わらなければ二度と変われる機会はやってこない。

 もちろん、経営陣だけではなくクラブに所属する全ての職員も同じ気持ちで行動することも必要だ。クラブはいまスクランブル体制、ひとり、ひとりの職員が当事者意識をもってカバーしあっていかなければ構造改革は思うようには進まない。自らの職務は、経営陣同様、クラブを本当のプロのクラブにすること、担当職務は単なるその手段に過ぎない。目的と手段をはき違えず、そして目的をしっかりと見据えれば、やるべきことはおのずと見えてくる。

 そして選手たちもプロである以上、どんなに状況が悪くてもピッチの上で結果を出すことに全力をあげなければならない。昇格の可能性があるか、ないかは問題ではない。目の前の試合に持てる力の全てを注ぎ込んで勝利を目指すのがプロとしての姿勢だ。その延長線上にJ1昇格があり、強いクラブとしての成長がある。人間である以上、回りの環境やゴタゴタが影響することもあるだろう。しかし、それでもなお結果を出すことを望みたい。それがプロというものだ。



 ところで、7日に行われた第23節の試合で、博多の森のサポーターの中心的存在であるウルトラ・オブリとエスコティーバが応援ボイコット行動を取った。そして、メインスタンドA席の前には「ガチンコサッカークラブ、3ヶ月で本物のプロサッカークラブを作ろう!」の横断幕が下げられた。単なる怒りからの行動ではない。チームの現状を憂い、チーム存続の危機を訴え、フロント改革を本気で行って欲しいという切実な思いを伝えるために取った行動だった。

 それは、サポーター自身がクラブのどん底状態を胸に刻み込んで、これから上を向いて頑張る為の再出発の場にするという意思表示でもあった。これをきっかけに、クラブとサポーターとが本当に一丸となって行動できる環境を作ろうという願いを込めたものでもあった。これまで何度もフロントとの話し合いの場を設けて危機を訴えてきた彼らにとっては不本意な行動であったことだろう。それでも、事前に選手たちに行動の意味を説明し、断腸の思いでとった応援ボイコット。彼らの気持ちがフロントに伝わったと信じたい。

 そんな彼らとは別に、思い思いの場所で拍手を送り、大声を張り上げて声援を送るサポーターたちもいた。もちろん、彼らの思いも同じだったはずだ。「おらが街のサッカークラブ」が直面している危機を何とか乗り越えたい、自分たちの誇りと夢をかけたチームに輝きを取り戻して欲しい、誰もがそう願っている。フロントも、選手も、そしてサポーターも、みんなが当事者意識をもって取り組まなければ事態は改善しない。取った行動は様々でも、博多の森に集まった5,210人のその思いに違いはなかったはずだ。

 一度噛み合わなくなった歯車を元に戻すのには、とてつもないエネルギーがいる。スタジアムが一体となった、あの熱狂を取り戻すのは簡単なことではない。しかし、サポーターたちがアビスパ福岡を支えている原点を忘れずに博多の森に通い続ける限り、あの熱狂の日々は必ず帰ってくる。それを信じて、ウルトラ・オブリもエスコティーバも、間もなく熱い応援を再開することだろう。同じように、それ以外のサポーターもチームに声援を送り続けることだろう。そんな思いにフロントが応えないわけはない。そう信じたい。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送