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 福岡通信 02/09/13 (金) <前へ次へindexへ>

 踏み出した確かな一歩


 文/中倉一志
 「サッカーの試合で勝つことがどれだけ大変で、こんなに嬉しい試合はない」。中村監督の言葉通り、監督、選手、そしてサポーターにとって、これほど待ちわびた勝利はなかっただろう。最後に勝ち点3を挙げた8月7日の湘南戦以来35日目、チームの再建を託された中村監督が就任してから6試合目の勝利だった。大きく揺れ動く福岡を声援しつづけるサポーターの間では「内容はよくなってきた」との声が聞かれていたが、やはり勝利の味は格別だ。

 チーム状態はどん底。加えてハードな試合スケジュール。チームを立て直す十分な環境も時間も整っていない中で、中村監督はチームを一歩ずつ前進させてきた。システムを3バックに変え、トップチームとサテライトの区別をなくし、補強で獲得した選手たちを効果的に起用した。この日のスタメンの平均年齢は25.9歳。今井元監督の最後の試合となった21節の水戸戦に出場した選手は5人しかいない。静かに、しかし大きくチームは変わっていた。

 この日の福岡は、最終ラインに右から川島、サボ、飯島の3人を起用。WBは右に宮本、左に三原が構え、ワンボランチには篠田。トップ下は宮原と宮崎の2人。そして、アレンと江口が2トップを組んだ。攻撃のパターンは大きく分けて3つ。宮原を起点にした両サイドからの攻撃と、スピードを生かした宮崎のDFの裏への飛び出し。そして、最終ラインから一気にDFラインの裏へボールを放り込むというものだった。

 そして立ち上がりの7分、福岡は狙い通りの展開からチャンスを掴む。ロングフィードに反応した宮崎がDFラインの裏へ飛び出してボールを受け、そこからアレンへマイナスのパス。これをアレンが右足でゴールを狙う。シュートはGKに阻まれたが、きれいに相手を崩した展開だった。そして、これを契機に福岡が試合を支配することになる。反対サイドを意識したサイドチェンジ。スペースへの飛び出し。チャンスには素早くダイレクトでつなぐパス。決して精度は高くないが、今までに見られなかったプレーが随所に見られるようになっている。



 先制点は36分、福岡は優位に試合を進めながらも決め手に欠いていたのだが、一瞬のチャンスをアレンがものにした。最終ラインでボールをキープする川島が狙い済ましてDFラインの裏へボールを送り込むと、そこへ走りこんだアレンが難しいボールを右足でプッシュ。シュートはGKの頭上を越えてゴールマウスに吸い込まれた。その直後の40分、アレンと川島の連携ミスからあっけなく同点にされ嫌なムードが漂ったが、三原の左足が、そんなムードを吹き飛ばした。

 時間は43分、福岡DFのクリアボールを宮原、宮崎とヘッドでつないでアレンへ。そのアレンが左へラストパスを送ると、後から走りこんできた三原が左足を一閃、ゴールネットを揺らしたのだった。最初のクリアの時点では最終ライン近くにいた三原だったが、ボールが左に出ることを確信していたかのように、長い距離を一直線に走りこんできた見事なプレーだった。この試合には、勝負を左右する大きなポイントが3つあったが、これが最初のポイントになるプレーだった。

 次のポイントは62分の小島の投入だった。前半、ゴールシーン以外は何もいいところがなかった水戸は51分、FW吉田に代えて秦を投入する。この交代で水戸の中盤が息を吹き返し小気味良いパスが回り始めた。これを掴まえきれずにマークがずれ始める福岡。しかし、右アウトサイドに投入された小島は、ある時は中へ絞って相手を潰し、ある時はサイドを駆け上がってチャンスを作り、再びリズムを福岡へ引き戻した。ベテランらしい落ち着いたプレーがピンチを救った場面だった。

 そして3つめは太田の投入だ。効果的なカウンターから試合を上手くコントロールしていた福岡だったが、互いの呼吸が合わないシーンが増え、守勢に立たされる場面が増えてきていた。そんな時間帯での太田の投入は再び相手を押し込むという効果を生み出した。前線でターゲットマンになる太田へボールを集めることで高い位置でボールをキープ、再び前へ出られるようになったのだ。そして、それに応えて、太田が最前線で存在感を示した。太田の投入以降、水戸に反撃のチャンスは訪れなかった。



 交代で出場した選手も含めて、ピッチの上でプレーした選手たち全てが自分の特徴を発揮できた試合だった。適材適所とはまさにこのこと。これほど全員が生き生きとしてプレーした試合は初めてのことではないだろうか。また、3人あるいは4人の選手が連携して、素早くボールを運ぶシーンが見られたのも大きな収穫だった。三原の逆転ゴールはまさに連携プレーが生んだゴール。そして、88分に太田のポストプレーから宮原、宮原のスルーパスから古賀、最後は古賀のクロスから宮崎のヘディングシュートと、4人で作った決定的なシーンは見事だった。

 もちろん課題もある。どうやってボールを運ぶのか、そして、フィニッシュの形がどうなるのかのイメージは選手同士で理解しているのは確かなのだが、残念ながら精度がまだまだ低い。また、微妙な感覚のずれなのか、わずかにボールの出し手と受けてのタイミングが合わないことも多い。2トップがしばしばかぶるのも気になった。さらには、DFラインの連携の悪さから、突然エアポケットに陥ったかのようにピンチを招く場面もあった。

 また、カウンター気味の攻撃ではいいテンポで形が作れるようになっているが、遅攻になったときに落ち着きが欠けているのは否めない。これは、高い位置でボールをしっかりとキープできないことが原因で、宮原のところで、もう少しゆっくりとボールをキープできる場面があってもいい。宮原個人の問題ではなく、全体のコンビネーションの問題なのだが、ここを改善できれば更に深みのある攻撃を組み立てることが出来るはずだ。

 しかし、そうした課題を差し引いても合格点はつけられる内容だったのではないか。練習時間が十分に取れず、チームの環境も整わない中で、ここまでチームの状態を上げてきたことは、むしろ評価すべきだろう。狙いはハッキリとしている。それを互いに理解もしている。それを意識したプレーもきちんと出来ている。そして狙い自体も決して悪くない。このまま精度を上げさえすれば、かなりの成果が期待できるのではないかと思わせてくれる内容だった。まだまだ満足するわけにはいかないが、後は時間が解決してくれるはずだ。



 さて、現在2位の大分との勝ち点差は23。3つ負け越しての8位という成績は、1年でJ1を目指すにはあまりにも厳しい数字だ。チームの改善が急ピッチで行なわれているとはいっても、上位3チームとの比較で言えば力不足は否めない。戦えるチームにはなったが、まだ勝てるチームにはなっていない。しかし、それでもなお、全力を挙げて目の前の試合に勝利することを目指せと言いたい。その時点で、なし得る最高の結果を求めることが戦う姿であるからだ。

 結果を問題にせずに戦って得られるものは少ないものだ。反対に、勝利を目指す中でしか得られないものは山ほどあり、それこそがチームを成長させる糧となるものなのだ。シーズンの終盤に入ると、来年のためのチーム作りや、将来に向けての体制作りという言葉が聞こえてくるが、当たり前のことだが、今を乗り越えなければ来年も将来もない。全ては今の結果に左右される。将来に備えることは欠かせないことだが、それは今をないがしろにしてもいいということではない。

 「目先の勝利」という言葉と「将来を見据えた育成」という言葉は対極として使われることが多い。しかし、この2つの言葉はチーム作りの対極にあるものではない。どちらが欠けてもチームというものは機能しなくなる、いわば車の両輪だ。「目先の勝利」だけを目指して成功したチームはないし、「将来を見据えた育成」だけのチームが強くなったためしもない。「目先の勝利」を追いつつ、「将来を見据えた育成」をすることが大事なのだ。難しいことかもしれない。しかし、だからこそ強いチームが出来上がる。

 この日の福岡は、間違いなく確かな一歩を踏み出した。Jリーグに参入してから最低の観客数を記録し、スタジアムを囲む博多の森からは秋を告げる虫の鳴き声が聞こえてくるさびしいスタジアムでの試合だったが、そんな中で、監督、現場スタッフ、選手たちは確かな手応えを掴んだはずだ。それは、大きな可能性を秘めた一歩だったはずだ。その可能性を花開かせるためには、残り試合で可能な限りの勝利を挙げることが必要だ。今こそが頑張りどころ。全力を挙げて目の前の壁を打ち破って欲しい。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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