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 福岡通信 02/10/04 (金) <前へ次へindexへ>

 命運を分けたPKの判定 〜第17回九州大学サッカーリーグ第5節


 文/中倉一志
 早くも折り返し点を迎えた九州大学サッカーリーグ。第5節2日目となる29日には、大分スポーツパーク21で注目の一戦が行なわれた。対するのは、九州産業大学(以下、九産大)と、日本文理大(以下、文理大)だ。この日を含めて上位陣との対戦を4試合残す九産大は、ここからが正念場。前節では当面のライバル福岡教育大を破り現在4連勝中だが、紙一重の対戦相手との戦いをひとつずつ勝ち進んでいかないことには優勝が見えてこない。

 対する文理大は、ここまで3勝1敗。しかし、上位陣との対戦を既に3試合終えており、九産大との試合を終えれば、最終節の福岡教育大を残すだけ。福教大が調子を落としていること、文理大以外の上位チームが直接対決で星を潰しあうことを考えると、この日の勝利は優勝争いで圧倒的に有利な立場に立つこと意味する。しかし、敗れれば無敗を続ける九産大、鹿屋体育大学、そして1敗を堅持する福岡大学に遅れをとることになる。とにかく勝ち点3が欲しい試合だ。



 立ち上がりの10分、九産大MF萩原の直接FKが文理大ゴールを襲う。これはGKがファインセーブでCKに逃れる。文理大のお返しは16分、ロングフィードに反応してDFラインの裏へ飛び出した竹澤が絶妙なトラップを見せてGKと1対1に。しかし、狙い済ましたシュートはゴールポストの左に外れた。互いに決定機を逃したが、ピッチの上には緊張感が溢れ、22人が高い集中力を保って試合を進めているのが手に取るように伝わってくる。

 文理大の持ち味は、高い個人技をベースにしたつなぐサッカー。むやみに放り込むことはせず、中盤でしっかりとつないでビルドアップする。シジーニョ監督をはじめ、スタッフをブラジル陣で固めていることもあって、そのパスワークはブラジルの香りが漂う。ボールを持つ技術に優れ、九産大のプレスをいなしてはボールをつないでゴールへ迫る。また守ってはスペースのカバーリングがしっかりしており、九産大のカウンターを許さない。

 一方の九産大は、いつものように中盤で激しくボールを追い、チャンスには縦へのスピードを生かしてカウンターからゴールを狙う。しかし、この日は慎重な立ち上がりを見せた。前節では左WBを務めた松本を左SBに下げて4バックで対応、中盤では文理大にペースを握られたが、最終ラインの集中力は高く、常に数的優位の状態を作って文理大に決定的なチャンスを与えない。まずはしっかり守ってチャンスを待つ。そんな戦い方を見せている。

 ともに高い集中力を見せる両チームの戦いは、相手の特徴を潰しあう展開で進んでいく。少しでも隙を見せれば、文理大は軽やかにパスをつないでゴールに迫り、九産大は縦へのスピードを生かして一気に駆け上がる。お互いにつぼにはまったときの攻撃力は実証済み。僅かな油断は致命傷になるのが分かっているだけに、一瞬たりとも集中力は欠かせない。そんな試合は、ピリピリした緊張感を漂わせながら前半を無得点のまま終了した。



 後半に入っても流れは変らない。試合は完全に我慢比べの様相を呈している。しかし、優勝を狙うためには勝ち点3が欲しい文理大と、引き分けでもOKの九産大の余裕の差が出たのか、次第に九産大が持ち味を発揮し始めた。文理大からは前半に見せた軽やかなパスワークが影を潜め、ややロングボールが多くなっている。文理大にとっては苦しい時間帯、そして九産大にとっては攻め込むチャンスだ。しかし、酒匂を中心に堅い守りを見せる文理大も最後の壁は譲らない。

 そして迎えた67分、ひとつの判定が試合の行方を決めた。文理大から見てペナルティエリアの左サイドにルーズボールが高く弾む。これを追いかける文理大の春井と九産大の桑名。2人は激しく肩でぶつかり合うと、その勢いで桑名が弾き飛ばされた。その瞬間、ファールを告げるホイッスルが鳴る。微妙なプレーだったが判定はPK。これを井出田が決めて九産大が待望の先制点を奪った。そしてその直後、この判定に異議を申し立てたとして酒匂が2枚目のイエローカードを受けて退場処分に。文理大にとっては余りにも痛すぎる判定だった。

 それでも逆転を目指して文理大は激しく攻撃に出た。その運動量は10人で戦っているのを感じさせないくらいだった。しかし40分、攻めに出たところでカウンターを喰らい、思わず竹澤が九産大の選手を掴み倒して一発レッド。これで勝負は決まった。この後、九産大は徹底的にボールを動かして文理大を振り回し、最後は文理大が動けなくなったところにだめ押しの2点目を決めて大事な一戦で勝ち点3をものにした。

 他会場では福岡大が沖縄国際大に8−1で大勝、候補同士の対戦では鹿体大が福教大を5−1と圧倒して無敗をキープした。この結果、優勝争いは九産大、鹿体大、福岡大が一歩リード、それに遅れて文理大、福教大、一経大が続く展開となった。勝てば優勝が見えていたはずの文理大のショックは相当なもの。シジーニョ監督は試合後もしばらくピッチを見つめてたたずんでいるだけだった。試合を分けたのがPKの判定だっただけに気持ちの整理がつかないようにも見えた。



 ところで、この試合では4枚のイエローカードと、2枚のレッドカードが提示されたが、提示されたイエローカードのうち2枚は「審判に対する異議」によるもの。52分、文理大の松園が前線でボールを胸トラップしたところ判定はハンド。これが不服な松園は思わず、その場で「胸じゃん!!」と大声で叫んだところ、少し離れた位置にいた主審が、すかさずイエローカードを提示した。審判に対する異議に対し厳しい処分が課せられることは当然だが、この一言が異議に当たるのか、そうでないのかは議論が分かれるところだろう。

 もう1枚の「審判への異議」に対するイエローカードは68分に酒匂に提示されたものだった。これで酒匂は退場処分となったのだが、カードが提示された直後は誰が警告を受けたのか分からずに一度は全員がピッチに散った。その後、「審判!何番?何番に出たの?」と選手が主審に確認を求めた結果、それが酒匂に出されたものであることが分かり、酒匂がピッチの外へ出た。ピッチの上の選手たちが気が付かなかった言動が「審判に対する異議」にあたるのかどうか、これも議論が分かれるイエローカードだった。

 Jリーグ開幕以降、主審に対する問題が様々なところでクローズアップされるようになっている。それは、プロの世界だけではない。地方の名のない大会でも、なぜ、そのような判定になったのか理解しにくいことは多い。あの広いピッチを副審を含めた3人で裁くのだから、全てが完璧に行くはずもなく、それは誰もが理解しているのだが、どうしても一言言いたくなる判定が多いのは何故だろう?



 審判の判定そのものがおかしいなどと言う気はない。普段は誰からも注目されず、選手や観客が納得いかない判定をすれば、正しいかどうかの前に一方的に文句を言われる。こんな立場の審判という仕事を、しかもボランティア同然で引き受けるのだから、選手同様、彼らもサッカーが好きでたまらないことに間違いはない。試合後は、必ず反省会を開き、判定のひとつ、ひとつについてきちんと分析し、次の試合に備える彼らの姿は真摯だとさえいえる。

 では何故、そこまでしているのに不満が出るのか。簡単に言ってしまえば、互いの基準が異なっているから不満が残るのだ。選手がルールに対して正確な理解をしていないのか、審判が厳しすぎるのか、はたまた観客の身びいきが問題なのかは別な議論として、結果的に、判定に対する理解が違いすぎる。わずか17条しかないルール。接触プレーが多く、主審の死角になる場所も山ほどある。そんなサッカーでは、主審の主観に左右される場面が多いのは当然だが、この理解の差を埋めない限り、いつまでも不満は残る。

 立場は違っても、サッカーを好きな気持ちに変わりはない。ルールに乗っ取って試合を円滑に進めようと思う気持ちも一緒のはず。やはり足りないのはコミュニケーションだと思う。どういう理由で、どういうものがファールなのか、どういうものが警告の対象になるのか、そういったことを普段から、互いにもっと積極的に説明し、そして議論する必要があるのではないか。どちらかが一方的に悪いなんてことはない。悪いのは一方的に決め付ける行為なのだ。



順位表(第5節終了時点)と、6節以降のスケジュール



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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