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 福岡通信 02/10/12 (土) <前へ次へindexへ>

 下を向いてる暇はない


 文/中倉一志
 誰も口にはしなかったが、今井元監督が辞任した時点で福岡の事実上のJ1昇格の夢は絶たれていた。そして、数字の上でわずかに残されていた可能性も前節の戦いで消えた。そんな中で迎えた第35節、福岡は本来なら昇格のライバルとなるはずだったC大阪を北九州市立本城陸上競技場に迎えた。メインスタンド以外は全てが芝生席、交通アクセスは最悪のこのスタジアム。「何でこんなところで昇格がかかる大一番をやらなければならないんだ」。そうつぶやいたのは8ヶ月前のことだ。

 不思議な光景だった。スタンドには、落胆と、悔しさと、あきらめが入り混じった空気が流れる。あまりにもふがいない戦いの連続に怒ることさえできなくなったサポーターがいる。そして、ご近所の家族連れや、小さな子供の姿が目立つ芝生席では、シートを広げ、足を伸ばして座り、昼食を取りながらキックオフを待つ観客がいる。そんなのどかな家族連れの空気が、さらに福岡の現実を目の前に突きつける。あの心地よい緊張感を見つけることは出来ない。

 それでも、この一戦でC大阪を破って意地を見せれば少しは何かが変わる。そんな期待を寄せていたサポーターもいた。そして、ピッチのイレブンも立ち上がりから積極的に前に出た。しかし、現実は厳しかった。攻め込んでいるように見えて相手を崩すことが出来ず、攻めあがったスペースをつかれてC大阪のカウンター攻撃を喰らうシーンが続く。一時は逆転に成功して観客を沸かせたが、終始同じことを繰り返して、結局は2−4で力負けした。

 続く第36節、アウェイで水戸と対戦した福岡は先制点をゲット。その後、同点に追いつかれ、さらには蔵田が退場するという苦しい状況に追い込まれながら逆転に成功。1人少ない状況で必死に耐えたが、最後は力尽きて逆転負けを喫した。これで中村新体制になってから1勝3分8敗。7位の甲府に勝ち点で8の差をつけられた。そして、最下位の横浜との差は10しかない。現実の福岡はJ2でも下位に甘んじるチームになった。



 何故、ここまで弱くなってしまったのか。GMが不在であること。若返りと称してベテランを解雇したにもかかわらずベテラン中心の補強を行ない、結局ベテラン中心の布陣になったこと。生え抜きの選手がレンタル移籍でチームを離れたこと。若手の育成に失敗したこと。呂比須の怪我が長引いたこと。ビスコンティの起用方法に問題があったこと。今井元監督がチーム作りに失敗したこと等々、理由は数え上げたらきりがない。しかし、これらは現象面でのこと。本当の理由は他のところにある。

 急速にチームが弱体化した根本的な原因は、クラブが運営に対する確固たる考えを持っていないということにある。クラブをどうしたいのか、何のために運営しているのか、そこのところが見えてこない。この問題は今に始まったわけではなく、かねてから福岡が抱えていた問題だった。それが、昨年のJ2降格という事態が引き金になって一気に顕在化した。そうしてクラブは昨年のシーズンオフにドタバタ劇を起こし、やがて迷走を始めた。

 組織というものは運営方針に基づいて動くものだ。GMの招聘も、若手の育成も、チーム編成も、それは運営方針を達成するための手段であって、決して目的ではない。全てはクラブの基本方針に添って行なわれてこそ意味を持つ。しかしながら、クラブの道標とも言うべき基本方針がハッキリしなければ、進むべき方向は見えず、結果として、その場しのぎの対応に終始し、それぞれの行動は1つの糸で結べなくなる。こうなってしまえば組織はバラバラ。個々の持つ力は分散し、1+1は2どころか半分の力も出せなくなる。

 福岡は、まさしくそんな状況に陥っている。ほんの2年前、福岡は現在と似たような状況にありながら、ピッコリ元監督がチーム改革に成功。2ndステージでチームを優勝争いできるまでに成長させたのは記憶に新しい。それは、ピッコリ元監督の情熱によるところが大きかったのだが、クラブの土台がしっかりしていない中では、それも一過性のものに終わった。強いリーダーシップだけでは目先はごまかすことは出来ても、結局は問題の解決にはならないということだ。



 そんな福岡が真っ先に手をつけなければならないことは、クラブの運営方針について徹底的に議論を重ねること、そして、その理念を明確にすることだ。単なる戦犯探しや、責任の押し付け合いはいらない。それは新たな軋轢を生み、現状を更に悪化させてしまうだけだ。また、評論家のような態度は必要ない。行動に移すのは自分たち自身だからだ。全員が当事者意識を持って、どうしたらいいのか真正面から取り組むこと。それが出来ないのなら、それに反する行動を起こすような人物がいるのなら、人事の刷新も止むを得ない。

 そして、明確にした理念を、社長を始め、スタッフ、選手、そして末端の職員に至るまで徹底することだ。いつ、どこで、誰に聞いても、クラブの理念について明確に、しかも全く同じ答えが返ってくるようにすることだ。現場に直接関わる部門はもちろん、ありとあらゆるセクションの仕事は、全て理念につながっている。一見、どうということのない仕事でも、理念に関わらない仕事などというものはあり得ない。全ての人間が同じベクトルを持つことによって、1+1が3にも、4にもなっていく。

 そうすれば、何をやるべきかが見えてくる。その一方で、現実問題として「いま出来ること」は限られている。この「やるべきこと」と「いま出来ること」のギャップを埋める作業が当面の目標なのだ。「いま出来ること」を一生懸命に取り組むだけでは意味はない。常に「やるべきこと」とのギャップを意識し、どうやったらギャップを埋めることが出来るかを考え、そのために具体的な行動を起こすことが求められている。



 友池社長によれば、来シーズンは「若手育成が最重要課題」ということになるらしい。それ自体を否定する気はないが、若手育成とはチームの実力を上げ、そして維持するための当たり前の手段であるという認識を忘れないでいて欲しい。そして、ただ若手を実践で起用するだけでは、それは若手育成につながらないことも理解していて欲しい。強いトップチームがあって、厳しい競争がある。そんな環境がなければ若手は決して育たない。

 そして、若手を育成するということは多大なる努力を要することでもあることを理解して欲しい。若手を育成するのなら、まずは才能ある選手を集めることが大前提になる。プロの世界とは、才能と努力の両方があってこそ成功する世界だからだ。また、若手育成の目標はチームの実力を維持することにあるのだから、獲得にあたっては、数年先の陣容を見据え、将来手薄になるであろうポジションに、チームが理想とするタイプの選手を獲得しなければ意味がない。

 もちろん、そうした選手を長期的に育成するプログラムも必要になる。そのためには優秀な指導者の存在が欠かせない。トップチームの監督は勝つことが仕事であって、まだプロとして未熟な選手を試合に起用することが仕事ではない。若手を育成するのなら、サテライトに優秀な指導者をおかなければならない。技術だけではなく、プロとしてのメンタリティを鍛え上げられる指導者をだ。そして、トップチームの監督には、そうして育てた選手を、タイミングよく、本人たちの自信と経験になるような場面で起用できる度量の広さが求められる。

 しかも、若手が育つまでの間、チームの実力を一定に保たなければならない。若手が最後の脱皮を遂げるには、実力が上の選手を実力で抜くことが必要だからだ。こうして考えただけでも、山ほどやらなければならないことがある。簡単に若手育成と言うが、それには膨大な手間と時間がかかること、それを成し遂げるには情熱が必要だということを理解していて欲しい。それなくして若手育成を行なったら、大量採用、大量解雇を繰り返すことになる。そうなったら、もはや取り返しはつかない。



 間もなく今シーズンが終わり、休む間もなく、来シーズンの準備が始まる。予想も出来ないほどのシーズンになってしまったが、下を向いている時間はない。どん底だからこそ、そのどん底から這い上がらなければならないからこそ、逃げずに、前を向いて歩いていかなければならない。クラブの現状にあきれているサポーターは多い。しかし、それでも、どこかでクラブが成長してくれることを願っている。そんなサポーターに、もう言い訳は出来ない。今度こそ、クラブ改革に真摯に取り組んでくれることを祈りたい。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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