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 福岡通信 02/11/22 (金) <前へ次へindexへ>

 赤い彗星、10回目の全国大会へ


 文/中倉一志
 参加校総数142校、7月23日から約4ヶ月にわたって繰り広げられてきた戦いもいよいよ決勝戦。この日、博多の森球技場で勝利したチームが全国大会への切符を手にすることになる。最後の戦いに駒を進めてきたのは縦へのスピードが武器の福岡第一高校(以下、福岡第一)と、両サイドをワイドに使い組織力で勝負する東福岡高校(以下、東福岡)。福岡第一は初めての、東福岡は2年連続10度目の全国大会への出場を目指す。

 この日スタジアムに訪れた観客は約5500人。解放されたバックスタンドは、両校の生徒を中心にほぼ埋め尽くされた。これほどまでに大勢が応援に集まったのは私が知る限りでは初めてのことだ。特にアウェイ側は福岡第一の生徒たちで埋め尽くされている。全員が緑の帽子をかぶり、ブラスバンドまで用意してピッチの11人を後押しする。そして、その生徒たちを覆う「Get your dream」と染め抜かれたビッグフラッグ。まるで全国大会のような雰囲気が漂う。

 ホーム側に陣取るのは東福岡。人数だけなら福岡第一の3分の2程度。しかし、熱さなら福岡第一に負けていない。選手がピッチの上に現れると、メガホンを片手に野太い声で応援を開始、その声は福岡第一の声援をかき消して博多の森に響き渡る。幾度となく全国大会へ進んだ経験からか、さすがに勝負どころの応援には迫力がある。戦前の予想では、東福岡有利の声が多いが、サッカーは何が起こるかわからない。すべてをかけて全国大会への切符を掴む、そんな気迫が伝わってくる。

 DFの両サイドの後ろのスペースにクロスボールをフィード、スピードを生かしてサイド突破を仕掛ける福岡第一の持ち味は速い攻撃。つぼにはまったときの速さは半端じゃない。対する東福岡はワンボランチの前川を起点に両サイドへワイドに開いたMFへボールを配給、そこからオープン攻撃を仕掛けるのが持ち味。両サイド、トップ下の2人、そしてボランチの5人でパスをつなぐ多彩な攻撃は見所十分だ。どちらが持ち味を発揮するのか、観客が注目する中、試合はキックオフを迎えた。



 開始50秒、いきなり東福岡がシュートを放つ。立ち上がりから積極的な姿勢を前面に押し出してボールを運び、そして主導権を握った。東福岡のシステムは4−5−1。ただし、両サイドのMFはかなり高い位置に大きく開き、実際には3トップとも呼べる布陣だ。この両サイドへシンプルにボールを預け何度もサイドを突破しては福岡第一のゴールを脅かす。その迫力に福岡第一は防戦一方。両サイドを東福岡に押し込まれてしまい、得意のスピードを生かしたサイド攻撃もままならない。

 しかし6分、その福岡第一が一瞬のチャンスをものにした。福岡第一のロングボールがゴール前でルーズになったところにMF竹本選手が果敢に飛び込んでボールをキープ。時間を稼いでいる間にFW山野選手が右へ回りこんできた。山野選手の足元にこぼれるボール、次の瞬間、山野選手は迷わずに右足を一閃。きれいな弾道を描いたボールが必死に伸ばすGKの両手の先を通ってゴールネットを揺らした。あっという間の先制点だった。

 だが試合のペースは東福岡。一方的に攻め込んで10分にはゴール前の混戦からあっさりと同点に追いついた。そして、その後も多彩な攻撃で福岡第一を圧倒的に攻め続けた。しかし、福岡第一も虎視眈々と一瞬のチャンスを狙う。そして20分、ロングクロス1本で左サイドを崩すと、そこからの折り返しを塚本選手が頭で合わせて2点目をゲット。さらに24分には、またもやロングボール1本で右サイドを崩し、最後は中央で待つ山野選手が頭から飛び込んで3点目を奪った。

 完璧なまでの自分たちのパターンで3得点を重ねた福岡第一。福岡第一にとっては、これ以上ない展開だった。しかし、試合展開から見て2点差は決してセーフティリードとは呼べない。勝負は次の1点、まずはしっかりと守りきって後半に折り返したいところだった。そして、その狙い通り、福岡第一は必死の粘りを見せて東福岡にゴールを許さない。やがて試合は40分を経過。残すはロスタイムの1分だけになった。流れは福岡第一にあるかと思われた。



 しかし、このまま前半が終了するかと思われたロスタイム、ボールをキープした東福岡ボランチの前川選手の前に大きなスペースが出来た。これを見逃さずに前川選手が右足を振りぬく。ゴールまでの距離は約25メートル。ゴールを狙うには無謀とも思われる位置だった。しかし、鋭い弾道を描いたボールはゴール上段、左隅のここしかないところへ突き刺さる。何度もファインセーブを見せていたGK田中選手にもどうすることも出来なかった。

 空を仰ぎ悔しがるGK田中選手。まるで逆転でもしたかのように大喜びする東福岡イレブン。その対照的な姿は、この1点が試合にもたらす影響の大きさを物語っていた。「ゲームの流れから見たら、前半の終わりに前川が決めてくれたのは、このゲームでは大きなポイントだった。後半2点差から追い上げるのと、1点差からとでは随分違う。そういう意味では大きかった」と森重監督代行(東福岡)は試合を振り返ったが、この1点が試合をガラリと変えてしまった。

 これで落ち着きを取り戻した東福岡は後半の3分、右からのCKに中島選手がファーサイドで合わせてあっさりと同点に追いつく。ここまで必死の守備を見せていた福岡第一の頑張りもここまで。見るからに意気消沈した様子が窺えた。そしてここから東福岡は着々とゴールを重ねていく。逆転ゴールは後半14分。左コーナーフラッグ付近で得た直接FKのチャンスを前川選手が直接ゴールに放り込んだ。角度のない難しい位置からの素晴らしいゴールだった。

 その2分後には、MF新川選手がゴール前中央でボールをキープ、福岡第一のDFを引き付けるだけ引き付けておいてラストパスを送ると、フリーで飛び込んできたFW金子選手が頭で押し込んで5点目。さらに後半21分には再び金子選手がヘディングシュートを決めて、終わってみれば大量6得点を挙げて全国大会への切符を手にした。一時は2点のビハインドを背負った東福岡だったが、それを力で跳ね返した攻撃力は印象的だった。



 福岡第一の名誉のために言っておくが、福岡第一は決して守備の悪いチームではない。準決勝では、決して相手に制空権を渡さないヘディングの強さと、カバーリングの良さで安定感ある守備を見せていた。そんな守備でさえ崩してしまう東福岡の攻撃力が勝っていたということだろう。「うちは攻撃の力はある」との森重監督代行の言葉を裏付ける試合だった。その攻撃力を支えていたのが、ボランチの前川選手だった。

 シンプルにボールをつなぐのが東福岡の最大の特徴であるのだが、準決勝では簡単にサイドに預けるあまり、どちらかというと単調にも見えたものだ。攻撃は、前川選手から左サイドの池本選手にボールを出し、そこから縦へ走ってクロスを上げるというパターンの繰り返しで、それほど怖くは感じられなかったものだ。しかし、この日は全く違う姿を見せた。むしろ、決勝戦での戦いが東福岡の本当の姿なのだろう。

 この日、福岡第一は東福岡の両サイドの攻撃を押さえ込むためか、2列目のMFが両サイドに開き、やや下がり目の位置で対応していたため、中央にスペースが出来ていたのだが、このスペースを前川選手が自由に使った。簡単にはたいたかと思えば、ドリブルで中央に割って入り、さらには積極的にシュートも放った。これで福岡第一は守備のリズムを狂わされた。中央をケアすればサイドを割られ、サイドに気をとられると中盤でボールを回されて守備網を崩される。結局、福岡第一は最後までボールを捕まえることが出来ないままだった。

 いまの3年生が1年生のときにオランダ遠征を行った際、オランダの大会で優勝した経験を持つ東福岡。そのとき、前川選手と池本選手がベストプレーヤーに選ばれた。「その時から、この子たちには期待している。(全国大会での)手応えは感じている。」と語る森重監督代行。「春から遠征を重ねてきて、全国大会の上位のチームと戦っても遜色はない。いけると思っている」と続ける。目指すは4年ぶりの全国一。選手たちはその目標をしっかりと視野に捉えている。



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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