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 福岡通信 03/02/19 (水) <前へ次へindexへ>

 手応え十分。順調に進むアビスパトレーニングキャンプ


 文/中倉一志
 10日から宮崎へ場所を移して本格的なトレーニングを重ねているアビスパ福岡が順調な調整振りを見せている。今シーズン初めてのJ1とのトレーニングマッチとなった清水エスパルス戦では、30本×3本の試合を行って0−0。翌17日に行われたC大阪とのトレーニングマッチでは2−0で勝利を手にした。この時期の各チームの仕上がり具合はまちまちでトレーニングマッチの目的は決して勝負最優先ではないが、そういった事情を差し引いても十分に評価できる結果といえるだろう。

 しかも決して急ピッチの調整を行っているわけではない。清水エスパルス戦をレギュラー選手の最終セレクションの場とし、C大阪戦以降チームを固めて連携を深めるというのは当初の予定通り。攻撃陣、守備陣に分かれて本格的な戦術練習をしたのは15日が初めてだ。予定されていたスケジュールをきちんとこなし、その都度問題点をフィードバックして修正をかける。地道な作業を確実に積み重ねてきた結果がもたらしたものと言える。

 誤算があるとすれば(もちろん嬉しい誤算だが)、それは若手の成長が著しく、レギュラーを絞り込めないことだ。激しいレギュラー争いは、「誰を使ったらいいのか困っている」のではなく、「使いたい選手が大勢いる」という状況を作り出している。その結果、清水戦後に最終メンバーを絞り込まず、C大阪戦には予定よりも多くの選手連れて臨むことになったが、それぞれの選手の活躍に松田監督の悩みの種はさらに増えたかもしれない。

 さて、松田監督の狙いは徹底したサイド攻撃と、高い位置からのチェックを含めた全員守備。そのために、ボールを早く動かして相手に焦点を絞らせず、空いたスペースをワイドに使うこと、プレッシャーのきつい相手にはロングボールを有効に使うこと、そして、巧みにポジションを移動させて、攻守ともにひとつのブロックを形成することを求めている。その狙いがどの程度できているのか。清水戦を振り返ることで紹介してみたいと思う。



 1本目に登場したのは、GKに塚本、DFラインは右から立石、千代反田、セルジオ、古賀。ボランチは増川と宮原のコンビ。攻撃的MFには右に久永、左にアレックスを置き、2トップは江口とベンチーニョがコンビを組んだ。立ち上がりの主導権争いの時間帯を落ち着いて守った福岡は、ほどなく主導権を確保。あとは、ほとんど一方的なペースで試合を進め、何度もチャンスを作り出した。守りも安定感を見せ、澤登−トゥットに作られたピンチ以外には、清水にチャンスらしいチャンスを与えなかった。

 守備に関しては、プレスの位置はそれほど高くはなかったが、FWのチェックから始まるという守備意識は徹底されていたようだ。そのため、前から追いかけた相手を中盤で挟み込むようにして押さえ込むシーンが随所に見られ、最終ラインが慌しくなることはなかった。また、SBが上がった後のスペースは、最終ラインが横にずれ、中盤がボールサイドに絞るような形をとってスペースを消すという連携もスムーズだったように思う。

 攻撃に関して言えば、サイドから攻めるという意識は相当徹底されている。中盤でボールを奪うと、ポストに当ててサイドへ展開するか、低い位置から両サイドの高い位置へクロスボールを送り込み、そこを起点にサイドを崩すというパターンが何度となくくり返された。その中心になったのはベンチーニョ。両サイドのスペースへ流れてボールを引き出し、あるいは少し下がって攻撃の起点になる等、期待通りの働きを見せてくれた。

 もちろん、ベンチーニョの動きが目立ったのは、彼とコンビを組む江口、そして久永、アレックスの連携があればこそ。ベンチーニョの動きに合わせて、3人が頻繁にポジションを入れ替えて常に4−4−2の形を保ち、アレックスもキープ力の高さを見せて中盤のポイントになっていた。縦のバランスがよくなったこと、高い位置にボールが納まるようになったことで、ボールを追い越していくプレーが随所に見られ、攻撃のバランスのよさは見違えるようになっている。



「1本目と2本目は、今までやって来た選手をミックスしたもの」(松田監督)という2本目は、GK塚本、DFは平島、川島、加藤、宮本、ボランチが原田、篠田のベテランコンビで、2列目は大塚と宮崎、2トップは林と福島の布陣で臨んだ。レギュラー争いをする選手たちのモチベーションは高く、2本目も内容では清水を圧倒。不用意なプレーから決定機を2度ほど作られたものの、1本目同様、順調な仕上がり具合を見せた。

 2本目もチームが狙いとすることに対する共通意識は高く、相手ボールを前から追い、両サイドから徹底して攻撃を組み立てた。安定感を見せた原田−篠田のダブルボランチ、右サイドを積極的に崩しに行った大塚と平島。宮崎も得意の2列目の飛び出しから強烈なシュートを放った。難を言えば、2トップが前線中央に張ったままになることが多く、両サイドのスペースに流れてボールを上手く引き出せなかったこと。しかし、それも時間が解決するだろう。

 3本目は新加入の若手中心のメンバー。塚本は3本連続での出場になったが、DFラインは沖本、小川、川島、原田(練習生)、ボランチは米田と岩本、2列目が有光(練習生)と二宮、2トップは山田と太田だ。対する清水は調整が遅れている安貞桓と北嶋が登場、その他の面子を比較しても清水の力が上かと思われたが、3本目も勢いに優ったのはアビスパだった。安貞桓、北嶋にそれぞれ1本ずつ決定機を作られたものの、終始、攻勢に出てチャンスを作った。

 さすがに内容的には1、2本目には劣るものの、やはり高い位置からの追い込みと、サイドを崩すという共通意識は高く、松田監督の指導が全選手に浸透していることが窺えた。そして、レギュラー争いへ加わろうとする気持ちも強く、とにかく全員がボールに対して積極的にプレーをしていたのが印象に残った。特に、二宮、岩本、山田はゴールに向かう姿勢を強く出していた。また、練習生として参加している原田、有光の積極的なプレーも目を引いた。



 さて、取材陣の注目を集めたのは宮原−増川のボランチコンビ。「前の4人との連携を見たかった」(松田監督)との理由で1本目の器用だったが、結論を言えば十分に合格点がつけられる出来だった。展開力という点では宮原をボランチで起用したいものの、フィジカルコンタクトに難を抱える宮原を使うためには、高い守備能力を持つ相棒の存在が不可欠。しかし、身体能力の高い増川が急成長を見せることで宮原の起用に目処が立ったことは大きな収穫だ。

 もう一人、初めて1本目でプレーした千代反田も安定したプレーを見せレギュラー争いに名乗りを上げた。落ち着いた守備とカバーリング、そして正確なロングフィードは、攻撃に転ずる際の大きな武器になることだろう。「自分たちのスタイルのようなものが少しずつ出てきた。自分としては手応えはある。あとは選手が自信を深めてくれれば」とは松田監督。一方、久永も「攻守においてチームがやろうとしていることが出来た。少しずつ自信がついてきている」と手応えを口にした。

 個人的なミスでピンチを招いたり、アレックスがとにかくベンチーニョばかりを見ているといった課題はあるものの、組織を崩されることはなく、戦術理解度も高まってきている等、現段階では大きな課題はなく、極めて順調なキャンプという印象が強い。これから細かな修正点を整備しつつ、さらに連携を高めていくであろうことを考えると期待は膨らむばかりだ。清水とのトレーニングマッチに駆けつけた500人あまりのサポーターも、今年はやれるのではないかという感触を持ったことだろう。

 しかし、順調に調整を続けているとはいえ、昨年度の福岡がJ2で8位というのは動かしがたい事実。他のチームも補強には力を入れており決して侮れるチームはいない。そうした事実を真摯に受け止めて、謙虚な気持ちと自分たちに対する自信、そしてチャレンジ精神を持ってシーズンに向かうことが、これから最も重要なことになってくる。開幕まで1ヶ月足らず。博多の森で爆発するアビスパの姿をサポーターは待ち望んでいる。



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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