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 福岡通信 03/04/03 (木) <前へ次へindexへ>

 恐れるものなど何もない


 文/中倉一志
 開幕2連敗という結果がそうさせるのか、それともディビジョン1の試合がなかったからなのか、第3節の試合が行われた博多の森球技場には、福岡市内に拠点を持つメディアのほとんどの記者が顔を揃えていた。開幕戦と変わらぬ報道陣の多さは、それだけアビスパ福岡の動向が注目を浴びていることを意味する。ただ開幕戦と違うのは記者たちの表情。どうしたんだろう。原因は何だろう。誰もがそんな目をしてピッチの上を見つめていた。

 それもそのはずだ。開幕前、福岡の調整振りが順調であることを、どのメディアも伝えていた。その報道通り、トレーニングマッチとはいえJ1チーム相手に結果も残した。私は清水戦と仙台戦を観戦したが内容も悪くなかった。監督が求めるショートパスを回して相手を崩して空いたサイドのスペースを突くという攻撃も、前に出てくるチームに対してはロングボールで前線に起点を作って反撃するという戦術も徹底されているように見えた。

 そのプレースタイルが何かと話題に上っていたベンチーニョとアレックスもチームになじんでいた。若い選手たちには成長の跡が感じられ、心配されていた選手層も確実に厚くなっていた。「誰を使ってもいい状態」。松田監督は常々そう語っていたが、雁ノ巣練習場に足しげく通うサポーターの目にも同様に映っていた。ボランチのレギュラーが確定しないこと、DFラインにスピードがないこと等、課題もあったが、課題のないチームなどありえない。しかも問題点と指摘しなければならないほどのものではなかった。

 そのチームが結果を出せない。それどころか、開幕前に見せた「新生アビスパ」の片鱗さえ見せられない戦い振りは、昨シーズン開幕直後のチームよりも状態が悪いのではないかと思わせるほど。とうとう開幕3連敗を喫した。もちろん、トレーニングと本番が別物であることは誰もが理解しているが、それにしてもあまりにも違いすぎる。記者会見で矢継ぎ早に質問が飛ぶ。帰り支度を終えた後も、記者たちは監督を囲んで離さなかった。



「アビスパは力がついたんですか」。よく聞かれる。この質問については力がついたと断言したい。最大のポイントはベンチーニョの加入。彼が中盤に下がって起点を作ることで縦のバランスが良くなった。ボランチが前を向けないという課題を抱えているものの、いったんDFラインに戻し、そこからクロス気味のロングフィードを両サイドに流れるベンチーニョに当てることでカバーできるようにもなっている。昨年と比較すれば、チームのバランスは格段にいい。

「アビスパは強くなってるんですか」。これもよく聞かれる。これは結果が示す通り、強くなっていないのは誰の目にも明らかだ。ここ3試合を見る限り、中盤の守備が機能せず簡単にマークを外す。何故だか突然集中を切らして失点を喫する。攻撃面では単調な攻撃に終始し、サイドをえぐることは滅多にない。結局、ゴール前で守りを固める相手に向かってクロスボールを放り込んではやすやすとクリアされ、痺れを切らしたベンチーニョがロングレンジからシュートを放つ。攻め手に欠いた昨シーズンから進歩の後は見られない。

 力がついているのに強くはなっていない。一見、矛盾しているようだが、その理由は単純なことだ。練習で積み上げてきたものを試合で使っていないからという一言に尽きる。身に付けてはいても実戦で使わないのならば、それはないのと同じこと。したがって、去年と変わらない結果しか得られない。相手との力関係で発揮させてもらえないのかもしれないが、外から見る限り、発揮できない原因は自分たちの心の中にあるように見える。

「戦う気持ちが感じられない。自分たちのサッカーが出来ていない」。久永は、この言葉を繰り返す。その声には怒りすら感じられる。それは、チームメイトに対する檄であり、精神的支柱と期待されながらもフル出場が叶わない自分の不甲斐なさへの怒りでもあるのだろう。J2に降格してから週末の試合としては最低の入場者数を記録した第3節、ある意味では、本当に福岡を支えたいというサポーターばかりが集まっていたと言えるのだが、そんなサポーターの中からさえブーイングが起こった。



 スポーツにミスは付き物だ。華麗なプレーや、豪快なゴールシーンばかりが記憶に残るものだが、そもそもスポーツというものはミスを前提に成り立っている。極論すれば、ミスを犯すこと自体は問題ではない。危険な場所や時間帯と、そうでない部分の区別をすること、ミスを承知でチャレンジすること、犯したミスをカバーすることが大切なのだ。ミスを犯すことを怖がっているのなら考え違いというもの。ミスなんか誰にもなくせない。

 スポーツに失点は付き物だ。得点の多さを競うのがスポーツ。0に抑えたところで勝てるわけではない。勝利を手にするにはゴールを挙げることが最低条件。だから、こちらも必死なら、相手も必死になってゴールを狙う。そんな戦いの中で0になど抑えられるものではない。昨年、最強を誇った磐田でさえ平均失点は1点。取られたら取り返すだけのこと。ただそれだけのことだ。

 スポーツに負けは付き物だ。当たり前のことだが、どちらかが勝てば、どちらかが負ける。これもスポーツの大原則。勝負をする以上、負けという結果は必ず付いてまわる。それを拒むのならスポーツそのものが成り立たない。負けを受け入れる勇気があって初めて勝利が見えてくる。負けたということは力がなかったということ。ただそれだけの結果に過ぎない。2度と負けたくないのなら、相手を負かすだけ。単純なことだ。負けることを防ぐだけでは勝利は手に入らない。

 スポーツに嘘はない。誰がどんなプレーを見せようと、試合のために準備した分だけ結果が出る。それは準備以上でも、準備以下でもない。いいかえれば、試合の始まる前に体制はほぼ決していると言っていい。試合で慌てたってもう遅いのだ。本当の勝負はトレーニングの場。どれだけ真剣に、どれだけ緊張感を持って準備できるかに全てがかかっている。あとは準備してきたことを試合で淡々とこなすだけ。やっただけの結果は必ず出る。



 最悪とも言える3連敗。しかし、地元メディアはアビスパ福岡を応援しようという気持ちを崩さない。川崎F戦後の記者会見も、その後、長く続いた囲み取材でも、誰もチームを叱責する者はいない。誰もがアビスパを心配し、アビスパの勝利を願っている。そして、その道を探ろうと必死になっている。何が悪いのか、どうすればいいのか、みんな答を探している。それも、クラブ側の生まれ変わろうとする強い意思を感じているからだ。

 チームを率いる松田監督は前を向く姿勢を忘れない。「魔法はないと思う。一生懸命やっている結果だったらしょうがない。それを受け止めて向上心を持ってやるだけ」。そう語る目に迷いはない。そして「選手は後ろ指を指されるようなことは決してやっていないと思う。頑張っている。結果に関しては自分が責任を取る。でも、選手には絶対そういうことはさせない」と語気を強める。「きつい思いをしていると思うけれど、絶対にいつか役に立つ」。それは監督の信念でもある。

 いまは我慢して見守るときだとするサポーターも多い。次につながる試合が出来ない。弱気な姿ばかりが目立つ。集中力を欠く。リードされると反撃しようという気持ちさえ見せられない。応援しているほうにとっては辛いことばかりだ。それでも彼らは変わろうとするクラブを必死になってサポートする構えを見せる。目指すはJ1で戦うにふさわしいクラブになること。こんなことで参っていては先へは進めない。そう信じて熱い声援を飛ばす。

 あとは選手が開き直って戦うだけ。何事も恐れずにチャレンジするだけだ。昨年、J2下位グループの福岡には、これ以上、下はない。失うものなど最初から持っていないのだ。リーダーシップを発揮できる選手がいないのなら、全員で声を出せばいい。弱気な姿勢を見せる選手がいたら、全員でピッチの上から追い出してしまうくらいの迫力で怒鳴りつければいい。這い上がっていくには、そういう姿勢が必要だ。結果など考える必要はない。戦う姿を見せて欲しい。博多の森に足を運ぶ人たちはそれを望んでいる。



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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