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 福岡通信 03/04/17 (木) <前へ次へindexへ>

 アクセス問題はワールドカップだけじゃない


 文/中倉一志
「まあ、仕方ないわ。いい勉強させてもらったと思うことにしましょう。大体、今日は3分で1点取られたときから、こういう運命にあったんやわ」。神戸から観戦にきたというガンバ大阪サポーターの2人連れは納得しきれない表情で呟いた。4月12日に大分スタジアムで行われた大分トリニータvs.ガンバ大阪戦の帰り道でのこと。私は申し訳ない気持ちで一杯になりながら、最寄の路線バスの停留場まで(徒歩20〜30分)の道のりを案内していた。

 呆れるような話だった。まあ運営側の肩を持てば、観客である我々がもう少し注意深く、かつ係員にでも念入りに確認をすれば防げたということになるのだろうが、それにしても不親切な話だった。過去、同じような目に会っている私は、以前、たまらず係員に抗議をした経験があるが、彼らは運営側から言われた通りにバスを走らせているだけのこと。何を言っても「暖簾に腕押し」で聞き入れてはくれなかった。おそらく、運営側には伝わっていないのだろう。改善されていないのも当然だった。



 事の次第はこうだ。試合終了後、記者会見を聞き終えた私は路線バスを利用して大分駅まで戻ろうと停留場へ向かった。山のてっぺんに作られたビッグアイから路線バスを利用するためには、バックスタンドの裏側へ回り、かつ4つに分かれた長い、長い階段を下りていかなければならない。その階段は山中に作られた神社の本殿に続く階段のように長い。エレベーターやエスカレーターの類はなく、体力のないものにとっては一苦労する難所だ。

 その階段のちょうど真中に、「A駐車場行き無料シャトルバス運行中」という看板が立っていた。ここで気が付けば何の問題も起こらなかった。しかし、駐車場行きのシャトルバスの停留場を指し示す矢印もなく、その看板の下には、まだ長い階段が続く。「ふ〜ん、そんなバスがあるんだ」。看板を見た人が、その程度の認識しか持たなかったとしても何の不思議もない。

 階段を下っていくと、長い列が出来ている。そこは大分駅からのシャトルバスの発着所。その列を大分駅行きのバスを待つ列だと勘違いする人がいても不思議ではない。正直、嫌な予感はした。過去、何度も大分スタジアムに足を運んだが、ビッグアイには、バスの発着場所や発着時間、バスの行き先を示す看板、案内図などはどこにもない。人が並んでいるからといって、それが大分駅行きのバスを待つ列だという保障は何もないからだ。事実、バスの発着所だということを示す看板はない。

 しかし時間は17:40。15:00キックオフの試合が終了したのが16:50頃だから、まだ大分行きのシャトルバスが運行していてもおかしくない時間。私は何の躊躇もなく列に並んだ。バスを待つ列は長く、バスも中々やってこない。ようやくバスに乗り込んだのは18:00すぎ。そしてバスは大分駅方面へ向かって走り出した。ところが15分ほど走った後、バスはビッグアイとは正反対にある、スポーツ公園の西側はずれの駐車場の中へ入っていった。



 言いたいことは山ほどあった。「どこ行きのバスなのか分かるように看板を立てておくべきだろう」「係員がいたのだから勘違いしないようにアナウンスすればいいじゃないか」「少なくとも、シャトルバスでやって来た人たちに対しては事前に案内すればいいじゃないか」。しかしあきらめた。彼らはただ言われた通りにバスを動かしているだけ。何を言っても無駄だ。それに勘違いした自分が悪い。確認すればよかったのだ。

 バスを下ろされた人の中には私と同じ人たちが何人もいた。みんな運転手に抗議している。しかし、答えは予想した通り。「ここへ運ぶように依頼されただけ。大分駅行きのシャトルバスのことを言われても、それは別の会社のことだから分からない」。仕方なく、最寄のバス停(徒歩で20〜30分程度)まで山道を歩いていくことにした。山のてっぺんには、だだっぴろい空間が広がるだけ。タクシーなど一台も走っていないし、呼ぼうにも電話番号が分からない。

 しかし、歩き始めて、ふと気が付いた。バスを待っていたときに私の前に並んでいた2人連れは関西弁を話していた。その母親と娘さんらしい2人の会話から察するに、G大阪のサポーターのようだった。だとしたら、どうやって帰るというのだろう。バス停など知るわけもない(何しろ山道を20〜30分歩かなければならないのだ。バス停はどこを見渡しても視界になんか入らない)。大体、路線バスが通っているような場所じゃない。途方にくれるのは目に見えていた。

 案の定、引き返してみると運転手に猛抗議の真っ最中だった。しかし、運転手の対応はおざなりなもの、どうなるものでもない。声をかけてみると神戸からきたという。話題のビッグアイを一目見ようと、わざわざやってきたそうだ。申し訳ない気持ちになった。他県からやってきたサッカーの仲間が、こんな目に会ってしまったことがたまらなく恥ずかしかった。「ありがとう。いい勉強になった。でももう来ない」。私は情けなかった。



 自家用車やタクシーを利用しない人にとって、ビッグアイに行くには、シャトルバスを利用するか、1時間に2〜3本程度の路線バスを利用するしかない。しかし、そうしたバス利用者に対する配慮が、あまりにも欠けている。以前、やはり取材でビッグアイに行ったときのこと。既にシャトルバスが終了していたので、スタジアム内に常設されている案内所で路線バスの時刻を尋ねたところ、「えっ!バスですか?1時間に1本しかないんですよ」と驚かれた。じゃあ、どうやって帰れというのだろう。

 またビッグアイで代表戦が行われた時のこと。事前に試合終了後1時間半までシャトルバスを運行させると案内されていたので、1時間ほどしてから乗り場へ向かった。バスに乗っているのは私1人。すると旅行会社の案内係が「他に誰もいなかったでしょう?これで最終にします」というと、バスを発車させようとした。おいおい、まだ誰かがくるかもしれないじゃないか。そう言う私に、あからさまに不機嫌になった彼女は、「じゃあ、あなたには後30分待ってもらいますから」と告げた。バス乗り場には10数台のバスが空のまま並んでいた。

 またある時のこと。都合により、私は帰りだけシャトルバスを利用しようと考えた。ところが、試合終了後にスタジアムの外へ出てみたが、シャトルバスの発着所を示す案内板がない。遠くに係員がいたので、そこまで歩いていってみたが要領を得ない。多分あっちだろうという言葉を信じたが、本当の発着所は教えられた所とは逆方向に20分ほど歩いていったところだった。バスの案内板くらい出してくれと言う私に、別の係員は「来た時と同じ場所へ行けばいいんですよ」と平然と答えた。

 路線バスの停留所にしても問題がある。最寄の停留場は、ビッグアイのバックスタンド裏側にあるが、大分駅方面行きの停留場はビッグアイからは見えない。一方、メインスタンド側はスタジアム周辺の土地が高くなっているため、階段はなく、そのままスタンドへ入れる。スタジアムと周りの土地とに段差がない、バリアフリーに配慮した設計というのがビッグアイの売りのひとつだった。しかし、こちらにはバスは止まらない。



 九州という土地では移動手段といえば自家用車が当たり前。スタジアムに限らず、様々なイベント会場は自家用車でやってくることを前提として運営されている。しかし、現実にシャトルバスがあるように、全ての人たちが自家用車でやってくるわけではない。この日スタジアムはとてもいい雰囲気で、大分トリニータもすばらしい試合を見せてくれた。しかし、こんな目に会えば不快感だけしか残らない。何もバスの本数を増やせというのではない。ほんの少しの配慮が欲しい。

 数から言えば、12日の試合で私や神戸の2人連れのような思いをした人は100人もいないだろう。その割合は1%にも満たない。全体から見れば些細なこと、ごく、ごく一部の人間の都合に配慮はできないということか。2年経っても全く改善されていないのだから、運営側にしてみればそんな程度のことかもしれない。なにしろ、試合が終わったら余韻など楽しまずにスタジアムを後にして、来た場所に戻りさえすれば何の問題もないのだから。



※このレポートは「ONLINE MAGAZINE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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