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 福岡通信 03/05/08 (木) <前へ次へindexへ>

 北九州にともったサッカーの灯


 文/中倉一志
 北九州市といえば八幡製鉄。オールドファンの記憶に強く残っているチームだ。1950年代から1960年代にかけて九州では圧倒的な強さを発揮。その実力は全国レベルの大会でも余すところなく発揮され、全国実業団大会で2度の優勝を飾ったほか、天皇杯には12回連続出場を含めて14回出場。優勝1回、準優勝3回、ベスト4進出4回の成績を残した。東京・メキシコ両五輪には代表選手を送り込む等、日本サッカー界を牽引したチームだった。

 しかし、今の北九州市にその面影は残らない。日本サッカー界を牽引した八幡製鉄(現新日鉄八幡)は1999年シーズンを最後にKYUリーグから脱退。高校レベルでも福岡市勢の後塵を拝しているのが現状だ。そんな中、新たなチームが北九州市で活動を続けている。その名は北九州ニューウェーブ(北九州フットボールクラブ)。2001年4月に三菱化学フットボールクラブを母体として「地域に根ざす市民スポーツクラブ」を目指して設立されたクラブだ。

 クラブ設立の理由を小野監督は次のように語る。「北九州はもともとサッカーが盛んで、子供たちのレベルも高い。しかし、地盤沈下してきている中で、地元に強豪チームを作ろうという話になった。子供たちの目標となるようなチームを作らなければいけないんじゃないかというのがきっかけ」。スポンサーはいない。選手たちはそれぞれに仕事を持ち、練習は仕事が終わってからのナイター。練習環境は厳しいが、将来はJリーグ入りを目指すと夢は大きい。

 チーム構成は28人の選手と6人のスタッフ(うち、1人は選手兼任)。クラブ運営は全てボランティアが行っている。チームの運営費は後援会会員からの会費と、コカ・コーラウェストジャパン社の協力のもと、クラブマスコット(愛称:Wavy)がデザインされた「ジュース自動販売機」からの売上金の一部でまかない、練習場は行政と三菱化学が提供している。そして試合会場には熱心なサポーターが足を運んで選手たちに熱い声援を送る。



「北九州市には熱がないんです。何かあると博多に行くし、ダイエーを応援する。だけど子供たちはサッカーが好きなんです。そういうところに活気づける何かを持たせたいというのが、ひとつの夢」。そう語ってくれたのはチーム広報を勤める藤井毅宏さん。東京で8年間勤め、そろそろ故郷へ帰りたいと思っていたところへ、北九州市にクラブチームが出来るとの情報が入ってきた。子供の頃からサッカーに囲まれて育った藤井さんが帰郷を決断するのに時間は要らなかった。

「北九州を活気づけたい。そのひとつにニューウェーブがなりたいと思うんです」。さらに藤井さんは続ける。「若い人たちだけじゃなく、全ての世代に愛されるチームになりたい。そのためには勝たなければだめ。全勝するのは難しいけれど、ホームでは勝って欲しい。地元のスタジアムを満員にしてチームの色で染めたいですね」。高校生や、年配の人たちの間でもニューウェーブの活動が話題になるようなチームになることが目標だそうだ。

 そんなクラブが地域型総合クラブを目指すのは当然の流れ。ニューウェーブは将来のJリーグ入りという大きな夢を掲げる一方で、少年、中学、高校、シニア、女子の各チームを抱えた多世代型の市民フットボールクラブに発展させることも視野に入れている。しかしながら、資金も人手もないクラブでは、まだ手がつけられていないのが現状だ。当面の目標は下部組織とシニアチームを設立すること。これが出来れば年代を超えた1本の芯が出来上がる。

 ところで、4月5日に開幕したKYUリーグ。ニューウェーブは、沖縄かりゆし、サン宮崎とは、ともに3−3の大激戦をかわしながらPK戦で敗れるという運のなさも手伝って、現在4連敗中。まだ勝ち星がない。「地元の試合では絶対に勝って欲しい。10日から始まるホームでの4連戦は、なんとしても4連勝して欲しいですね」。そう語る藤井さんは、サポーターとともに観客動員に走り回る。観客の大きな声援が選手に力を与えるからだ。



 さて、地元での4連戦を迎えるチームの仕上がり具合はどんなものだろうか。チームが練習場に使用している桃園競技場をたずねてみた。「ゲームの内容が去年までとは歴然と違ってきている。選手のレベルも上がっている。結果的に勝ち点2だが、勝ち点6を取れたというところもある。そういうところを選手たちが肌で感じているんじゃないか」。小野監督は手応え十分といった表情で応えてくれた。やはり、優勝候補の沖縄かりゆしと、サン宮崎と引き分けたことが大きな自信になっているようだ。

 チームを引っ張る久末選手の言葉も力強い。「2年連続して降格争いをして何をしていいのか分らない時期もあった。優勝候補と当たった4連戦で結果は4連敗だったけれど、過去の経験が生きている。他のチームのことを考えるよりも自分たちのチームが基本通り初心に帰って戦えば、おのずと結果は間違いなくいい方向へ行くと思う。次はホームゲーム。お客さんも、サポーターも、行政も注目している試合。絶対に負けられない」

 そんな彼らの大きな力になっているのがサポーターの声援だ。小野監督は語る。「地元の試合ではサポーターの方の応援の熱意もすごい。今度の試合も、どうやって観客を集めようかというサポーターの気持ちをひしひしと感じる。やはり、それに選手たちも応えるんじゃないか。いってみれば他人の方たちが一生懸命応援してくれる。選手だったらものすごくやる気が出ると思う。皆さんから応援してもらってサッカーが出来るんだから、力がでるはず」

 久末選手も同様に口をそろえる。「ありがたいですね。いつも太鼓の音が聞こえてくるし、きついときなんかは応援してくれると足も動く。沖縄で試合をしたときは、太鼓を持って、わざわざ実費で応援に来てくれた人もいる。その人たちに、いいお酒を飲んでもらいたい」。この日、取材を終えた後も、久末選手は「なんとしてでも勝たなければならない。死に物狂いです」と何度も言葉を繰り返した。それだけサポーターに対する感謝の気持ちが強いのだろう。



 クラブが出来てから3年目のシーズン。Jリーグ入りを公言したクラブが資金を投入して最短距離で上位リーグへ上がろうと努力しているのと比べると、ニューウェーブの動きは実に緩やかだ。スポンサーが付いていているわけでもない。有名選手を連れてくるわけでもない。どこの町にでもある普通のクラブチーム。それがニューウェーブを取材しての私の感想だ。しかし、藤井さんも、小野監督も、久末選手も、間違いなく夢を視野に捉えて離してはいなかった。

 それでも、2年連続で降格争いをしたチームの現状に、「ただ地道にやっているだけじゃないか。Jに上がる意気込みを感じない」という苦情のメールを送ってくるファンもいるのだそうだ。しかし、「急ぐ必要はないと思う。急いで失敗したケースが身近にあるし、少しずつ基盤固めをしてからのほうがいい」と小野監督は言う。「スポンサーは2〜3年ではなれる。そんなときにサポーターから署名活動が起こるくらいまでに、まず認知度をあげなければいけない」と藤井さんも同様に語る。

 誰でもトップリーグでプレーしたいもの。サポーターもトップリーグで戦う選手たちに声援を送りたい。それは心理だろう。しかし、トップリーグでプレーすることだけが大切なのではない。地域に密着して、地域の人たちとともにスポーツがくれる喜びや悔しさを分かち合うこと。強いからではなく、ともに成長することを誇りに思えるようなクラブ作りをチームと住民が一緒になって行うこと。それこそが大事なのであって、トップリーグ昇格は、その結果に過ぎない。

 純粋なアマチュアプレーヤーながら、何度もプロ意識という言葉を使った久末選手。「金銭的には会社勤めが本業だが、心はニューウェーブが本業。やはり夢ですから」と語った藤井さん。Jリーグ入りを目指すクラブとしてはとても環境がいいとはいえないが、人に応援してもらえることの感謝を何度も口にした小野監督。確かにゆっくり過ぎるくらいゆっくりした歩みだが、彼らはしっかりと夢を見据えている。ニューウェーブのような地道な活動もまた、Jリーグの目指しているものなのだ。



【5月のニューウェーブ試合日程】
5月10日(土)  12:00  対 九州INAX  本城陸上競技場
5月11日(日)  14:00  対 三菱重工  本城陸上競技場
5月24日(土)  16:00  対 海邦銀行SC  鞘ケ谷陸上競技場
5月25日(日)  14:00  対 ランザ熊本  鞘ケ谷陸上競技場 ※ニューウェーブのHPはこちら



※このレポートは「ONLINE MAGAZINE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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