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 福岡通信 03/05/23 (金) <前へ次へindexへ>

 新潟戦をどう見るか


 文/中倉一志
 スタジアムに運ぶ足が重い。注意深く見ていればジワジワと変わりつつある気配はある。中盤の4人をどう組み合わせるかという答えは見つかっていないが、FWと最終ラインの陣容はほぼ固まった。しかし、開幕以来、多くのサポーターが感じている「戦う気持ち」を表現できないのは変わらないまま。そして結果が出ない。「2年でJ1昇格」というクラブの基本方針を理解しているサポーターや、地元メディアも、さすがに堪忍袋の緒が切れる寸前まできている。

 シーズン前、地元に本拠地を置くメディアは、これ以上ないアビスパ支援体制を打ち出していた。ここまで暖かな姿勢は過去にはなかったこと。クラブ最高の成績を残した元ピッコリ監督の時でさえ、監督就任が決定した時は「たらい回し」などと言われたものだ。このような支援体制が前面に出てきたのは、フロントがクラブ改革へ積極的な姿勢を打ち出したことと、メディアの各担当者の地元のクラブに育ってもらいたいという強い気持ちが重なったことによるものだ。

 サポーターも最大限の理解を示したといえる。昨シーズン中に表面化したフロントとサポーターの確執は解決を見ないままだったが、フロント側が人事を刷新したこと、「新生アビスパ」に向けて具体的な行動を取ったことで、前向きにクラブを支える姿勢を打ち出した。熱烈なサポーターにとっては、場合によっては「負けもやむなし」とする姿勢は受け入れ難いものだったろうが、一からクラブを作り直すことが福岡にとって最も必要なことだという共通理解はできていたと言える。

 しかし、あまりにも勝てない。外国籍選手と一部のベテランを除けば、U−22とも言える選手構成を考慮する必要はあるが、「若手育成」と「2年でJ1」というキーワードを合わせれば、このメンバーを育て上げて来シーズンのJ1昇格争いに挑むのは既定路線。若すぎるからというのは福岡にとって何のエクスキューズにもならない。先が見えてこない現在、サポーターの欲求不満は極限状態まで高まり、メディアもどう応援していいのか頭を抱えている。



 さて、そんな状況の中で迎えたアルビレックス新潟戦。前半は、今シーズン最高の出来とも言える内容で新潟を1点リード。2位を行く新潟を上回る出来に観客は沸きに沸いた。しかし結果は逆転負け。サポーターの多くは、いつものように徒労感を募らせていた。だが福岡にとっては大きな意味を持つ試合だったのではないか。福岡の目指す方向性、今後の可能性が今季初めて見えた試合だったからだ。確かに敗れた。だが、大きなターニングポイントになりうる可能性を秘めた敗戦だった。

 なにより目立っていたのは縦のバランスが良くなったということ。自陣で奪ったボールを2列目まで下がってくるベンチーニョに当てると、ベンチーニョがためを作って全体の押上げを待つ。そして、両サイドを駆け上がってくる選手へボールをはたいてゴール前へ。サイドが詰まったときには米田とのパス交換から素早くサイドを変えた。また、最前線でターゲット役をこなす林もしっかりとボールをキープ、もうひとつの起点を作り出した。

 バランスが良くなった原因はいくつかあるが、最も大きいのが米田の存在だ。落ち着いたボール捌き、広い視野、出所を予測してボールを摘んでいく守備等々、ボランチとしての働きは合格点。彼がボールをつなぐことで中盤のリズムが改善された。そして宮崎。スペースへ飛び出すという特徴を存分に生かしてベンチーニョが動いた後のスペースをフル活用。もともと前線で張るタイプではないベンチーニョとの相性の良さ見せ、互いの特徴を引き出しあった。

 さらに展開力のある宮原の使いどころが見つかったことも収穫のひとつだ。フィジカルコンタクトに難点を抱える宮原は、トップ下でも、ボランチの位置でも窮屈なプレーが目立ち起用が難しいと考えられていた。しかし左サイドに張ることでプレッシャーから逃れた宮原は好パスを連発。時折中へ切れ込んでゴールを狙う積極性も見せた。「出られるのならポジションはこだわらない」と本人も新しいポジションに意欲を見せた。



 一番の課題となっていた中盤の構成に光が見えたことで、福岡は上昇のきっかけを掴んだといえる。後半、ほとんどチャンスを作れなかった展開に不満は残るが、同点になった時点で勝負は次の1点。両チームの守備意識が高くなったことも考慮する必要がある。守備に混乱をきたした中で同点に追いつかれたにも拘らず、再び押し上げてボールを両サイドに展開した点は、これまでには見られなかったもので、むしろ評価すべき点だろう。

 しかし、大きな課題も浮き彫りになった。それは、やはり失点のシーンに集約されている。ただし、失点の仕方自体を攻める気はない。福岡がCKから喫した1失点目は、ニアサイドにいた新潟の選手がコーナーへ向かって動き出し、マークに付いていた選手の注意を前に引いた瞬間に背後に絶妙なボールを落とすという質の高いセットプレーから生まれたもの。2失点目は、マルクスが高い技術で狭いスペースをドリブルで突破した時点で勝負あり。どちらも新潟の質の高さを誉めるべきゴールだからだ。

 問題は奪われた時間帯。1失点目は新潟がシステムを3−4−3に変えて強引に同点ゴールを奪いに来た時間帯。2失点目は互いにチャンスが作れず我慢比べになっていた時間帯。どちらも次の1点が、その後の試合展開に大きな影響を与えることは、両チームともに理解していたはずだ。まさしく勝負どころの時間帯だった。その2回の勝負どころに全てをかけた新潟と、なすがままに2失点した福岡。ここに福岡の大きな問題が存在する。

 これまでの試合でも、福岡は相手が静かにしているとイケイケで攻め込むシーンが見られる反面、相手が抵抗を見せるとそのままズルズルと押し込まれることも多い。自分たちで試合の流れを読みきることが出来ず、常に流れのまかすままという試合展開が多いのだ。勝負どころと見れば、それなりの方法で相手は必ず仕掛けてくるもの。その流れに身を任せていては失点するのも当然。流れを呼んで、どう対応すべきかを判断する力を養うことが急務だ。



 新潟との戦いは成果と課題の両方が顕著に出た試合だった。この試合を選手たちがどう受け止めるかが、今後の戦いの行方を大きく左右することになるだろう。「いい試合をしても結局は負けた」と捉えるのか、「流れさえ抑えれば十分に勝てる」と捉えるのか。負けたという事実は正面から受け止めなければならない。それは自分たちが弱いということを認めることでもある。しかし、その内容に隠された可能性を冷静に捉えることもプロとしての仕事だ。

 前半に見せたサッカーは、シーズン前のキャンプで何度となく見せていたサッカー。彼らにとっては、決して珍しいものでも、真新しいものでもない。そして、そのサッカーは十分に通用することがこの試合で明らかになった。J1昇格を果たすためには、技術面やフィジカル面を、もっと高めることが必要ではあるが、現在の力でもJ2上位陣と互角に戦える目処はついた。そういう意味では、福岡の目指す方向性が決まった試合だったともいえる。

 ただし、その条件として冷静に局面を把握する精神面の強化が必要であることも、改めて明らかになった。しかし、こればかりは手取り足取り教えるわけにはいかない。トレーニングマッチなら、試合を止めて説明もできるが、公式戦はそうはいかない、始まってしまえば後は選手たちでコントロールするしかない。チームもメンタルトレーニング等を積極的に取り入れる必要があるが、最終的には選手個人の自覚と勝ちたいという気持ちによってしか強化はされない。

 ほんのわずかだけ心の持ちようを変えればいい。何も失点を0に抑えることが必要なのではない。大量得点を挙げる必要もない。勝負どころを相手に抑えられる前に、たった1回でいい、こちらが先に抑えればいい。それで局面は大きく変わる。それだけのサッカーができることは新潟戦で確認できたはずだ。リーダーが不在なら全員で声を出し合えばいいだけだ。今後、今までのように同じことをくり返すのか。それとも一歩前へ進むのか。全ては選手の心の中にある。



※このレポートは「ONLINE MAGAZINE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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