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 福岡通信 03/08/07 (木) <前へ次へindexへ>
 好調アビスパの実力は本物か?次節は進化の問われる広島戦

 さあ、反抗のとき。博多の森にあの熱狂を再び!


 文/中倉一志
 第3クールに入って、ようやく福岡が上昇の兆しを見せ始めた。スタートは甲府と引き分け、新潟には逆転負け。やきもきさせる部分もあったが、その後、水戸、鳥栖に2連勝。第2クールでは、試合の中でいい時間帯を作れるものの、勝負どころで失点を喫しては敗れるというパターンを繰り返してきたが、ここへ来て結果がついてくるようになった。「選手たちが切れずにやってきてくれたことが大きい。経験の積み重ねが自信につながっている」と松田監督も手応えを口にする。

「守備さえしっかりしてれば1点取れば勝てるという感覚があるとないとでは、ゲーム運びだとか、シュートを決めるとこだとかいうところで、落ち着きとかの部分が変わってくる。そういうものがチームの中に今日あった」(松田監督)。第25節に行われた水戸戦後の記者会見での言葉だが、我慢の時間帯を落ち着いて乗り切れるようになった。劇的に変わったわけでも、スーパーヒーローが生まれたわけでもない。精神的な成長が大きい。

 第26節の鳥栖戦は、そんな福岡を象徴するようなゲームだった。よく集中してゲームに入り、立ち上がりの主導権を握ったところまではよかったのだが、その後、とにかく前へ出てくる鳥栖にリズムを狂わされた。真夏のゲーム、しかも中2日ということも影響したのだろう、身体の切れが感じられず、両翼に宮崎、大塚というスピードのある選手を起用しながら、狙いのサイド攻撃が機能しない。鳥栖に決定的なチャンスも奪われた。

「前半戦った印象としては、非常に難しい試合だなという感じ」(松田監督)。この難しい前半を、福岡はとにもかくにも慌てずに凌いだ。それが後半開始直後の先制点につながる。その後、中盤に大きなスペースを作ってしまったために試合をコントロールするまでには至らなかったが、要所を抑えてバタバタした展開に持ち込まれることを防ぐ。そして、終盤に差し掛かった75分、ここぞというところでカウンター一発。これで勝負を決めた。



 前半戦の福岡なら、水戸戦も、鳥栖戦も、いいリズムのうちに得点を奪えず、リズムを崩してはバタバタと失点を喫し、消化不良のまま敗れるという結果も十分にあったはず。しかし、「ここでやっているゲームが一番の経験。どんな練習よりも財産になる」(松田監督)というように、試合を通して、勝負のあやを嗅ぎ分けられるようになってきた。2試合ともツキもあったが、ツキを物にするのも実力のうち。そもそも、ツキがくるのも辛抱強くゲームを続けているからこそだ。

 もちろん、精神力だけで勝っていけるほどプロの世界は甘くない。裏づけとなる技術、戦術があってこその精神力。技術や戦術からもたらされるもので自信をつけ、その自信が強い精神力の裏づけとなり、その精神力が技術・戦術の向上をもたらす。「心技体」とはよく言ったもので、このバランスがとれて初めて結果というものが生まれてくる。いまの福岡は、経験から得た自信がチーム全体のパフォーマンスを成長させていることも見逃せない。

 一番の成長は中盤の連携に磨きがかかったことだ。下がってくるベンチーニョを軸にして、4人のMFが流れるようにポジションチェンジを繰り返してボールをつなぐパターンはすっかりお馴染み。中でも米田の成長が大きい。広い視野と簡単にボールを捌く能力の高さは、いまや福岡の中盤に欠かせない。篠田との縦の関係のバランスもよく、攻撃時に篠田や米田がゴール前まで攻めあがることで、攻撃に厚みが出るようになった。

 この中盤は守備面でも大きな役割を果たしている。それが顕著に表れているのが、中盤でのプレスとルーズボールに対する反応だ。福岡の中盤はかつての襲い掛かるような激しいプレッシングサッカーとは無縁だ。しかし、スルスルと相手にブレスをかけ、造作もなく2ndボールを拾うシーンが目立つ。これはボールに対する予測の良さからくるもの。このことによって、ズルズルと下がるシーンが消え、すばやい攻守の切替を可能にしている。



 鳥栖スタジアムのゴール裏に駆けつけたアビスパサポーター。
 アウェイゲームのサポーターの応援は選手に大きな力を与える。
 この中盤のバランスの良さは最終ラインが高い位置をキープすることも可能にした。相手へのプレスがかかっている状態では、DFが不用意に裏を取られることはなく、また下がりながらのDFはすっかり消え、前へでてボールをブロックするシーンが目立つようになった。攻守が一体となったスポーツであるサッカーで守備が安定すれば攻撃もよくなるのは当然。両SBの積極的なオーバーラップも攻撃にアクセントを加えている。また、最終ラインを統率する藏田のパフォーマンスの良さも見逃せない。

 そして、前線の林、福嶋の成長もチームに大きな力を与えている。ベンチーニョがトップ下のような仕事をする福岡にあっては、前線でボールをキープする選手の存在は不可欠。高い位置でボールをキープすることによって宮崎の飛び出しが効果的になり、ベンチーニョの落としたボールを、もう一度トップで受けることによって後方からの押し上げを可能にしている。また、労を惜しまないチェイシングもチームに大きく貢献している。

 さて、サッカーとは組織スポーツ。そういう意味では、特定の誰かを注目するのは私のポリシーではないが、それでも気になる選手がいる。それは宮原と古賀の2人だ。かつての超高校級のスーパースターは、怪我に悩まされ、ある時は精神的なものを指摘され、Jリーグでの実績を積み重ねられないまま福岡へ戻ってきた。その胸中に複雑な思いがあったことは想像に難くない。だが、残念なことに昨年も才能を発揮できないままに過ごした。

 しかし、その2人の目が明らかに変わった。フィジカル面での課題を抱える宮原は自分の居所を見つけられずにいたが、左MFに定着するや攻守にわたって存在感を発揮。その才能が輝き始めた。また、守備に課題があった古賀はスーパーサブという立場に自分の活路を見出した。一時のおどおどした態度は消え、自信を持って駆け上がる姿は相手にとって脅威の的だ。彼らの持つ力はまだまだこんなものじゃない。育った福岡で大輪の花を咲かせることを願っているのは私だけではないだろう。



「勝てないけれど、今年のチームは成長が楽しみ」。そう言って、低迷する福岡をサポーターは支えつづけてきた。時には歯がゆい思いをしながら、それでもチームの成長を祈って、ただひたすら応援を続けてきた。厳しい横断幕が下がったこともある。しかし、それもチームに対する愛情からだ。スタジアムに行くと、いつも同じ場所に同じ顔が見える。名前は知らなくても同じ仲間。そんな仲間たちに、ようやくチームが応える時期がやってきたようだ。

 それでも、福岡が9位というのは厳然たる事実。チームは確実にひとつの壁を乗り越えたが、ここから上に行くには、更なる壁を破らなければならない。それは簡単なことではないし、また足踏みをすることもあるだろう。手応えを口にする松田監督も、「これからが大事。真剣勝負の中でクタクタになるまで力を出し切るしかない」と語る。そして、「やっと基盤ができたが、まだ確実に勝てるところまでは来ていない」と気を引き締める。

 そういう意味では、広島、大宮と続く2連戦は福岡にとって最も大切な試合になる。もう一段ステップアップするためには何があっても勝たなければいけない試合だ。いまの力を本物にし、更なるレベルアップを図るためには強豪相手に対する勝利という結果が必要だからだ。「いまはどのチームも、あんまり差はない。そういうリーグなんで、相手のことは気にせずに自分たちのサッカーを貫くことだけ」。そう松田監督も意気込みを語る。

 これまでの低迷は長かったのか、短かったのか。それは神のみぞ知るところ。しかし、いま反抗の時がやってきたことだけは間違いない。最初のチャンスのアウェイで戦った新潟戦は、あと一歩のところで敗れたが、今度は2度目のチャンス。しかも2試合ともホームゲーム。このチャンスを物にしないわけにはいかない。選手はもちろん、サポーターも気合を込めて博多の森に集まってくるはず。その博多の森が歓喜の声に包まれることを願っている。
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