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 福岡通信 03/09/11 (木) <前へ次へindexへ>

 さあ、勝負のとき


 文/中倉一志
「一体どこが変わったの?」。先日、知り合いのライターと久しぶりに酒を酌み交わした際、開口一番に、こう聞かれた。彼は以前、博多の森に取材に来ていたのだが、その頃は福岡が不振にあえいでいた時期。いくら戦っても勝利が見えないどん底の頃だった。その頃からは考えられない福岡の快進撃。そんな福岡に驚きを隠せないようだった。細かなことを言えば理由は山ほどある。しかし、私は右手で胸を叩きながら答えた。「ここが強くなったからですよ」

 それにしても見事な勝ちっぷりだ。第3クールの初戦である甲府との戦いに引き分けて、続く新潟戦で終了間際に2点を失って逆転負けを喫した時には、正直に言って「まだ時間がかかるのかな」と思ったものだ。内容は悪くない。開幕前から目指していたサッカーが出来るようになってきた。でも「何かが足りない」。その「何か」さえ身につければ大きく変わるという予感は十分あったのだか、ここまで見事に成長するとは思っていなかった。

 福岡の快進撃ぶりは周りの環境も変えた。シーズンが進むにつれて報道陣が減り、メディアへの露出も激減した。しかし、5連勝したニュースを地元紙がカラーで裏一面に報道。取材陣も増え続け、31節の山形戦には4台のテレビカメラをはじめ、多くの記者がミックスゾーンで選手たちの声を拾った。その賑わいは開幕戦のよう。手のひらを返したような急変ぶりに戸惑いを覚えないわけではないが、まあ、ありがたいことには変わりない。

 先日、あるニュース番組が「残り全勝すれば逆転J1昇格もあり得る」と語った。あくまでも上位陣が思うように勝ち点を伸ばせないという条件付だが、川崎、広島の第3クールの戦いぶりを見ると、奇跡と言うほど可能性が低いというわけでもない。しかし、「今まで同様、一戦、一戦大事に戦っていくだけ」と松田監督は平常心を強調する。小さなことを積み重ねることで成長してきた福岡。たとえ周りが変わろうと彼らの姿勢は変わらない。



 さて、第3クールの最終戦で福岡は川崎と対戦する。川崎は、新潟、広島とともにJ2の3強を形成し、現在は広島との間で激しい2位争いを演じている強豪だ。しかし、第3クールの成績は、ここまで4勝3分3敗。思うように勝ち点を伸ばせないでいる。休みなく続くJ2の試合日程と、追い求めるプレッシングサッカーというスタイルが、チームに疲労を蓄積させているのかもしれない。第3クールだけなら新潟と並んで首位の福岡にとっては決して難しい相手ではない。

 しかし、川崎のポテンシャルの高さは誰もが認めるところ。調子を落としてはいても侮れる相手ではない。J1昇格に向けて星勘定が気になりだす時期の試合では、勝ち点3を取ること以外は頭の中にないだろう。まして3連敗を喫することはJ1昇格に向けて致命傷になりかねない。知将として知られる石崎監督も、あの手、この手を駆使して勝負を仕掛けてくるはずだ。勝敗の行方は五分と五分。福岡にとっては真価を問われる試合になる。

 月並みな言い方をすれば、やはり中盤での攻防が鍵を握ることになるだろう。川崎の中盤5人と、ベンチーニョを含めた宮崎、大塚、米田、篠田の5人の争いを制したほうがゲームをリードすることになる。川崎の3−5−2に対し、福岡は4−4−2とシステムこそ違え、中盤のプレスから高い位置でボールを奪い、両サイドへワイドに展開するのが両チームのパターン。互いの特徴を潰し合うような序盤が予想されるが、ひるまずに前に行くことが必要だ。

 中でも重要な役割を担うのが米田だ。第11節に先発で出場して以来、持てる才能を伸ばし続け、今では押しも押されぬ福岡の中心選手となった米田。巧みなポジショニングと的確なヨミでボールを拾い、ベンチーニョへ、そして左右へとボールを捌く。福岡の攻撃はここから始まるといっても過言ではない。おそらく石崎監督も研究済み。米田に激しくプレッシャーをかけてくるだろう。しかし、それを乗り越えてこそ活路が見えてくる。



 もうひとつの鍵は両サイドの攻防。特に川崎の左サイドとの攻防が重要になる。相手は攻撃力と運動量に定評のあるアウグスト。対峙するのは大塚と川島だ。前回の博多の森での対戦でも(第3節)大塚と川島の2人が抑えにかかったが、44分、深く進入してきたアウグストに、わずかな隙をつかれてゴールにつながる絶妙なクロスをいれられた。このサイドで押し込まれることは川崎にゴールチャンスを与えるだけではなく、福岡の攻撃パターンをも封じられることを意味する。

 勝負にはひとつの鉄則がある。自分たちよりも劣る相手との対戦なら相手の得意なところさえ抑えてしまえばいい。それさえ出来れば特別なことを仕掛けなくてもチャンスは必ずやって来る。しかし、同等か上のチームとの対戦ではそうはいかない。相手の得意なところを抑えることに腐心すれば、そのために出来た綻びを突かれる。それに相手が最も得意とするところを90分間抑えることは不可能。いずれやられる場面がやってくる。

 そんな相手に勝利するには、相手の得意なところで勝負を挑み、競り勝つ以外に方法はない。確かにアウグストの存在は福岡にとって警戒を要することは間違いない。しかし、ベンチーニョが下がってストッパーとボランチを引き出せば、アウグストの後ろには大きなスペースが出来るはず。大塚にとっては絶好の働き場所だ。細心の注意を払いつつも、このスペースに思い切りよく飛び出していければ、むしろチャンスは福岡にある。

 また守備については、いつものように前線からボールを追い、中盤でプレッシャーをかけ、そして最終ラインで絡み取ればいい。キーワードはコンパクトなゾーン。誰が中心というのではなく、全体の組織で守らなければいけないのは今更言うまでもない。福岡の第3クールの失点は9。いつも通りにやりさえすれば心配はない。ただし、ゴールを奪われることがあることも覚悟しておく必要はある。完封が理想だがサッカーは点取りゲーム。大切なことは追加点を与えないこと。そして2点目をいつ取るかだ。



 サッカーは首位に勝っても、最下位に勝っても、手に入れられる勝ち点は3。そういう意味では次節の川崎戦は44分の1でしかない。しかし、今の福岡にとって川崎との戦いは最も重要な意味を持つことは間違いない。勝てば5割に戻せるという意味もあるが、今の勢いが本物かどうか、ひとつ上のレベルへチームが脱皮できるかどうか、それを探る試金石の試合になるからだ。勝利を得ることが出来れば第4クールを突っ走る大きな力になる。

 変身を遂げた福岡は、いまJ2で最も手強いチームとなった。それが全チームに知れ渡ったいま、どのチームも激しくぶつかってくるはずだ。意識的につぶしに来るチームもあるだろう。特にJ1昇格に向けて取りこぼしが許されない上位3チームにとっては最も警戒すべきチーム。あらゆる手段を使って勝ち点3を奪いに来る。福岡が今の勢いを続けるのは、そう簡単なことではない。

 しかし、そんな厳しい戦いは、福岡にとっては、ある意味で願ってもないことだ。シーズンの半分をかけて強い気持ちを手に入れたとはいえ、その経験はまだまだ浅い。強い気持ちをさらに大きなものにするためには、より厳しい環境、より厳しい相手との対戦が必要不可欠。そして、その中で勝ち進んでこそチームの力は本物になっていく。川崎戦、それに続く第4クールは、まさにそんな場所。臆することなく正面からぶつかって勝利を手に入れて欲しい。

「博多の男なら気持ちを見せろ。恐れることはない。さあ行こうぜ」。博多の森でサポーターが歌う言葉だ。この歌声を背中に浴びながら福岡は勝利を重ねてきた。いまは「全部勝てばJ1昇格」などと考えなくていい。この歌詞の通り、目の前の試合にありったけの気持ちをぶつけて、ひとつ、またひとつと勝利を重ねることだ。それさえ出来れば、その先にある大きな夢は確実に近づいてくる。13日、博多の森に歓喜の声が上がることを信じよう。
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