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 福岡通信 03/11/21 (金) <前へ次へindexへ>

 博多の森の熱狂、再び。


 文/中倉一志
 その瞬間、博多の森が大歓声に包まれた。86分、ゴール前の混戦からボールがペナルティエリア左外側にこぼれた。そこにつめていたのは古賀。「いいところに転がってきたのでシュートを打とうと思った」。古賀に迷いはない。つつくようにしてボールをトラップすると得意の左足を一閃。古賀らしい豪快なシュートがゴールネットに突き刺さった。両手を突き上げる福岡イレブン。呆然とする新潟イレブン。福岡の勝利を決めた一発だった。

「こんなにいろんなことが重なることはめったにない」(松田監督・福岡)。この日は福岡のホーム最終戦。今シーズン対新潟戦初勝利と松田監督が掲げる「後期優勝」がかかる。また、この試合に勝てば第4クールは上位3強に対して2勝1敗。来シーズンのJ1昇格レースに向けて大きな弾みになる。さらに新潟は引き分け以上でJ1昇格が決まるというシチュエーション。報道陣は100人を超えている。その重みは単なる44分の1のものではない。

 キックオフ前、オレンジ一色に染まったアウェイ側のスタンドに足を踏み入れてみる。すさまじい迫力に圧倒される。「博多の地でJ1昇格を決める」。彼らの決意は並大抵のものではない。しかし、福岡のサポーターが負けるはずはない。ウルトラ・オブリもエスコティーバも、そして大小、様々なサポーターチームを中心に大きな声援が起こる。「ここは博多の森。誰にも負けない」。誇りと意地を乗せた大声援が新潟コールを押し戻す。

 福岡にとっては全てがかかった試合だった。今の力が本物か。来シーズンJ1昇格レースを戦える力があるのか。それを証明するためには勝つ以外にない試合だった。この試合に勝たなければ、積み重ねてきたものが崩れ落ちる。誰もが同じ思いを胸にしていた。「アビスパの今年1年間の集大成の試合。勝ちに行かなければならない」(松田監督)。指揮官も迷いはない。今シーズン最高となる13,921人の注目を浴びてキックオフの笛が鳴った。



 試合開始直後の1分、古賀とアレックスのコンビが左サイドを突破する。更に続く3分、今度は平島が右サイドからドリブルを仕掛ける。福岡のこの試合にかける気持ちが伝わってくる。「中盤を制覇されて、サイドに前を向かれてしまう、サイドチェンジされてしまう、プレッシャーがかかってなくて後手を踏んだ」(反町監督・新潟)。両サイドをワイドに使った展開から、左サイドを中心に何度もサイドを突破して新潟ゴールを襲う。しかし、ラストパスの精度に欠きシュートに持ち込めない展開が続く。

 対する新潟は両サイドが押し込まれて前に出られず、攻撃は上野、マルクス、ファビーニョの3人に託すのみ。鈴木、三田の欠場でサイドが使えず攻撃のパターンは単調だ。しかし、劣勢に立たされながらもシュート数は福岡を上回る。「いつもの戦い方だなと。うちがなんとなくボールをキープしているんだけれども、速攻で危ない場面があって」(松田監督)。特にスピードに乗ったドリブルを見せるファビーニョが不気味だ。

 不用意に中盤でボールを持ったところを奪われて、カウンターから4失点を喰らった第2節。前半は主導権を握りながら、ここぞというところで失点を喫して競り負けた第13節。残り5分で逆転負けした第24節。嫌な記憶がよみがえる。しかし、福岡は逞しさを身に付けていた。高い集中力を維持するDF陣は中央に入るボールをことごとく押さえ、セットプレーでは完璧な守備を見せ、ピンチには水谷がスーパーセーブを見せる。我慢のしどころで集中を欠いたかつての福岡の姿はない。

 そして、勝負どころをきっちりと抑えられるようになったのも成長の証だ。39分、ベンチーニョが起点になって右へはたく。ボールを受けた福嶋が右サイドでドリブル突破を仕掛けた。しつこくすがりつく新潟DF。しかし、力強く前に出る福嶋は身体ひとつ振り切った。この時点で勝負あり。マイナスのクロスボールを中央に走りこんできたベンチーニョが決めた。ここぞという時間帯での先制ゴール。勝負強さを見せた貴重な一発だった。



 後半も同じような展開が続く。しかし、徐々に新潟が攻撃の形を作り出す。パターンは前半と変わらない。ただ、高い位置にボールが落ち着くシーンが増えていく。そして69分、ファビーニョに同点弾を決められた。最も警戒しなければならなかったカウンターから、不気味な存在だったファビーニョをフリーにしてしまっての失点だった。さらに新潟は右MFの位置に入った深澤の鋭い縦の突破を利用して一気に攻勢に出る。福岡にとっては嫌な流れだ。

 しかし、ここでも福岡は成長の証を見せる。誰も慌てるそぶりを見せず、攻勢に出る新潟を確実に押さえて反撃のチャンスを待つ。「みんなが少しずつでも良くなりたいという向上心を持ってずっと取り組んでくれた」。松田監督は福岡の成長の要因を上げるが、どんなときでも同じことを繰り返し、繰り返し、身に付けた自信は揺らぐことはなかった。やがて試合は一進一退の攻防へ。そして残り10分となったところで福岡の猛攻が始まった。

 最後の勝負の時間帯だ。好ゲームは必要ない。目指すものは勝利のみ。イレブンはもちろん、ベンチも、スタンドも全員が同じ気持ちでボールを運ぶ。そして古賀にチャンスが巡ってきた。シーズン当初は出場機会に恵まれず、第3クールからはスーパーサブに、そして最終クールでは不動の左MFの位置を確保した古賀。チームの成長とともに復活を果たした古賀が全てをぶつけるように左足を振りぬいた。次の瞬間、博多の森にあの熱狂が帰ってきた。

 新潟にはJ1昇格のプレッシャーがあったのだろう。両サイドバックの欠場も響いた。しかし、緻密なケームプランと巧みな采配で定評のある反町采配の上手を行くゲーム運びで大一番を制した福岡の戦い方は見事。1年間の集大成を披露した試合だったと言える。そして指揮官は、ホーム最終戦のセレモニーの中で高らかに宣言した。「我々の信ずる道を継続して、来年は悲願の目標を達成したい」。スタンドに再び大きな歓声が上がった。



 だが、油断は禁物だ。確かに福岡が現時点ではJ2で最強であることは誰もが認めるところ。しかし、それは明日の勝利を保証するものではなく、ましてや来年の力関係を表すものでもない。互いの差など殆どないに等しいプロの世界では、現状維持は後退を意味し、僅かな油断は致命傷になる。ここまででいいということはあり得ない。常に一歩先を見つめて確実に前進を続けなければならない。立ち止まれば、たちどころに置いていかれる。

 しかも、J1昇格への道は平坦ではない。第3クールを終えて2位に勝ち点6差をつけていた新潟は、その後10試合で5勝1分4敗と失速。最終節に全てを賭けることになった。ホーム最終戦でJ1昇格を決めた広島は、最下位の鳥栖相手にラッキーな決勝ゴールで勝つのがやっと。川崎Fは、第43節の湘南戦で普通ならあり得ないゴール2つを喫して勝ち点2を失った。対戦相手に加えて、強烈なプレッシャーと神様の気まぐれとの戦いでもある。

 それは、今までに福岡が経験したことのない世界。松田監督はチームの土台作りに手ごたえを感じながらも、「うちがそういう状況だったらどうかということは別の話。簡単に比べることは出来ない」と気を引き締める。この1年間でいくつもの壁を突き破り、大きな力を身に付けた福岡。これからは、積み重ねてきた実績と自信を元に、更なる向上を目指す。来シーズン、J1昇格は目標からノルマに変わる。今度は負けることは許されない。

 そのためにはクラブに関わる全ての人たちが、引き続き、ともに戦うことが求められる。フロント、職員はチームをバックアップできるか。サポーターはチームを支え続けられるか。メディアは福岡の代表チームを側面からサポートできるか。そしてチームは44試合に全てを賭けて戦えるか。それができたとき、博多の森は歓喜の渦に巻き込まれるはずだ。2003年シーズンは終了するが、それは新しい戦いへのスタート。福岡のチャレンジはこれからだ。
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