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 福岡通信 04/02/19 (木) <前へ次へindexへ>
 J1昇格を目指すアビスパ福岡は、宮崎キャンプで力を蓄える。

 J1へ向けて、まずは順調な滑り出し


 文/中倉一志
 J1昇格へ向けて、アビスパ福岡が大事な、大事なキャンプを行っている。勝負をかける2004年シーズンは3月13日に開幕して11月27日までの260日間に渡って44試合を戦う。第2クールと第3クールの間、37節から38節にかけて、そして41節から42節に、それぞれ2週間のインターバルがある他は絶え間なく試合が続く。シーズン中にチームを立て直す時間は限りなく少なく、開幕までの約1ヶ月のトレーニングが全てを決するといっても過言ではない。

 今シーズンの福岡は、ホベルトを除いては即戦力、あるいは大型補強は行っていない。だが、主力選手全員が残ったことこそが最大の補強と言える。「やり方としては変わらない。逆にいえば継続性というのは一番の強み。その質を上げることが一番」(松田監督)。若い選手を育てて戦う集団を作り上げたスタッフは、そのままのスタイルで更なる飛躍を目指す。若いといっても十分に戦力として計算できる選手ばかり。それどころか、伸びしろはまだまだ大きい。

 そんな福岡のチームスローガンは「We WILL make it !」。困難や障害を克復して、J1昇格の目標を成し遂げるという意味が込められている。WILLを大文字で表したのは「必ず実現する」という意思を強調するためだ。あるフロント幹部は「今年J1に昇格するのはアビスパの運命」と公言し、サポーターも「今年、昇格するしかない」と決意を新たにする。もちろん選手たちの視線もJ1昇格のゴールを捉えて離さない。

 さて、去る14日、福岡は今年初めてのトレーニングマッチをG大阪と行った。あいにく、春一番が吹き荒れて、じっと立っていられないほどの悪コンディション。しかし、そんな中でも選手たちは、自分たちの戦い方を確かめるかのようにボールをつないだ。「昨年のベースがどれだけ継続しているのか不安な部分もあったが、チームのベースみたいなものができている。最後まで集中が切れなかったのも良かった」(松田監督)。まずは順調に滑り出したようだ。



博多の森に熱狂は訪れるか?全てはキャンプにかかっている。
 それでは試合を振り返ってみることにしよう。前半の布陣は、GKに水谷。最終ラインは右に川島、左にルーキーの木藤、センターバックに藏田と増川の4人。ボランチは米田とホベルトが並び、両アウトサイドには宮崎と古賀が構える。2トップは林と、調整遅れのベンチーニョに代わって太田が入った。現時点でのベンチ入り候補と見ていい布陣だ。久しぶりの試合、しかも強風が吹き荒れる悪コンディションとあって細かいミスが目立ったが、時間とともに福岡はリズムを刻みだした。

 10分、木藤からのフィードを太田が前線でキープして、左サイドを駆け上がってきた古賀へ渡す。古賀はスピードを落とすことなくサイドを突破してセンタリング。そして中央で待つ林が合わせた。その後も福岡は軽快なリズムでボールを回す。前線でターゲットになるのは太田。林はやや下がった位置でバランスを取る。そしてポストプレーから両サイドへ、あるいはボランチから左右に大きく展開し、右からは宮崎と川島、左からは古賀、木藤の連携からサイドを何度も崩していく。

 ゴールが生まれたのは21分。右CKからゴール前のこぼれ球を増川が押し込んだ。前半のゴールシーンは、このひとつだけだったが、24分に宮崎が放ったミドルレンジのシュートをはじめ、34分、35分、38分と、いずれも左サイドの崩しから決定機を作り出した。ベンチーニョ、アレックスの2人が欠場していたが、少ないタッチでボールをつないで両サイドを崩すというチームスタイルは変わらず。昨年のスタイルがチームのベースとして定着していることが窺えた。

 そして注目のホベルト。そのプレースタイルに派手さはなく、どんなプレーでもシンプルにこなす。あまりにゆったりと簡単にプレーするので厳しい場面に直面していないかのような錯覚に陥るが、それは基本技術が高いからこそ。人に強く、左右前後に捌く柔らかなパスは受け手に優しい。「自分が目立とうとする選手じゃない。チーム戦術の吸収も早く、守備がしっかりしていて両サイドが攻撃的なうちには必要な選手」。松田監督の評価は高い。



この声援がJ1に届くこと。それがサポーターの夢だ。
 後半に入ると福岡は全選手を入れ替えて臨んだ。ゴールマウスを守るのは塚本。最終ラインは右から平島、千代反田、小川、立石。中盤の底は松下と篠田の2人。両サイドのアタッカーに大塚と宮原を置き、2トップは練習生の山形と、福島がコンビを組んだ。後半も押していたのは、どちらかといえば福岡。しかし、71分にPKを許して90分間トータルとしては引き分けに終わった。内容的には展開力の面でベンチ入りメンバー候補との差は否めなかったが、そんな中で積極的に仕掛けていた大塚、平島の動きが目を引いた。

 現段階で福岡の最も手薄なポジションといえばCB。この日は増川が藏田とコンビを組んだが、どういうコンビを起用するにしても44試合という長丁場を2人だけで乗り切ることは不可能だ。藏田を中心にして、増川、千代反田を起用するパターンや、場合によっては川島をCBに戻して平島、立石を右に置くというオプションも出てくるだろう。いずれにせよ、鍵になるのは千代反田、平島、立石の3選手。この日は後半に出場したが、彼らがベンチ入り候補に合流することで福岡の布陣は厚みを増す。キャンプ後半の頑張りに期待したい。

 現在、練習生扱いでキャンプに参加している山形は、前線を所狭しと走り回る運動量と、すばしっこい動き、そして細かな足元のテクニックを披露して元気なところを見せた。しかし、シンプルにボールをつないで両サイドから崩すという福岡のスタイルには、まだ馴染めていない印象だった。実際、山形が動き回るために福島のプレーエリアが両サイドに限定されてしまったり、右サイドの上がりとの連携が合わないシーンも。1日も早く福岡の戦術に慣れて持ち味を発揮してもらいたいものだ。

 もう一人、気になった選手が宮原。高いパス能力は誰もが認めるところだが、残念ながら自分の居場所を見つけ切れていないようだ。この日は左アウトサイドで起用されたが、どこか窮屈そうな印象はぬぐえず、攻撃の起点になれなかった。翌日行われた鹿屋体大との試合にはボランチとして出場したが、ここでも持てる才能を発揮したとは言い難い。縦に速いMFが多くいる福岡にとって、宮原のパス能力は貴重な財産。早く居場所を見つけて欲しい。



当日は500名近い観客が訪れた。これもチームに対する期待の現われ。
 ここまでに限ればキャンプは順調に進んでいる。それは、チームに拠り所が出来たというか、ベースとなる戦い方が選手の中に蓄積されていることによるものだ。やっていることは昨年と変わらない。おそらく、昨年の今頃に見たチームの戦い方の印象も、この日に見たG大阪とのトレーニングマッチの印象も、さほど変わるものでもないだろう。しかし、授けられた戦術と、自らの身体に染み付いた戦術とでは意味合いは違う。

 この違いは大きい。ベースがしっかりしていないチームは、勝てなくなったとき、あるいは試合中にリズムが崩れたときに、どう立て直したらいいのかという道標がない。こうなったらずるずると負けを繰り返すだけだ。しかし、道標さえあれば、多少の回り道をしたところで、そんなにおかしな状態には陥らない。そして、今の福岡には道標がある。リズムが悪くなると、誰ともなく「シンプルに、シンプルに」と声を出し、大きく崩れる前に建て直しを図っていた。

 そのベースをいかにより強固なものにするかがキャンプの課題だ。J1昇格を争うだけの力は十分にある。しかし、今までと違って対戦相手は目の色を変えて戦いを挑んでくる。昇格争いの真っ只中で味わうプレッシャーは、今まで選手たちが感じたどのプレッシャーよりも大きいだろう。そうした様々な障害を乗り越えて、声高らかに「We WILL make it !」と宣言するためには、いまあるベースを少しでも高い位置に引き上げることが必要だ。

 トレーニングマッチに訪れたファン、サポーターの数は500人ほど。それは、ファンやサポーターがJ1昇格に対して大きな期待を抱いていることを意味すると同時に、自分たちもチームとともに戦うという意思表示でもある。クラブ改革が進み、地域密着に目を向け、そしてチームにも力がついた。J1昇格を果たすのは今年しかない。誰もがそう思っている。開幕までは1ヶ月あまり。蓄えられるだけ蓄えてシーズンを迎えよう。全てはキャンプで決まる。
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