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 福岡通信 05/08/24 (水) <前へ次へindexへ>

 ここからが正念場
 2005Jリーグ ディビジョン2 第27節 アビスパ福岡vs.京都パープルサンガ

 取材・文/中倉一志
2005年8月20日(土)19:04キックオフ 東平尾公園博多の森球技場 観衆:曇時々雨 観衆:13,348人
試合結果/アビスパ福岡2−1京都パープルサンガ(前0−0、後2−1)
得点経過/[福岡]アレックス(51分)、田中(64分)、[京都]パウリーニョ(78分)


「難しい試合になりましたね」。ハーフタイムに数人の記者仲間と顔を見合わせた。別に京都に押し込まれていたわけではないが、福岡も効果的な攻撃を許してもらえなかった。これこそが、この日の京都のゲームプラン。負けさえしなければいい京都の徹底したリアリズムの前に福岡が攻撃の糸口を見つけられなかったからだ。リスクを最小限に抑える京都に対し、いつ、どうやって仕掛けるのか。その方法もタイミングも、非常に難しく思えた。

 しかし、私はチームに詫びなければならない。アウェイに取材に行き、毎日のように練習を見ながら、彼らが身につけた力強さが、あれほど大きなものとは気がつかなかった。「我慢比べだなという感じはしていた。京都は前半に得点を取るチーム。前半は0−0でもいいかなという気持ちはあった」(松田監督)。チームは閉塞感とか、欲求不満とかいう感覚とは無縁だった。少しも慌てることなく、勝負の時を虎視眈々と待っていたのだ。

 そのときがやって来た。後半に入って、一気にペースを上げた福岡は51分にアレックスのゴールで先制すると、そのまま一気呵成に攻め立てて64分には田中が2点目をゲット。そして京都の反撃を1点に抑えて第3クールの大一番を制した。これからの戦い方に大きな勢いをつける勝利だった。しかし、ミックスゾーンに現れた選手たちは冷静そのもの。自分たちのサッカーをすれば、どんな相手でも関係ない。そう言っているかのようだった。

 そして、最後まで選手たちを支え続けた観衆の大声援も忘れるわけにはいかない。この日、スタジアムに足を運んだ観衆は今シーズン最多の13,348人。サポーター自らが作ったネイビーシートを頭上に掲げ、大声で歌を歌い、そして手拍子と声援を選手たちの背中に送り続けた。スタンドの熱い思いと選手たちの強い気持ちがシンクロし、ともに戦う一体感で包まれた博多の森。そんな雰囲気が、この日の戦いに大きな力を与えたことは間違いない。



 この日の福岡はブラジル人3人が先発に名を連ねるベストな布陣。グラウシオ、ホベルト、アレックスの3人が揃って顔をそろえるのは第16節の京都戦以来のことだ。対する京都は、田原とパウリーニョをベンチに置き、前節の徳島戦と同様に2トップに松田と中払を置く4−4−1−1で臨む。徳島に攻め入る隙を与えずPKとカウンターから2点を奪った布陣で臨んだのは、全体のバランスを考慮してのもの。無理はしない姿勢が窺える。

 最初にビッグチャンスを作ったのは京都。まだ30秒も経過していない時間だった。松田のポストプレーから左にあまった美尾へ。美尾が1対1から強烈なシュートを放つ。これはGK水谷がスーパーセーブで弾き返したが、そのこぼれ球を今度はドフリーになっていた中払が右足で狙う。博多の森の観衆が目をつぶった瞬間、再び水谷がスーパーセーブを見せてゴールマウスを死守した。試合の行方を決めかねない大ピンチ。これを防いでいなかったら、試合はまったく別の結果になっていただろう。

 このピンチを逃れたことで落ち着きを取り戻した福岡。そして、ここから試合は我慢比べの様相を呈していく。それにしても京都のリスク回避は徹底していた。マイボールは米田と最終ラインの4人でゆったりと回し、そこから、サイドを経由してクロスボールを上げるか、松田めがけてロングボールを放り込むというもの。滅多なことでは中盤にボールを入れることはない。不要なチャレンジはせず、前に詰まれば後ろに戻して、同じパターンを繰り返す。

 攻めを受け持つのは松田と中払。決して人数をかけることはない。松田へのボールが合わなければ素早く自陣に引いて守備体系を整えて福岡の反撃に備える。明らかに、点を取ることよりも福岡に攻め手を与えないことに力の大半を注いでいる。勝つしかない福岡はボールを左右に広く配りながら攻め手を見つけようとするが、さすがに、これだけ守備の意識を高くされてしまっては、それも容易ではない。パスミスも目立ち、福岡は攻めきれないままに前半を終えた。



 しかし、福岡は前半を終えて自分たちのサッカーが出来る感触を得ていた。象徴的なシーンは、4分にグラウシオを起点にして、古賀、アレックスとつないで相手を完全に崩したシーンと、22分に田中、グラウシオ、宮崎とつないで最後はアレックスが決定的なシュートを放った場面の2つ。加えて、グラウシオと田中が比較的簡単に前を向けていたのも自信を得る原因となっていた。そして、その自信が後半の猛攻へとつながっていく。

 後半の立ち上がりから前に出る福岡は、中盤のスペースにグラウシオ、山形が入り込み、ダイレクトパスをつないで京都の守備陣を切り裂いていく。攻守の切り替えの早い、リズミカルにボールをつなぐ福岡のサッカーに京都は付いていけない。試合の流れは一気に福岡に傾いた。そして51分、田中からボールを受けた古賀が左サイドを突破。自陣の低い位置から右サイドまで走りこんできたアレックスが、古賀からのクロスに頭で合わせてゴールをこじ開けた。

 1点のビハインドを追う京都は、松田、美尾を下げて田原、パウリーニョを投入。しかし福岡の組織サッカーは揺るがない。そんな福岡の2点目は64分、古賀のラストパスを田中が難しい体制から身体を反転させながら左足を一閃。次の瞬間、京都のゴールネットが大きく揺れた。しかし、京都もここから猛反撃を開始する。戦術は、田原とパウリーニョにめがけてボールを蹴るという、いたって単純なもの。それでも個の力でチャンスを作るところが、京都らしいと言えば京都らしい。

 田原が、パウリーニョが、そして星が決定的なシュートを放つ。しかし、ここで再び水谷がスーパーセーブを連発。京都の前に立ちはだかってゴールマウスを死守する。「まさに守護神の存在感」とは松田監督。その言葉通り、水谷の活躍を抜きにしては、この日の勝利は語れない。78分にはパウリーニョに1点を許したものの高い集中力を発揮する福岡は2点目を与えず。85分にはグラウシオを下げて長野をCBに投入。宮本を右へシフトさせ、中村北斗をパウリーニョのマンマークにつけて1点のリードを守りきった。



 福岡に圧倒された原因を「少しアバウトに蹴りすぎた。そこでセカンドボールを拾われて、相手に攻撃されるという形が多かった」と柱谷監督は振り返ったが、逆を言えば、それこそが京都のサッカー。京都の最大の武器である「個の強さ」を発揮すればするほど京都の単調な攻撃が浮き彫りになり、同時に福岡の攻撃が際立って見えたのは皮肉だった。どのチームもJ1昇格のために戦っている。その方法論はいくつもあって、どれが正解と決め付けられるものではない。しかし、この日の試合は「福岡の組織」が「京都の個」を粉砕した一戦だった。

 これで福岡は第20節から6勝2分。一時は23もあった京都との勝ち点差を13にまで縮め、ここへ来て、ようやく本来の力を発揮し始めた。その要因のひとつはメンタル面での成長。選手たちが決められたことだけをこなすのではなく、主体的に試合にかかわるようになったことで逞しさを身に着けた。また、田中の成長をはじめ、古賀が本来の力を余すことなく発揮していること、長野、山形辰徳らが使える目途が立ったこと等、戦力に厚みが出てきたことも好材料だ。

 戦術的には変わったところはないが、グラウシオをトップの位置に固定したことによって彼のFWとしての能力をフルに発揮させられるようになったこと、山形恭平を中央で使うことによって攻撃のバリエーションが増えたことも大きい。シーズン前の移籍の穴は埋め切れていないところもあるが、過去2年間のベースを守りながら、新しいチームの形が出来つつある。

 しかし、大一番だった京都戦も、終わってしまえば44分の1に過ぎない。福岡の前にあるのは、京都との間に勝ち点13の差があるという現実と、J2で優勝してJ1昇格を果たすという目標だ。グラウシオが口癖のように言う言葉だが、まだ何もなし終えたわけではなく、目の前の試合をひとつずつ勝ち続けなければいけない状況に変わりはない。ここからが本当の正念場。福岡にかかわるあらゆる人の力を結集して、ひとつずつ勝ち星を重ねたい。その先に優勝とJ1昇格のゴールがある。


(アビスパ福岡) (京都パープルサンガ)
GK: 水谷雄一 GK: 平井直人
DF: 中村北斗 宮本亨 千代反田充 アレックス DF: 鈴木和裕 リカルド 鈴木悟 三上卓哉
MF: 宮崎光平 ホベルト 山形恭平 古賀誠史(73分/林祐征) MF: 米田兼一郎 斉藤大介 星大輔(72分/加藤大志) 美尾敦(58分/パウリーニョ)
FW: 田中佑昌(89分/喜名哲裕) グラウシオ(85分/長野聡) FW: 中払大介 松田正俊(55分/田原豊)
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