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 福岡通信 05/11/23 (水) <前へ次へindexへ>

 いざ行かん、最後の戦いの舞台へ
 

 取材・文/中倉一志
「次の試合に全てをかけたいと思います。応援をよろしくお願いします」。スタンドで他会場の結果を待っていたサポーターの前にやって来た選手たちを代表して、塚本が大きな声で挨拶をした。それに大きな拍手で応えるサポーターたち。選手も、スタッフも、そしてサポーターも、その視線に一点の曇りもない。仙台が引き分けたために、この日の昇格はならなかったが、博多の森で5年ぶりのJ1への切符を自らの手で勝ち取る思いは変わらない。

「この1週間、みんなで始まった瞬間から取りに行こうと言っていた」(千代反田)。その言葉どおり、この日の福岡は最高の立ち上がりを見せた。キックオフと同時に左サイドを突破。後方からはホベルトが押し上げて草津ゴールに迫る。クリアボールを拾ってぶ厚く攻めあがるスタイルは、絶対に勝つという強い意思を示すものだった。その後も試合を支配するのは福岡。草津の粘り強い守備に慌てることなく、高い位置からプレスをかけ、シンプルにつなぎ、そして両サイドから押し上げるいつものサッカーを丁寧に続けていく。

 先制点が生まれたのは28分。宮崎、山形、アレックスとつないで田中へ。田中がヒールでゴール前にボールを送ると、斜めに走りこんできたグラウシオがGKの逆を突いて左隅に流し込む。鮮やかなパス回しと巧みなシュートに、GK小島はただボールの行方を見守るだけだった。その後も福岡は高い集中力を維持。緻密な守備網で草津に攻撃の機会を与えず、ゴールが生まれない展開にも辛抱強く自分たちのサッカーを続けていく。

 後半に入ると草津は高い位置からボールを追い始める。しかし、福岡のバランスは崩れない。しっかりとボールをキープしてシンプルに前線へ。前に出ようとする草津をいなすようにゲームを進めていく。そして54分。左サイドでボールを受けたグラウシオがアレックスとのワンツーから縦へ突破。長い距離を走って右サイドへ顔を出したアレックスにラストパスを送ると、これをアレックスが流し込んだ。その後も草津にチャンスらしいチャンスを与えない福岡は、J1昇格に大きく近づく勝ち点3を手に入れた。



 札幌戦、草津戦を通じて際立つのは、集中力の高さと辛抱強さ、そして球際とセカンドボールに対する強い気迫だ。勝敗を分けるディテールの部分では決して譲らず。そして、ゴールに結びつかない時間帯も、相手が前がかりになる時間帯も、決して慌てずに自分たちのサッカーを淡々と続けていく。基本に忠実に高い位置からプレスをかけ、丁寧にボールをつなぎ、速い攻守の切り替えから相手ゴールを脅かした。

 それは、決して相手を一方的に叩きのめすようなサッカーではない。しかし、隙を与えず確実に自分たちのチャンスを作り出すサッカー。必要なのは派手なプレーではなく、点の取る確率の高いプレーと、それを支える安定した守備。そして、それを90分間にわたって全員がやり通すディシプリンだ。それは松田監督とチームが3年間を通して追求し続けたもの。ここ2試合、それが形になって現れている。おそらく、いまのチームは今シーズンで最高の状況にある。

 選手たちも十分に手応えを感じているようだ。そして、その状態をきちんと維持している。22日、雁の巣レクリェーションセンターで、福岡に拠点を置く全てのTV局のカメラが回る前でインタビューを受けた千代反田は精悍な表情で語った。「前節、前々節と変わらず、身体のほうも、気持ちのほうもいい状態できている。立ち上がりから積極的に走って点を取りに行って、守備は0で抑えれば勝つ確率が高まると思う。激しさを持った試合をしたい」

 そして昇格に必要な勝ち点1を博多の森のサポーターの前で獲得することに強い意欲を示す。「去年悔しい思いをして、やっとここまで来た。明日は全精力をつぎ込んで、全力を出して勝ちに行く」とは山形恭平。そして松田監督も「ホームで決められるタイミングをいただいた。応援してくれているファン、サポーターの前で昇格を決められるチャンス。それを生かしたい。それが我々の責任のひとつ。多くのファンのみなさんと喜びを分かち合えるように全力で戦いたい」と強い決意を表した。



 さて、あの万博記念陸上競技場で涙を流してから4年。新生アビスパとして再スタートを切ってから3年。いよいよ、願っていたゴールの前までたどり着いた。1日でも早く目標を達成するという意味では、前節の草津戦で決まって欲しいという気持ちも強かったが、それが今日に持ち越したのは、きっとサッカーの神様の「全員の力を最後に見せてみろ」という意思表示なのだろう。それも望むところ。スタジアムが一体となったパフォーマンスを見せたい。

 不思議なもので、目標達成を目前にしても過度な期待も不安も感じない。いつも言うように、J1への昇格はチームの力だけが試されているわけではない。福岡にかかわる全ての人の意思が試されている。過去4年間、サッカーの神様に「その意思がまだ足りない」と言われ続けてきたが、その間、クラブも、チームも、サポーターも、そして全ての人たちが、その思いを大事に育ててきた。それは長い間の蓄積。いまさら大きくは変わらないと思うからだ。

 その歩みは遅々としたものだった。正直に言えば、その道のりが果てしなく遠くに思えたこともあった。しかし多くの人に励まされ、多くの人の熱い気持ちに触れ、多くの人たちと思いを確認しあいながら歩いてきたことで、それは確実に大きなものになった。町全体に福岡を応援する機運が出てきたことや、ここへ来てメディアが積極的に扱ってくれていることは、様々な事情があるにせよ、そうしたみんなの大きな思いと無関係ではない。

 紆余曲折を経て、福岡はJ1昇格に合格点をもらえるところまでやって来た。そして今日、改めて、そのことを博多の森で証明して見せるだけでいい。満員のスタンドから湧き上がる大声援。それに勇気づけられて選手たちが見せる最高のパフォーマンス。そして、そのパフォーマンスが新たな歓声を呼び起こす。最高のパフォーマンスと熱い思いが一体となって作り出す博多の森の熱狂を、サッカーの神様が感じないはずはない。



 しかし、長い時間をかけて手に入れた、大きな壁を突き破るための力や、サッカーの神様の信頼も、失うときは一瞬の出来事。わずかな油断は全ての準備を無駄にする。数字の上では限りなく福岡が有利だが、まだ昇格が決まったわけではない。試合終了のホイッスルが鳴る最後の瞬間まで、今までと寸分たがわない熱い気持ちで戦って欲しい。そして、今までで最高のサポートでチームを後押ししたい。それが、最後の最後で我々に求められているものだ。

 グラウシオは言う。「まだ何も手に入れていない状態。この試合に焦点を合わせて頑張りたい。サポーターはリーグ戦が始まってから、いい時も、悪いときも、ずっと声援を送ってくれた。そのサポーターの期待に応えるためにも、いい試合をして勝利を挙げて、それによって念願のJ1昇格をみんなの前で果たしたい」。

 今日の試合は、昇格の喜びを味わうためにあるのではない。昇格を自らの手で勝ち取るためにある。4年間貯めてきた思いを開放するためにあるのではない。4年間の思いをぶつけるためにある。そういう意味では、今まで戦ってきた173試合と何ら変わらない。むしろ、長い戦いの最終章として、今まで以上に大きな意味を持つ試合と言える。それを勝ち抜いてこそ歓喜の瞬間が訪れる。そのとき、4年間追い続けてきたものに答が出る。その瞬間まで全力で駆け抜けたい。

 数時間後、福岡にとって最も大切な試合に数えられるであろう試合が始まる。その戦いの舞台へ出かけよう。そして全てを尽くして戦おう。4年間の戦いに終止符を打ち、新たなスタートを切るために。
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