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 札幌からのメール 03/07/05 (日) <前へ次へindexへ>

 サッカーで幸せになる


 文/笹田啓子
 2年ぶりに訪れた博多の森はいい匂い。
 バックスタンドの裏側に並んだ露店の店先でジュウジュウいってる焼きそば、やきとり、牛カットステーキ串。前に来たときはこんなステキなものがあるなんて知らなかった!昔からあったのかな!厚別全然(食い物)負けてるじゃん!なんて仲間とガヤガヤ言いながら客席への階段を上がると、ホーム側バックスタンドに陣取った福岡サポーターの応援の元気な歌声が聞こえてきた。

 でもウチも負けないもんね。ウィルと交換という形で大分から借りてきたアンドラジーニャの札幌初試合。紅白戦を経て試合前日、ジョアン・カルロスからは珍しく羽振りのいいコメントがオフィシャルメールで流れてきて、なんだかこれはいい予感。ウィルが出場停止明けで4月の新潟戦、今季はじめて出てきたとき、それまでのチームの不出来が嘘のように内容が一変したときのことを思い出す。選手が一人変わっただけだけど、さて今回は果たしてどれだけ変わるのか?不安よりは期待のほうがはるかに大きく。



 でも蓋を開けてみたらなんにも変わってない。
 どう目を凝らして見てもなんにも変わってなかった。
 ディフェンス危なげあり。中盤ボール持ちすぎ。出てくるパスは味方の様子を伺うが如くゆったりと、虫が止まりそうなスピードでボテボテゴロゴロ。そして前線の選手はシュートを打たない。いや打てない、のか。

 福岡のパスが3本きれいにすらりと繋がってあっという間に札幌ゴール前。「あぁぁ、間違いなく1点〜」…のはずの福岡のシュートは、その期に及んでちょろキック・或いは博多の森の深い緑に吸い込まれ。そんなことが2度3度続くと、試合前あれほど元気だった福岡サポーターの歌声が、露骨に小さくなったように聞こえた。だけどそれはこちらも当然のように一緒。

 いい攻撃を見せて盛り上がるだけ盛り上がっても、最後の最後で「あ〜〜」と溜息の連続の福岡。いい攻撃を見せられるだけ見せられて、すんでのところで命拾いで嘆息の連続の札幌。
 90分無得点で主審の笛が鳴ったあと、「お互いよくこんなチーム応援してるよね…」と、大きな横断幕を侘しげに片付ける両方のチームのサポーターの姿を見ながら心底思う。好きでやってるサポーター家業、偉いなどと思うことはほとんどない私でも、このときばかりは「偉いよサポーター」と心底思う。やっぱり福岡とは何か切っても切れない縁があるのやもしれぬ、などと博多の森の深い闇を照らし出す照明の美しさと、心にひろがる「あぁ、もう今年ホントにダメだな…」という苦い想いが交じり合って、なんともいえぬ味わい深さ。



 なにも変わりそうにもないチームに対する、いよいよもっての絶望感。でも絶望してもJ2は長い、まだ半分以上残ったスケジュールを見ると絶望感更に上塗り。気分を観光に切り替えても、博多ラーメンがとっても美味しくても、「かろのうろん」をまた食べられる幸せにめぐり合えても、ダメなものはダメ。なにひとつ私を心から幸せにさせない。チームの今年のこれからのことを考えるとどんどんどんどん鬱になる。そこに追い討ちをかけるジョアン・カルロスとホベルッチの衝突ニュース。およそ日本のサッカーファンが「やっぱり」と思うことがやっぱりここ札幌でも起きて。

 あぁ、もういよいよお終いだ。
 今年はもう何の夢も希望もないまま一年が、きっとこのまま終わってしまうのだ。
 2年も続けてこんな辛い思いばかりしてしまうなんてあんまりやりきれない。
 そこで私は決意する。今年はもうチームに夢は見るまい。夢など託すまい。地道に頑張っていればそのうちきっと道は開ける、でもたぶんそれは今年ではない。だから今年のチームはさっさと見限って、サッカー以外に何か楽しい事を見つけてたまにはそちらに打ち込もう。仕事もいっぱいだし、恋愛もいいね、旅にも出たい、買い物に走るのも!

 …なんて考えても、いや考えれば考えるほど、私の心を真に幸せに出来るのは、ほかのなにものでもないサッカーしかないと思い知らされる一方で。

 浮かない気持ちのまま、それでも私の足はちゃんと水曜の夜ドームへ向かう。いつもの平日の試合よりも、更にその日はドームへ向かう人の列が少ないよう。ますます心が浮かなくなる。そんな夜のお相手は大宮。



 これに負けると順位が入れ替わり8位へ。勝つと最高5位まで上がれる。でもそのとき私達の頭にあったのは「引き分けはいや」程度。案の定前半のうちから1-2と、先制されたのにあっさり逆転されてしまって、やっぱ何も変わってない!と思っていたのが。

 前半ロスタイムから後半6分までのあいだに「ものすごく変わったこと」が起きた。
 立て続けに4得点、得点者は全員違い、今年入団したルーキーの岡田くんのプロ初ゴールも出た!その後も続く彼の果敢なアタックに、大宮の守備陣以上に猛烈に揺さぶられる札幌サポのハート。結果、誰もが予想もしていなかった6-2の大勝。こんな嬉しさって一体いつ以来。

 ドーム酸欠で痛くなった頭をかかえながら、それでも顔は笑ってしまう。笑いながら考える。
 サッカー以上の楽しみなんて、やっぱり見つけられないってことを。
 どれだけサッカーが私の気持ちを暗くさせても、どんなに逃げ出したい気持ちに囚われることがあっても、反面どれだけサッカーが私の気持ちを明るくさせるか、どれだけ浮き立たせるか、それはやりがいのある仕事も好きな人も可愛い服もカバンもいい温泉も美味しいものも、どんなものでも絶対に適わない。サッカーで幸せになりたい。みんながみんな、そうはなれないってわかっていても、「選ばれた一人(J2では2人)」になりたいと、思う気持ちを止められない。

 大宮戦から3日後の土曜日、「一日中くもり」の天気予報が大ハズレの7月の快晴。真っ青な空の下、スタンドの赤い人波が90分のうち3度揺れる。「選ばれる2人」を決める戦いに、後半戦からは参戦できそうな予感に私達の心も揺れる、「サッカーで幸せになる」その入り口にようやくたどり着けたような予感に。
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