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 札幌からのメール 03/08/13 (水) <前へ次へindexへ>

 戦う気持ち 〜張さんが訴えたもの


 文/笹田啓子
 台風10号のもたらした雨と風は、土曜の夜半のうちに過ぎていって、明けた日曜日の朝は台風一過の夏らしい青空!…と言いたいところだが、まだまだ雲が低く残っていて、その雲が強い風に流されて隙間から青空と太陽がのぞいたり隠れたり。チームも台風一過、だけど晴天とはお世辞にも言えないところと、この日の天気は実にぴったりだ。

 だって他に何と言い方がありましょう。
 新潟にアウェイで5点も取られて激負け。したそのすぐあとに、選手の前で「辞める」と監督が言っちゃうこと。さよならジョアン・カルロス。この2シーズンの間に5人目の監督を迎える私達。しかも3人目と5人目は同一人物。昨季もJ1残留への望みがミクロの世界になった頃に監督を任された張さんが、また今年も、去年よりはいくらかまだJ1昇格への望みが天文学的な数字ではないとはいえ、またも緊急事態に監督を任される。ファンからすれば「だから最初から張さんに任せておけばよかったのに!!」としか他に言いようのない、なんともみっともないドタバタ喜劇、今年Jリーグで「ありえないチーム大賞」なんてものがあったなら、それは間違いなくこの札幌が頂戴いたしましょうと胸を張って言えるこの現状。

 なんて情けない!そしてこんなに情けないのに何故私はいつもと全く同じように、午後2時からの試合のため朝8時にドームに着いて場所取りの並びに加わり美味しくビールを呑んでいるのやら!



 張札幌の初陣は(正確には2度目の初陣)現在3位の川崎がお相手。
 JFL時代には川崎には相性がよかった、というか、97年最初の昇格を果たした年、2度の対戦で2度とも札幌がそれはそれは華やかな逆転勝ちを収めている。しかし川崎との相性がよかったのはここまでで、札幌が降格した翌年99年からは、川崎には一度も勝てていない、すこぶる相性の悪い相手となってしまっている。だから、初陣にするには非常によろしくない相手で、しかもこれに負けると2位、3位との差が更に離れてしまうので、勝利必至、なのではあるけれど、ジョアン時代の4バックを、張さん体制の1週間でそれまで2年ほど慣れ親しんでいた3バックに戻したばかりでもあるので、更に加えてそれまでの数試合大車輪的な存在だった、というよりかはむしろ幼稚園の引率の先生のようであったビタウが出場停止。逆境といえば、これ以上はない逆境ではある。

 でも、いかな逆境であろうとも、いや逆境であればこそ、チームがファンに見せられるものはひとつだけはあり、そのひとつを張さんが着任と同時に強く訴えた。それすなわち「戦う気持ち」である。

 実際その「戦う気持ち」というものは、その日の試合の随所で見ることができた。
 システムはさすがに付け焼刃、着々と2位以内を狙う川崎のある程度のこなれたサッカーとは比べるべくもない突貫工事っぷり。1対1ですかっと抜かれたピンチはそのままPA近くのファウルを誘い、それはアウグストの美しいFKをも誘ってしまうことになる。開始早々0−1。逆境に磨きがかかる。でもなぜか、このまま負けてしまうとは、なぜか思えなかった。冷静にその試合を眺めれば、「ではどこに勝ち目が?」と聞いてみたくなるような内容だったのに。



 野生の勘あたる。
 この日初出場だったウリダからのパスを受けアンドラジーニャがそれはそれは豪快なシュートを私達の目の前のゴールにドカンと叩き込む。そこから突然、といっていいほどチームは息を吹き返した。システムは慣れてないし、なにがなんだかもう大変なんだけど、とにかくなんとか最低限漲らせよう、と強制的に放出されていたようであった選手個々の「戦闘オーラ」が、それ以降自然とピッチの上に漲っていく。

 怪我から戻ってきて以来、パフォーマンスがなかなか元に戻らないと危惧されていた今野が久々に身体を張ったプレーでボールを奪い返す。カルロス時代にはボランチだの左サイドだのと本職以外のポジションで使われていた川口が、本職のCBで中央に入り最終ラインを鼓舞する。サッカーの内容としてはJ2レベルそのものの試合だったのだろう、とは思う。けれどもピッチ上に濃密に立ち込めた札幌、そして川崎の選手たちの気持は、内容以上にその試合をしっかりとした重みのあるものにしてもいた。

 試合はそのまま引き分けに終わった。
 ロスタイムに右サイドを抜け出した砂川から、途中交代で入った新居にパスが渡る。GKと1対1だ。勝ち点3への期待に胸を膨らませるには、この時間帯なら1秒で十分だ。ありったけの思いを込めて誰もが叫んだ「あらいーーーーーーーッ」はしかし、新居が放ったシュートが枠を外れていくのと同時に「ギャーーー」という溜息含みの絶叫に変わるしかなく。札幌の最終ラインの選手たちが皆それを見て一斉にバタリと倒れる。私とて同様、逃した期待のあまりの大きさに、悔しいとも悲しいともなく咄嗟に仲間と「ドリフみたい!」と顔を引きつらせて笑うしかなかった。



 ピッチの上に確かにあった「戦う気持ち」。
 でもその戦う気持ちは、ピッチの上だけでなく、サッカーに対し常に持ち続けることではじめて、気持ちを技術という形に昇華してゆくことができる。それを最後に思い知る。追い詰められた中で、果たして選手達、チームがどこまでそれを持ち続けることができるか。そのことをこれから、「ホントにできんのかぁ?!」と軽く冷やかしつつ、しかし内心期待しつつ眺めてゆく。…つくづくサッカーには、いろんな楽しみ方があるものだ。
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