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 札幌からのメール 03/10/30 (木) <前へ次へindexへ>

 負け試合のあとの虹


 文/笹田啓子
 平地まで紅葉がやってきていた。札幌から室蘭へ向かう約150kmの、8年ごしで通いなれた道のりは通例毎年3月か4月の春先ご利用で、10月のこの季節に通ることは少なかったから、赤や黄色の暖色系に染められた木々や山は新鮮に映ったし、空も雲ひとつなく蒼、左手に太平洋、鮭の一本釣りを狙う竿の列、ああ秋だ、観光だけが目的ならば快適なドライブ。であるが。

 目的はドライブでも紅葉でもなく、室蘭で行われる札幌の試合である。
 前日会社で営業課長くんに「明日苫小牧行くんすか」と聞かれた。苫小牧でホッケーの日本リーグ・王子対コクドの試合がある。私ならばそれに行くだろうと思って問うた彼に「明日は室蘭じゃ」と答える私。リアクションにつまる営業くん。詰まってるくせに「まだ(コンサに)行くンすか(笑)」と聞くのはなかなか上等だ。
「行くさ。ああ行くさ悪いか!」



 しかし結果は「行って悪い」としか言いようのない、みどころのない、否、「昇格争いからこぼれた下位チーム同士の対戦はこれだけタルいです」という点のみ見所の、ただただ緩慢と90分の時が流れ、その中で大宮が1点を挙げ札幌は1点も挙げられず結果0−1で大宮が勝ちました。そう書き記す以外他に何もない、ハラハラと葉が落ちやせた枝が裸になったそのへんの落葉樹が、あとは雪に積もられるのを待つだけみたいな、なんにもなさ。…と書いて「いかん、これでは落葉樹に失礼だ」と思うほど、比類なき空虚さが漂う試合であり、またそういった状態の札幌でもあり。(ただ見る限り大宮も相当どっこいだったけれども)

 ボールを持った選手のまわりにしか時間が流れない。目の前の広いピッチは全体としては静止画像のよう。サッカーってこんなスポーツだっけか。そんな試合ばかりしばらく見続けてきた札幌の私含むサポーターたちは、果たして90分が終わって試合に負けて選手が整列しても、拍手をするでもブーイングをするでもなく選手がその場を立ち去るのをただ見るという、静止画像の一部分に自らもなって終わってしまった。

 怒りも悲しみも今更湧いてこない。試合途中に降り出した雨が唐突に止んで雲間から僅かな青空がのぞき陽の光がこぼれ、紅葉に彩られた山の裾野から空に虹がかかる。しかも二重の虹。さっきまで見てた静止画像に比べたらそれはそれは美しい錦絵の世界、でもこんな試合のあと、こんなシーズンの中ではそんな綺麗な空すらも嫌味にしか思えなくて。



 思えば、ほんとにどん詰まりな一年だ。チームだけじゃなくって、北海道全体がそうだ。続く不況、冷夏、不作、洪水、地震…悪いことほぼなんでもありだ。右を向いても左を見ても、明るい話題なんか見つかりゃしない。いろんなことが束になって自分たちを押し潰しにかかってくる。ただなぜか、そんな冴えない毎日で下を向きがちの頭の、その上の空は案外いつも美しく。それこそ、負け試合のあとにかかる虹のように。

 空が青いことぐらいは何の希望にもならない。でも空は青い。
 虹がかかったぐらいで次の試合に勝てるわけでもない。でも虹はかかる。

 応援したところで点は取れない。でも応援する。
 見に行ったところでロクな試合じゃない。でも見に行く。

 室蘭で選手の目に私達は、負け試合のあとの虹のようにきっと見えたことだろう。美しく且つイヤミな虹。だけど帰りながら私が「今度は勝ってこんな虹が見たい」と思った、そんな思いがチームの誰か一人にでももしもあれば、無駄なような空も虹もいつの日か僅かな希望になりえる。きっと。



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