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 札幌からのメール 03/11/03 (月) <前へ次へindexへ>

 あてのないチェック


 文/笹田啓子
 厚別での今季ラストゲームは新潟がお相手。初の昇格を目前にして、意気上がる新潟サポーターがたぶんそれなりの数来るであろうし、いくら今年が年間通していただけないシーズンであったとしても、目の前で昇格間近のチームの調子のいいとこを見せつけられて凹み感倍増、なんて試合には、こちらも意地でもしたくない。

 という試合だというのに、私は仕事で欠場。試合は夜にビデオで見た。その前に試合に行っていた仲間から電話。「いい試合だったよ。今季一番いい試合だったかも」と、勝ちきれなかった割に声は明るい。それまでに届いたメールも、ほとんどみんなが試合内容に好意的なものだった。「(勝てなくて)悔しかったけど、選手たちが自分達以上に悔しそうな顔をしていたから、それで救われた気持ちになった」そんな言葉を寄せた人もいた。

 ビデオを見返す。テレビ映像でホームゲームを見るのは3ヶ月ぶりぐらい。それほど「後で見たい」と思うような試合がなかったということである。もっと言えば録画もしなかったというのもあるんだが。

 NHK札幌で放送のあったその試合は、北海道内のみならず新潟にも映像が送られているということだった。確かに新潟の地元サポーターからしたら、今はひとつの試合も見逃せない時期だ。そんな新潟サポーターの気持ちは、音声からも伝わってくる。太鼓の音が大きい方こそ札幌だったけど、声の大きいのは新潟。試合がはじまってしばらくは大きな太鼓の音+大きな歌声 が混沌とする。私の頭の中も混沌。いま札幌の応援はこんなにしょっぱいのか!ということをテレビ映像という視点から思い知らされる。新潟のサポーターの声が明るく力強く弾むのに比べて、なんて暗く沈んだ声!調子のいいときはスタジアム全体から湧き上がるようだったチームコールも、いつ叫ばれているのか判らないぐらいに、なってしまってた。

 選手が攻めあがってもスタンドは沸かない。
 そんなことしたって勝てるわけじゃないでしょ
 1年間培ったチームへの不信感はホームスタジアムから明るさをすっかり奪っていた。前半10分に札幌が先制点を挙げてもさほど雰囲気には変化がなく、同30分に新潟が同点に追いつき、38分にこの試合2度目の警告でアンドラジーニャが退場になるとますます意気消沈…と、なるのが今年の流れだったのが。



 この日の札幌はなぜか違ってた。
 先週室蘭で、あまりにもあんまりな試合をしてしまった、さすがにその反省なのか反動なのか、それとも彼等のプロとしてのなけなしの誇りだったのか、スタンドの雰囲気とは裏腹に、序盤から積極的に選手たちは動いていた。
 長いリーグ戦の終盤、チーム戦術としては完成・円熟に入る時期、しかし今季の札幌にはその完成させるべき戦術がなかった。チームとしての体は既に成していない。「だからもう今更何をやっても無駄なんだ」それが頂点に達していたのが室蘭での大宮戦だとすれば、この新潟戦は「無駄かもしれない、だけど」そんな意思が、今季ここにきてはじめてチームに見えた試合、と言えるかもしれない。

 強いチェックを入れる。それまでのチーム状態を考えたら、それは本当はあてのないチェック。ボールを奪ったところで、後に誰も続いてこないかもしれない。チャンスにはならないかもしれない。それでも、そうしたい。

 ひとり足りなくなった札幌が、その数の不利をはね返して後半8分に今野が勝ち越しゴールを挙げると、新潟の攻撃陣に押し込まれつつも最終ラインが踏ん張り、攻撃陣はまるで今季の札幌はそれだけやってきましたと言わんばかりの、実際には付け焼刃の、しかし絵に描いたようなカウンターアタックを何度も見せ新潟ゴールを脅かす。

 ギリギリのところで選手たちが見せたプライドに、それまで静かだったスタンドに大きなうねりが現れた。応援の声が小さくて臨場感がないな、ボリューム少し上げるかなと思っていたことをすっかり忘れていた。もうボリュームを上げる必要がないぐらい、スタジアムからの歓声は大きくなっていた。その声は後半44分に新潟が上野のこの日2得点目で追いつかれると一旦静まり、そのまま引き分けで終わり選手が整列するとまた、大きくなった。「面白かった」そう讃えるかのような拍手だった。

 翌日の朝はよく晴れて、11月とは思えぬ暖かさ。緩やかな日差しの中で昨日の試合を思うと爽やかな気持ち。勝った翌日の朝はいい、と思って、いや引き分けだった、と思い直す。勝てなかったけど勝ったように思い返せる試合。あてのないように見えたチェックが生んだ結果は、あてがないどころか、思ったよりも深く私の心に刻まれていた。たぶん私と同じように、ほかのサポーターたちの心にも。
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