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 頑張れ!女子サッカー 03/09/26 (金) <前へ次へindexへ>

 欧州王者が磐石の戦いでグループ突破。敗れた日本も2ndラウンドに大きな前進。


 文/西森彰
FIFA女子ワールドカップ USA2003 グループC ドイツ女子代表vs.日本女子代表
2003年9月24日(水)17:45キックオフ コロンバス・クルー・スタジアム
試合結果/ドイツ女子代表3−0日本女子代表(前2−0、後1−0)
得点経過/[ドイツ]ミナート(23分)プリンツ(36分、66分)


 第4回女子ワールドカップ・アメリカ大会初戦。日本女子代表は実力を遺憾無く発揮。メキシコとのプレーオフでジャッジしたエロビルタ主審の厳格なジャッジにも助けられ、6−0の圧勝を演じてベスト8に向けて好発進した。次なる相手はグループ最強国のドイツ。日本と同ランクと見られるカナダに先制されながら4−1と逆転勝利。こちらもきっちりと初戦をものにしている。

 両国は1995年に行なわれた第2回女子ワールドカップ・スウェーデン大会を皮切りに、これまで3回対戦。ドイツが3連勝と貫禄を見せているもののスコアは1−0、3−2、1−0とすべて1点差で、楽観的に解釈すれば、ドイツ3位、日本14位のFIFAランキングとは不釣合いなほど、ドイツが日本のパスサッカーに手を焼いているようにも見えてくる。

 そういった相性というものに加えて初戦で見せつけた日本のスピーディーな攻撃サッカー。名将ティナ・マイヤー監督の頭に「日本、侮るべからず」という意識がインプットされていたのだろう。世界ランキング3位のドイツは、アジアの第4代表に敬意を払い、その戦術を研究した布陣で臨んできた。



 ドイツは、先発してくると思われた左の攻撃的サイドバック・ブレゾニクをベンチに置き、キープ力のあるヒングストとボランチもこなすヨネスをセンターバックに起用し、最終ラインでの致命的なパスを封じる。それとともに女子ワールドカップの過去4大会全てに出場しているキャプテンのヴィーグマンがボランチでスタート。経験に裏打ちされたプレーでバイタルエリアを見張りながら、ボールポゼッションを高める。

 さらにアルゼンチン戦で縦横無尽に疾駆した田崎ペルーレFCの山本絵美、川上直子に対する備えも万全だった。まずセンターバックタイプのミナートを中央から左に移し、川上の縦への突破を封じる。さらに山本がボールを持つと右ウイングのギャレフレクス、そしてヴィーグマンが寄せ、縦はシュテーゲマンが蓋をする念の入れよう。孤立した山本はほとんどフリーでボールを持たせてもらえなかった。

 キックオフから積極的に攻めた日本だが、制空権を完全に握られ、数多くのセットプレー、そしてサイドアタックも生かすことができない。コーナーキック、フリーキックなどをはじき返すうちに、日本の攻撃が自らの装甲を破れないことを悟ったドイツ代表は、20分過ぎから、徐々に攻撃にシフトチェンジした。



 イングランド女子代表戦のレポートでも触れたとおり、ドイツ代表は最前線に張るプリンツを中心線に、日本から見て左サイドに主力選手が固まっている。日本のパススピードに慣れたドイツの選手たちは、持ち前の速い寄せで酒井與惠、山本絵美、沢穂希というトライアングルを完全に分断した。そしてそのままテーピングの痛々しい矢野喬子が守るスペースへ襲いかかる。

 ギャレフレクスのシュートをポストと山郷のぞみのファインセーブで防いだ直後の23分だった。右コーナーキックを頭ひとつ抜け出したマイナートがヘディングシュート。バーに弾かれたボールを山岸靖代が頭でクリアするが、この落下点にいたミナートに上手く足であわされた。23分、日本は大会初失点を喫した。

 日本はドイツの寄せるスピードに苦しみ、ダイナミックなサイドチェンジが影を潜めた。しかし、そのミスを恐れる弱いショートパスは、逆にドイツのプレス網に的を絞らせてしまった。36分、2方向からのチェックにパスコースを失った酒井がボールを失った瞬間、日本の3バックは完全に一線上。マイナートのスルーパスに抜け出したエースのプリンツに簡単に2点目を奪われる。

 日本はその5分後、右コーナーキックを小林弥生がニアに速いグラウンダーを蹴り、これを大谷未央が後方にダイレクトで戻す。ミスを取り戻すべく放った酒井の強烈なシュートが左に切れかけたところを、中央にポツンと残った山岸が右足で反応したが、腿に当たったボールは僅かにゴールの外へと消えた。前半はドイツの2点リード。



 3点目を奪って早く勝負を決めたいドイツが、後半に入っても攻勢を取る。連続して左右のコーナーキックを得て、高さを生かした攻撃を展開するドイツ。48分には、またもやマイナートのヘディングシュートがゴールバーを叩いた。日本との得失点差を考えると、ドローではグループ1位が危険水域。今後の対戦相手を考えるとドイツもこの試合は勝たなくてはいけない。2点差ならサッカーは分からないのだ。

 一方、日本にとってもこの戦況は微妙な状態。グループリーグ突破が目標の日本としては、初戦の+6というゴールディファレンスがある以上、2点差での敗北は決して有難いものではないにせよ、受け入れられないものでもない。しかし、早い時間帯での3点目は大量失点負けへの一里塚だ。第2試合でカナダがアルゼンチンに大勝すると、最終戦の勝利が必須条件になる。これ以上の失点は許せない。

 そんな状況を踏まえて、日本の上田栄治監督は56分、早くも2枚のカードを切った。今ひとつのデキだった酒井と小林を下げて、荒川恵理子と柳田美幸。負傷明けから徐々にコンディションが戻ってきた2人の調整を兼ねてのロングスパートだ。荒川は積極的なフリーランニングでマークを釣って、負傷の影響か、今ひとつキレが無い澤に十分なスペースを与え、柳田は激しいプレスの圧力に磨耗した中盤を支えた。



 ようやくバランスを持ち直し始めた日本だったが、60分、ドイツのアタッカーと渡り合った矢野が、接触プレーの際に再び足を捻って退場。日本は3枚目のカードを切ることを強いられる。この場面では、今大会未出場の宮崎有香を起用することも考えられたが、上田監督は負傷を抱えているものの、より計算が立つ磯崎浩美の投入に踏み切った。3バックは右から磯崎、大部、山岸と組みかえられた。

 ドイツのマイヤー監督は、日本に3枚のカードを切らせてから、ゴトシュリッヒをシュミゼクに交代。日本に向かっていた試合の流れに一石を投じる。するとその2分後、中盤でのパスカットからヴィーグマンが、左のファーサイドに流れたプリンツに絶妙のパス。前に出ていた山郷のポジションを確認したプリンツは、体を預けた磯崎より一瞬早く、左足でループ気味のシュートを日本のゴールに流し込む。ドイツに決定的な3点目が入った。

 勝利を確信したドイツは、72分、ヒングストを下げて、ミナートを左から本来のセンターに戻し、スピードを生かした攻撃参加が売り物の19歳、ブレゾニクを左サイドに投入する。前がかりになる日本にカウンターを見舞おうという狙い。しかし、ここまでパーフェクトに当たっていたマイヤー采配が初めて裏目に出た。



 試合の半ばから味方の最終ラインが押し込まれ、後方からのフォローが望めなくなったために、右サイドの川上は攻め上がりを自重し、スペースを埋めながらガソリンを蓄積してきた。フレッシュな荒川の積極的な動きと、レフティー柳田のサイドチェンジ。足がかりを2つ得た川上は、若いサイドバックがゲームに入りきれないうちに攻勢を開始した。

 ブレゾニクが上がった裏のスペースめがけて荒川と川上が交互に侵入し、後方からのボールを引き出す。74分、裏に走った川上が柳田からのボールを受けてシュート。DFに弾かれたボールを今度は中央の澤につないで、エースがシュート。これも枠を逸れたが、このあわやの攻撃が折れかけた心を補強し、アルゼンチン戦で得た攻撃の灯火を蘇らせた。

 日本はもともと人口密度が薄いこの右翼にボールを集中し、パニックに陥ったブレゾニクと接触プレーで傷んだリンゴアを面白いほどに翻弄。セットプレーのチャンスをいくつも築く。さらにドイツの選手たちがこのサイドに引っ張られることで、必然的に広がった中央のスペースで自由を得た大谷、澤らがドイツゴールを脅かすシュートを打てるようになった。

 78分、ドイツはキャプテンのヴィーグマンをも下げて、DFのキュンツアを中盤に入れて防戦するが、この23歳の若手も日本の勢いを止めきれず、ピッチに入ってすぐにイエローカードを受ける。欧州チャンピオンをロープ際まで追い詰め、アルゼンチン戦の攻撃力の片鱗を見せつけたもののダウンを奪うには至らず、ドイツが3−0のリードを守り切ったまま、試合は終了した。



 勝ったドイツはこれで勝ち点6。勝ち点3でこれを追う日本とカナダが、最終節は直接対決を行なうため、決勝トーナメントへの進出が決まった。エースのプリンツを軸にした分厚い攻撃、そしてチーム全体での意思統一のとれたプレス守備などチーム力は1枚上のものだった。その上で相手を研究し、最も良いフォーメーションを取る戦術の柔軟性がある。

 自ら、勢いを失う結果を導いたブレゾニクの投入は、逆に先発メンバーの正しさを証明した。「日本の左を潰し、右は封じる」。川上の前進に蓋をするだけに飽き足らず、こちらでも殴り合いを演じていたら、予選リーグ突破の道程はもう少しスリリングなものになっていたはずだ。「我々にはフィジカル面で大きなアドバンテージがあった」と試合を振り返った女性指揮官の手綱捌きは心憎いものがある。



 一方、敗れた日本も終盤に残っていた燃料をすべて出し切り、強豪を相手に1点を求めて良い戦いを演じた。第2試合でカナダがアルゼンチンを3−0で破ったため、最終戦は2ndラウンドを賭けた直接対決になる。得失点差の関係で、日本は引き分け以上の結果を残せばベスト8に進出。カナダが逆転するには勝利以外は無い。

 状況的には優位に立っている日本だが、DFにケガ人が集中していることは大きな悩みだ。この日、負傷退場した矢野、そして磯崎はベストコンディションにはほど遠い。最終戦で宮崎の先発起用があるのか。酒井を最終ラインに回し、この日メドが立った柳田を中盤で先発させるという手もある。上田采配が重要なカギを握っている。

 一方で攻撃陣の奮起は期待したい。この日は老獪なドイツの前に、終盤まで光明を見出せなかったが、カナダは平均年齢が23歳くらいの若いチーム。もちろん、運動量には自信があるはずだが、日本もその点では決して劣っていない。サイド攻撃が復活すれば、恐れることは無い。傷だらけの守備陣を助ける意味でも、エースの澤、そしてアジアの得点女王・大谷を中心に、より多くのゴールを期待したい。



 日本女子代表の運命を賭けた一戦は9月27日(日本時間の9月28日)、マサチューセッツ州の州都ボストンで行なわれる。2大会ぶりのベスト8まであと90分! 日本中のサッカーファンからの熱い思いは、遠く太平洋を渡り、アメリカへ届くのだろうか?


(ドイツ女子代表) (日本女子代表)
GK: ロッテンベルグ GK: 山郷のぞみ
DF: シュテーゲマン、ヨネス、ヒングスト(72分/ブレゾニク)、ミナート DF: 山岸靖代、大部由美、矢野喬子(60分/磯崎浩美)
MF: ヴィーグマン(78分/キュンツア)、リンゴア、ギャレフレクス、マイナート、ゴトシュリッヒ(64分/シュミゼク) MF: 川上直子、宮本ともみ、酒井與惠(56分/柳田美幸)、山本絵美
FW: プリンツ FW: 小林弥生(56分/荒川恵理子)、大谷未央、沢穂希
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