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 頑張れ!女子サッカー 03/11/05 (水) <前へ次へindexへ>
 後半開始前、10人で円陣を組む田崎。日テレの勝利は固いように
 思えたが…。

 気迫をぶつけ合う両チーム。大一番で見せた女王のプライド!


 取材・文/西森彰
第15回Lリーグ決勝リーグ 上位リーグ第3節 日テレ・ベレーザvs.田崎ペルーレFC
2003年11月2日(日)13:00キックオフ 駒沢オリンピック記念陸上競技場 観衆:250人 天候:晴
試合結果/日テレ・ベレーザ2−1田崎ペルーレFC(前1−0、後1−1)
得点経過/[日テレ]荒川(21分、84分)、[田崎]白鳥(89分)


「良い夢見せてもらいました。本当にありがとうございました」

 このゲームを観戦に来ていた上田栄治・日本女子代表監督の姿を見かけて、思わずそんな言葉が口をついて出た。よくよく考えると、何と失礼な言葉だろう。上田監督や選手たち、そしてチームの目標はもっと上にあったはずなのに…。ニコニコしながら「そうですか?」と返してくれた上田監督の顔を思い出すと、額から汗が噴き出してくる。



 上田監督も視察に訪れた決勝リーグ第3節、駒沢オリンピック記念陸上競技場のゲームは優勝を占う大一番である。ホームチームはLリーグ3連覇中の日テレ・ベレーザ。アウェーチームは全日本女子選手権の覇者・田崎ペルーレFC。どちらも日の丸を背負う選手を多数送り出している日本女子サッカー界の2強だ。

 日テレは今年、チームが大幅に若返ったこともあり、予選ともいえる東日本リーグでは3位という不本意な成績に終わった。リーグ戦では3年ぶりとなる敗戦や、勝てば1位抜けのシチュエーションまで持ち込みながらドローに甘んじた最終戦など、これまでの勝負強さが影を潜めているようにも思える。しかし実際にやっている現場のほうは、外から見ている人間とは違って手ごたえを感じていた。

「チームを作り直している最中ですから。若い選手たちには経験が不足しているけれど、ほとんど白紙の状態だからこそ、いろいろと身につけていってもらえるんです。確かにリーグ戦で久しぶりに負けました。順位も3位でした。それでもその時その時で『ベレーザのサッカー』をきっちりと確認しながら戦ってきましたから」(日テレベレーザ・小林弥生)。 東日本リーグの結果は結果として受け止めたうえで、ポジティブな要素に目を向けている。

 このチームにとっては不本意な成績を代償としてまで、若い選手に積ませた経験と一貫してきた、きちんとビルドアップするスタイル。そして「この1週間、チームのみんなも田崎のことだけを考えて練習してきましたから」(日テレベレーザ・酒井與恵)というこの1戦に賭ける想いが、序盤のペースを日テレに手繰り寄せた。



 試合開始直後、日テレは小林が前に出て、伊藤香菜子、近賀ゆかりと自由にポジションを変えながら、田崎のマークを混乱に陥れる。そして、1分もしないうちに、大野忍がシュートまで持ち込み、イニシアチブを握る。4分、山本絵美に右足のミドルシュートで返されると、その2分後フリーキックの場面で、小林が壁の上からストンと落ちるドライブ回転のかかったシュートでGKのファンブルを誘い、あわや先制という場面を作った。

 そして双方1本ずつシュートがバーに嫌われた後の21分、田崎のゴール前で波状攻撃を仕掛ける。最後は高いポジションで前線の攻撃をフォローしていた戸崎有紀からボールを受けた荒川が引き気味のポジションからドリブル。その前後でボールを引き出そうという動きを見せた日テレの選手のマークに引きずられ、田崎はボールホルダーへのチェックが甘くなった。その隙を見逃さず、荒川が右足で強烈なミドルシュート。大きな先制点が日テレにもたらされた。

 今シーズン、初めて先制を許し、動揺を隠せない田崎。仲井昇監督は渡辺千尋を早くも鈴木智子に代えた。「追いつきたい」という気持ちはいつになく早くから攻撃に絡む川上直子のプレーにも窺える。「ウチは恵まれているんだから結果を求められて当然」と口にし、限りなくプロに近い責任感を持つ彼女だけに、プレッシャーに負けているチームを自分のプレーで鼓舞しようという気持ちもあったに違いない。

 しかし、そこに落とし穴が用意されていた。前半終了間際のロスタイム。中盤でのルーズボールをスライディングでつなごうとした川上だったが、そこにはいち早くベレーザのプレーヤーが追いついていた。この日のレフェリーは、あちこちで見られる激しいフィジカルコンタクトに注意を促し、3枚のカードを出してフェアな戦いを呼びかけていた。その判定基準に照らし合わせれば、もちろんイエローカード。

 ゲームの序盤で既に1枚もらっていた川上は、レフェリーが寄ってきた時点で、自分の運命にはある程度、納得していただろう。田崎の仲井監督も必要以上の抗議は行なわず、天を仰ぎながらピッチを後にした川上のメンタルケアだけを行なった。1点のビハインド、そして精神的支柱の退場。田崎には最悪であり、日テレにはこれ以上ない状況でハーフタイムになった。



 しかし90分間のペース配分ではなく、とにかく先手をとることに集中していた日テレにとっては「相手がひとり少ない」ことが、悪魔の囁きとなった。「本当はウチにとって良いことのはずなんです。それが疲れたウチの選手にとっては『相手がひとり少ないんだから』という甘えになり、サボる言い訳になってしまったんです」(日テレ・小林)。日テレのほうもハイペースな試合展開に足を使わされていたのだ。

 これに対し「キャプテンの分まで」という気持ちで一丸となった田崎は、1人減ったどころか、1人増えたかのような戦いを見せた。中央から左サイドの幅広いエリアで柳田美幸がボールに絡み、右サイドでは絶え間なく上下動を繰り返す土橋優貴にボールを集めて、そのセンタリングからゴールを狙う。55分、土橋のクロスをファーで柳田が折り返し、この試合初めてフリーになった大谷未央がゴールを狙った。完全な「1点モノ」だったが、力が入って吹かしたシュートは、バーの上を越えていった。

 崩され続ける自軍の左翼に、日本代表の中地舞を投入して蓋をしようとした日テレだが、一方的な田崎ペースは続く。「後半はウチの若い選手がボールをとった後に、相手の気迫に負けて、焦って前に蹴っていました。縦に急ぐのは田崎のスタイルで、パスをつなぐのがウチのスタイル。相手のペースで戦っていた」(日テレ・小林)。相手の土俵に上がってしまった日テレは、クリアボールをことごとく田崎に拾われ、息をつく暇もない消耗戦に巻き込まれてしまった。

 再三、右サイドから好プレーを見せていた土橋が傷んだ後は、早坂優をピッチに送り込んだ田崎だが、こういう試合展開になると分かっているのだったら、渡辺の交代は早すぎたかもしれない。大詰めの83分、フレッシュな甲斐潤子を最終ラインに入れて、足の残っているDFを前へ送った仲井監督だったが、その直後、日テレのカウンターから2点目を喫して大勢は決した。

 勝負を決定するパスを送った近賀が、そして田崎のゴールへ今日2点目をねじ込んだ荒川が、足を引きずりながら自陣へと戻っていく。勝者となるにふさわしいそのボロボロの姿に目を奪われた瞬間、田崎のプレーヤーから檄が飛んだ。「ほら、諦めない! まだ試合は終わってないよ!」。

 10人でも、2点差でも諦めない。そんなチームにサッカーの神様も1つだけは幸せを与えた。ロスタイム、自陣からのフリーキックを大谷が頭でつなぎ、ゴール前でノーマークになっていた白鳥綾のヘディングシュートが、再三好セーブを見せていた小野寺志保の守る日テレゴールに飛び込んだのだ。明日以降のゲームにつなげる、田崎の意地が生んだゴールだった。



 最後にケチをつけられたものの、全日本女子選手権決勝の借りを返す勝利。日テレのベンチ前では「してやったり」という顔が見られる。田崎の猛攻にさらされた後半、浮き足立つ若いチームの中で、小林とともにボールを生かす『ベレーザのサッカー』を貫いた酒井は満面の笑顔。「相手が相手なんで、気合が入ってました。今日は本当にウチらしいサッカーができたと思います」。2年連続でLリーグ最優秀選手に輝いているボランチは「本当は、いつもこうじゃなくっちゃいけないんですけどね」と付け加えた。

「首位に立ったからといって来週、伊賀に負けたら何にもなりませんから。今日だけじゃなくって、いつも『ベレーザのサッカー』を追求していかなくちゃいけないと思います」。小林は、今後の課題についてそう話す。先発フィールドプレイヤーの平均年齢が、新春の全日本女子選手権決勝よりも1歳若返った日テレ・ベレーザ。まだまだ伸びシロを残している。



「ナイスゲームでした!」

 日テレのベンチから田崎のベンチに移動した私は、どこよりも結果を求められている仲井監督に向かって、この日2回目の失言をしてしまう。それでも仲井監督は代表監督と同じようにニッコリ笑いながら「いやぁ、前半がひどかったから…」と試合を振り返ってくれた。「ベレーザ相手ということもあって、若い選手がびびっちゃってましたね」。やはり、日テレの選手たちがまとったオーラが、田崎を飲み込んだのだ。

「それでも、後半は1人多くなったような戦いでしたが…」と振った私に「あの戦い方を最初からできれば良かったですね。それでもロスタイムの1点がありましたから。あれが大きな収穫です。あれ、最後に得失点差になった時に効いてくると思うんですよ」。

 もちろん、ゴールディファレンスの問題もある。しかし、何より大きかったのは1人多い相手に対して最後まで諦めずに戦い、終戦ギリギリのところで一矢を報いたこと。こういう経験を若い選手たちが蓄積していけば、完成したかに見えるチームのレベルも、まだまだ上がってくるはずだ。

 日テレと田崎。日本の女子サッカーをリードする2強のリターンマッチは12月7日に組まれている。さあ、優勝争いが楽しみになってきた。


(日テレ・ベレーザ) (田崎ペルーレFC)
GK: 小野寺志保 GK: 大西めぐみ
DF: 戸崎有紀、岩清水梓、四方菜穂、須藤安紀子(56分/中地舞) DF: 磯ア浩美、白鳥綾、佐野弘子
MF: 小林弥生、酒井與恵、近賀ゆかり(88分/豊田奈夕葉)、伊藤香菜子 MF: 土橋優貴(74分/早坂優)、川上直子(44分/退場)、新甫まどか、柳田美幸 、山本絵美
FW: 大野忍、荒川恵理子 FW: 大谷未央、渡辺千尋(23分/鈴木智子、83分/甲斐潤子)
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