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 頑張れ!女子サッカー 05/09/05 (月) <前へ次へindexへ>
1対1には時間を割いた。トレーニングであり、レギュラー争いである。

 本田ジャパン、世界への挑戦 (3)
 〜ユニバーシアード日本女子代表戦記

 取材・文/西森彰
 7月19日(火)、トルコに向かうユニバーシアード日本女子代表の20名が発表された。

 男子代表の場合、発表の直前になってクラブや本人に連絡されるが、女子代表の場合は、職場のスケジュール調整などがあるためか、事前にに内定通知が行なわれる。本田美登里が率いるユニバー代表の発表は、若干もたついた。5月合宿後に内定していた丸山桂里奈に続いて、北本綾子までコンディション不良で辞退選手が出たため、東アジア女子サッカー大会に引っ張られたからである。

 5月合宿の時点で本田は、丸山を攻撃の軸に考えていた。スピード溢れる個人技、ゴールへの嗅覚、そしてなでしこジャパンでの経験を兼ね備えた丸山。5月合宿ではそのパートナーを見つけようとしていたのである。その後、なでしこジャパンの大橋浩司監督から丸山の東アジア召集を聞かされた本田は、方針を変更せざるを得なくなった。そして5月合宿後にFW陣の総取替えをして、1トップ前提のメンバーを集めていた。

 ここから再度、システムを変更することなどできない。調整の結果、北本は東アジアの最終戦終了後すぐに移動し、韓国から帰国。他競技団体と一緒にトルコへ向かう強行軍が決定した。それでもチームに合流できるのは大会の2日前。攻撃からシステムを組み立てるのが本田の得意なチーム作りだが、今回はそのパターンができなかった。



 追い討ちをかけるかのように、静岡合宿初日の夜、なでしこジャパンが北朝鮮に敗れる。「いろんな勉強のために」なでしこジャパンのキャンプの合宿に加わり、そのトレーニングを見ていた本田のショックは大きかった。「大橋監督があれだけ時間をかけて準備をして、あれだけ高いレベルのトレーニングを行なって、それでも北朝鮮に勝てないのか?」。15kgあるユニバーのグッズを渡され、「一人20kg」の制限内に収めるべく荷造りを行なう選手たちの姿を横目に見ながら、本田は暗澹たる気持ちになった。「それに比べて、私は世界に挑む準備をしてきたのか?」。

 そのネガティブな思考は一晩たっても変わらなかった。2日目のチーム練習を前にしたミーティングで、本田は「金メダル、または前回の銀メダルを狙おう」と大会の目標を告げた。そしてキャプテンに庭田亜樹子、副キャプテンに宮崎有香を任命し、その日の練習スケジュールを確認して散会した。ミーティング終了後、近賀ゆかりが本田のところに来て言った。「目標は金メダルって、はっきりと言い切って欲しかった」。

「彼女の一言が、逃げている自分に気付かせてくれたんですよね。本気で世界を狙えるところまで練習のレベルを上げよう。それに選手たちが食らいついてくるかどうか。その姿を見てトルコに行ってからもう一度近賀に言おう。それが『ごめん、私が間違っていた。金メダルを狙おう』になるか。『ダメだ。グループリーグ突破が関の山だ』になるか。それは分からないけれども」



 それでは、どうすれば世界で勝てるのか。FW同士のコンビネーションを熟成させるのは今の状況では無理。2トップで崩すことは選択肢から消して、大会直前に合流する北本、または江口なおみの1トップに自由を与えた。そして近賀をトップ下にシャドーストライカー的に置き、庭田亜樹子を那須麻衣子と並べてダブルボランチを組ませて、バイタルエリアを消した。攻撃が全く計算できない以上、つまらない失点はしない。

「『本田美登里らしくない』と言われそうですけれども(笑)、ダブルボランチで守備を安定させて0対0からのゲームを前提に。そこから1点、2点取って逃げ切るようなチームを作ろうと思います」

 練習では、メンバー選考でも重視していた「世界を相手にして戦える個としての強さ」が再確認された。「なでしこの合宿を勉強しに行って、あのレベルでも基本ができていない選手がいた。やれるだけのことはやっておきたかった」。ボールを二者の中間点に置いて、対角線上からダッシュで奪い合い、キープする練習。そしてFWとDFの1対1からのシュート練習。1対1の局面を想定したメニューがたくさん組まれた。そして女子代表の定番メニュー・男子チームとの練習試合で最後の総仕上げを行なった。

 対戦相手は、風間八宏がコーディネートしてくれた清水FCの中学2年生。単純なアスリート能力だけをとると、中学2年生のトップレベルは女子のフル代表とだいたい同じレベルにある。初対戦は30分×3本形式で行なわれて3対4の敗戦。「もっとベコベコにやられるかと思っていたけれども、意外と良くやってくれました」。本田は安堵した。さらに翌日に行なわれた45分×2本形式では前半3対0、後半1対0、トータルスコア4対0。選手たちが見せた潜在能力の高さに、本田の自信も回復していった。

「前の日のビデオを選手たちに見せて、主に失点シーンの修正箇所を伝えたところ、それをきちんと消化してくれた。清水の子たちが女子の一番の弱点。DFラインの後ろに蹴って駆けっこで勝負せず、きちんとボールをつないできたのも勝因の一つでしょう。しかし、それらを差し引いても、満足すべき内容でした」



 8月5日(金)の朝、成田から空路トルコに移動した後、本田は選手たちにもう一度、大会の目標を確認した。「私は最初のミーティングでみんなに『目標は金メダルか銀メダル』と伝えたんだけれど、ある選手から『金メダルじゃなきゃダメだ』と言われた。みんなはどう思ってるの?」。選手たちからは「金メダル」、そして「世界制覇」という答えが返ってきた。

「そこで『じゃあ、世界を狙うための準備をしなきゃならないね』と言いました。彼女たちも自分の言葉に対する責任を負ったんですね。40度の気温が暑いとか、荷物が重くてしんどいとか、バスがかったるいとか。そういった不平不満は全く口に出さなくなりました。だから苦しい条件の中でも、大会に向けて気持ちをモチベートできました」

 トルコに入ったその日から、5日後の開幕戦へ気持ちを切り替えたチームは、厳しい直前練習をこなしていった。そして8月10日(水)、ユニバーシアード日本女子代表は大会初戦で、これを庭田の先制ゴール、近賀の2得点で3対0とチェコを一蹴。ここから快進撃を始めたのである。
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