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 webnews 03/12/16 (火) <前へ次へindexへ>
 次々と自分たちの席を決めていくミラニスタたち。遅く来た人たちは
 大変な目にあわされた。
 このセーフティーゾーンは別の意味で役に立つことになった。
勝負に拘ったボカとミラン。PK戦で明暗を分ける。
トヨタ・ヨーロピアン・サウスアメリカン・カップ ACミランvs.ボカ・ジュニアーズ

2003.12.14(日)19:15キックオフ 横浜国際総合競技場 観衆:66,757人
試合結果/ACミラン1−1ボカ・ジュニアーズ(前1−1、後0−0、延前0−0、延後0−0、PK1−3)
得点経過/[ミラン]トマソン(24分)、[ボカ]ドネ(29分)


取材・文/西森彰

 90分間のレギュラータイムに加えてシルバーゴール方式15分2回の延長戦でも決着つかず、ついにはPK戦で覇を競うことになったACミランとボカ・ジュニアーズ。勝利の雄叫びをあげたボカの選手たちは、優勝の喜びから我に帰った時、立っていることも困難なほどだったろう。そしてそれ以上に暗い表情で、重くなった体を引きずりながらロッカールームへ消えたミランの選手たち。しかし、それに負けないくらい、ゴール裏の警備員たちも疲れきっていたはずだ。



 海外のスタジアムでは早めに来場して自分の席をきちんと確保しておかないとえらいことになる。それはカテゴリー1だろうが、どこだろうが一緒だ。この日の私はカテゴリー4のチケットでの入場だったので「遅く行ったらたら席が無くなる!」と試合時間の2時間以上前に入場した。私のいた北スタンドはミランサイドだったのだが、既に地元から駆けつけたティフォージに在日イタリア人を加えた赤と黒の集団が、座席番号を全く無視して、前方のスペースを埋め尽くしている。もちろん私の席も…。

 レフェリーに対してと同じように、手を合わせたり、肩をすくめる連中を相手にしばらく押し問答して、どうにか退去いただいたが、空席が多数あった時間帯だったから良かった。時間を追うごとに席は埋まり、それに比例してトラブルが増えていく。「私の席がない」「イタリア人がどいてくれない」と案内スタッフに苦情を言う日本人たち。「ここはクルヴァだろ? 何でそんなに座席に拘るんだ」と怒るイタリア人たち。

 乱入対策用でデッドスペースとして空けておいた前3列を開放して、座席の確保をはかった運営サイドの判断がなければ、間違いなく通路で観戦することになった日本人たちはもっと増えたはずだ。もちろん、こういう揉め事が起きたのはミランのサイドだけではなかったはず。ピッチを挟んで対面する南スタンド中央も、ボカのブルーとイエローの傘が密集して振り回されていた。



 インターコンチネンタルカップ時代にミランが1度優勝しているものの、トヨタ・ヨーロピアン・サウスアメリカ・カップと生まれ変わってからはミランもボカも2回ずつの優勝を誇る両チーム。

 ミランは9年ぶりの来日。南米勢の熱意が欧州勢を凌いでいる近年とは異なり、今年のビッグイヤー保持チームはこのタイトルにも照準を絞ってくれた。アヤックスの抗議にも関わらず、チャンピオンズリーグの予選リーグ最終戦(1−2で敗戦)でメンバーを落としてまで、一部の選手の来日を早めたし、縁起の良いアウェー仕様のユニフォームを着用したり。欧州のクラブで、ここまでこのタイトルを本気で狙ってきたところも記憶にない。

 監督のカルロ・アンチェロッティは14年前に選手としてトヨタカップを制した。その時の2人のチームメイトも現役を続けている。最後の来日となった9年前にA級戦犯の烙印を押されたアレッサンドロ・コスタクルタは雪辱を期し、パオロ・マルディーニはこのカップと3回目の邂逅を夢見る。また、カフーにとってはサンパウロ時代とあわせて南米・欧州双方の代表としてカップに対面するチャンスだったし、ナショナルチームとして世界一に輝いたヨコハマで、クラブ世界一を達成するチャンスでもあった。

 対するボカは、南米王者を4回も育て上げたカルロス・ビアンチに率いられ、ここ5年間で3回目の来日となるボカに、特別、気負いにつながる要素はない。強いて不安要素をあげれば、飛行機の機体故障によってフライトスケジュールが狂わされたケチがついたこと。そしてカルロス・アルベルト・テベスの召集問題で揉めた上に、負傷で出場が危ぶまれていることくらい。もっとも負傷者を抱えるのは相手も同じこと。ボケンセとともに普段通りの戦いで3回目のタイトル奪取をもくろむ。



 ゴールをあげたトマソンとゴール裏のミラニスタが喜びを分かち合う。
 ミラン、ボカともに中盤をダイヤモンドに組んだ4−4−2で2人の9番はピッチ上にいない。ミランのアンチェロッティ監督はフィリッポ・インザーギの代わりにヨン・ダール・トマソンを起用。ボカのビアンチ監督は、コンディションが上らないテベスに代わって、バロスケロットとイアルレイの2トップで臨む。

 引き気味のポジションから一瞬のカウンターを狙うボカを押し込めながら、ミランがチャンスを窺う。パスを回しながら、ボールポゼッションで上回ってはいるが、最後の場面で雑なプレーが多く、なかなか決定的チャンスを作れない。「ユーヴェ、ユーヴェ、ヴァッファンクロ!」と、この場に来られなかったユヴェントスを煽るコールで、妙な景気付けをはかるミラニスタ(レアルが「プータ、バルサ」とコールするようなものだろう)。ボカのペースに嵌りかけているミランへのイライラもあった。

 しかし、ミランはワンチャンスをきっちり生かす。23分、中盤右サイドでボールを奪うと、アンドレア・ピルロが1枚交わして、そのまま前方へスルーパス。アンドリー・シェフチェンコがこれをコントロールミスしたが、結果的にファーサイドに詰めていたトマソンへの絶妙のスルーになる。ボカGK・アボンダンシエリの動きを見ながら、股抜きのシュートを流し込むトマソン。赤と黒に染め分けられたスタンドが揺れた。

 このゴールからしばらくはミランペースで流れ、一方的な展開になるかと思えたが、ボカは二の矢を食い止める。そして28分、カフーが上がった左サイドのスペースに流れてボールを受けたバロスケロットがセンタリング。ヂダの目の前でイアルレイがタッチしてファンブルを誘うと、こぼれたところをドネが冷静に詰めて、同点に追いついた。今度はボケンセが持った傘をグルグル回して大喜びだ。



 前半から、激しいゲームを続けた両チームは後半も半ばを過ぎると、徐々に動きが鈍ってくる。より運動量が多かったミランのパフォーマンスの落ち込みが激しい。相手の攻め疲れを待ってカウンターというボカのゲームプランが当たったかに見えた。それでもボカの2トップがゴールを奪えなかったのは、35歳マルディーニと37歳コスタクルタの両センターバックの奮闘
によるところが大きい。そしてボカの方も動きが止まってくる。前半から両チームともハイペースで飛ばしてきたのだ。スコアこそ異なっていたが、チャンピオンズリーグ決勝と全く同じゲーム展開となった。

 危ういバランスの下でアンチェロッティ監督が振るった采配はゴールを奪って守備面でも貢献していたトマソンから故障を抱えるインザーギ、そしてボカのマークの前にいつものキレを殺がれたカカからマヌエル・ルイ・コスタ。最後の1枚も足が攣ったガットゥーゾからマッシモ・アンブロジーニのリレー。カハ・カラーゼやセルジーニョを投入して左サイドを活性化させるよりも、リスクを回避することを重く見た選択だ。一方のビアンチ監督は、ゲームが予定通り推移している自信からか、満を持してのテベス投入以外は先発メンバーを最後まで引っ張った。

花火の余韻が残るピッチ上。ミラニスタやボケンセはこの演出に大喜び。
 シルバーゴール方式の延長戦でも、互いに消耗した中で決定機を作りながら、ゴールを奪うには至らなかった。1対1の場面でシェフチェンコのシュートがアボンダンシエリのセーブにあい、インザーギのゴールがオフサイドの判定で取り消されたミランの命運は尽きていたのだろう。ゴール裏ではミラニスタ同士のいさかいがおこり、紙コップからビールが飛ぶ。PK戦を撮影するために一度は集まったカメラマン、そして勝利の女神はボカのゴール裏に去っていった。



 ボカはビアンチの戦略を選手たちがきっちりとこなして3回目のタイトル奪取に成功した。個人的には度重なるビッグセーブと正確なキックを見せたアボンダンシエリにMVPをあげたかった。欧州勢にも負けないほどきっちりと組織化されたチーム戦術、そしてカウンターからのスピード溢れる飛び出し、南米らしい正確なボールコントロールは観客を十分に楽しませた。強い南米王者ボカ・ジュニアーズの戴冠にケチをつける人も少ないはずだ。ここ最近の欧州優位の流れを食い止めるボカの奮闘。それは「クラブ世界ナンバーワン決定戦」というトヨタカップの看板を支えている。

 ミランも準備段階からこのタイトルへのこだわりを見せ、この日への興味を高めてくれた。悔やまれるのはアンチェロッティの采配。特にPK戦でのセードルフ起用だ。EURO2000の準決勝イタリア戦でも、そして先日のチャンピオンズリーグ決勝でも、PKを失敗している彼を何故チョイスしたのだろう。最後まで捨て置かれた機能しない左サイドとあわせて疑問が残った。しかし、地球の裏側で行なわれる興行性の高いイベントマッチに本気で臨んでくれたことを、我々としてはまず感謝すべきだろう。



 そして来年、幸運にもチケットを手にすることができたあなたへ、1年前から忠告しておきます。都合がつく限り、早めにスタジアムに入りなさい。そう、ゴール裏のチケットを手にしたあなたですよ。


(ACミラン) (ボカ・ジュニアーズ)
GK: ヂダ GK: アボンダンシエリ
DF: カフー、コスタクルタ、マルディーニ、パンカロ DF: ペレア、スキアビ、ブルディソ、ロドリゲス
MF: ピルロ、ガットゥーゾ(102分/アンブロジーニ)、セードルフ、カカ(78分/ルイ・コスタ) MF: カーニャ、バタグリア、カシーニ、ドネ
FW: シェフチェンコ、トマソン(60分/インザーギ) FW: バロスケロット(73分/テベス)、イアルレイ
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