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 webnews 05/01/24 (月) <前へ次へindexへ>
第83回全国高校サッカー選手権備忘録(中編)


取材・文/2002world.com編集部 [01.24]

 開幕戦がPK決着。決勝戦もPK決着。昨シーズンのナビスコカップファイナル、Jリーグチャンピオンシップ、そしてトヨタカップと吹き荒れたPKブームは、この高校選手権でも続いた。山梨県代表・韮崎高校と静岡県代表・藤枝東高校。中田英寿、中山雅史らをOBに持つ名門2校も道半ば、PK戦で国立への道を閉ざされた。そして、事実上の決勝戦と呼ばれた市立船橋と東福岡の対戦もまた、PK戦で決した。



 1回戦で高知高校を降した韮崎は、ケガ10番・山本一邦を失う。2回戦の北海高校戦で、ロスタイムまで1点を追う苦しい展開の中、1年生の岩崎大輔が起死回生の同点ゴールを叩き込み、土壇場で追いついた。流れは完全に韮崎に来ていた。しかし、ここで韮崎の前に小さなGKが立ちふさがった。北海高校・瀬川勇介。コンサドーレ札幌U-15出身のGKは身長176センチ。好きな選手にイギータの名前を挙げ、足元からの展開を売りにする瀬川は、「得意でも不得意でもない」PKで蹴り直しを含めて3本を止める大活躍を見せた。

 掴みかけていた流れを絶たれた韮崎。ヒーローになり損ねた岩崎は年齢的に成長途上にあるのか、170センチと小柄な選手。「勝負を分けたのは?」という質問には「運じゃないですか」と気丈に答え、強気な性格を覗かせた。守備が課題と自己分析する1年生。「まだまだ3年生とサッカーをやりたかった。努力して、もっともっと努力して、またここに来たいです」。

「負けた気はしていない」。そう口にした森重監督(東福岡)は決して下を向かなかった。大会前、「2連覇したときの力を100とすれば、まだ80点。残りの10点は上げられる。残った10点をスタッフと選手たちとで、どうやって上げられるかがポイント」と語っていたが、ピッチに登場したチームは十分に優勝を狙えるチームだった。プレスをかけてくる相手を引き付けておいてから反対サイドに大きく展開するサッカーは、市立船橋を何度も慌てさせた。もっと長く見ていたいチームだった。



 静岡県勢として久しぶりに2勝を挙げた藤枝東は、3回戦でディフェンディング・チャンピオンの国見高校と当たった。「ここ最近、冬の選手権は国見さんと市立船橋さんばかり。何とかその流れを断ち切りたい」。服部康雄監督に率いられたチームは1、2回戦を勝ち進んだ3-5-2から、対国見戦用の4-4-2に変更して大一番に臨んだ。常にヒール役の国見だが、藤枝東の赤星貴文が浦和レッズに入団が内定していることもあり、駒場陸上競技場のスタンドには、そこはかとなく「藤枝東贔屓」のムードが存在していた。

 その中で時間を追うごとに紫の集団が、青と黄の縦縞を押し込む。巧みなボール捌きで、国見の堅陣に綻びを生み、ゴールに迫る藤枝東。前回王者のプライドか、驚異的な精神力で最後の一線だけは越えさせない国見。息を呑む好ゲームもPK決着に持ち込まれ、国見が準々決勝に進んだ。藤枝東のチームスタッフは「あのサッカーはやりたくない」と評しながらも「(国見の)ベスト4は決まり。ウチが勝っていればそこまではウチが行っていた」と国見の底力をきちんと認めた。久しぶりに「らしさ」を感じたサッカー王国の代表もこうしてPKに散った。

 PK決着が目立ったのが今大会の特徴なら、初出場校が多かったのも今大会の特徴だった。その中でも異色とも呼べる2チームが三ツ沢球技場で3回戦を戦った。ひとつは津工業。決して前に長いボールを蹴らない、徹底してつなぐチームだった。「ただボールを蹴るだけというのは(津工業を卒業してから)どっか他へ行って教えてもらえ、という感じです(笑)」。最終ラインからでもパスをつなぐサッカーがリスクを背負うのは承知の上。それでも監督と選手たちは自分たちのサッカーを貫き通した。それが自分たちのサッカーだからだ。敗れても悔いなし。選手たちの表情はそう語っていた。

 そして広島観音高校。全体練習は週3日。レギュラーの選出から交代選手、そして戦術の決定まで全てを選手たちが自主的にこなす。「選手たちが自分たちでチームを作ったということは、他のチームにはないこと。今日はいろんな面で負けることなく戦いに挑んでいた。ホントに(生徒たちに)任せられるチームに仕上がったなと思います」(畑監督・広島観音)。敗れはしたが彼らはスタイルを変えないだろう。そしてまた、自分たちで作ったチームで全国の舞台に進んでくるはずだ。



 2日後の準々決勝。駒沢陸上競技場では星陵高校が石川県勢として初めてベスト4への切符を手にした。「うれしい」。試合後、顔見知りの記者に声をかけられた河崎監督(星稜)が発した第一声。飾らぬ言葉だからこそ、ベスト4進出の喜びが伝わってきた。試合を決めたのは本田のCK。この試合では、殆ど良いところがなかったが、ここぞというところでチャンスを演出するのはさすが。国立では、その輝きがさらに増すことになるだろう。

「うちを兄貴分みたいに思ってくれていて、今日も試合前に恩返しをさせていただきますと言うんで、俺は夏にお世話になった恩返しをするよって」(松沢総監督・鹿児島実業)。恩返しを果たしたのは鹿児島実業。1点を先制され、多々良学園の徹底して守られて苦しい展開だった。しかし、山下のFWとしての得点感覚が同点ゴールを生み、サイド攻撃から赤尾が中央に飛び込んで逆転した。ロングボールだけではなく、つなぐサッカーも見せた鹿児島実業。狙うはただひとつの目標「単独優勝」だ。

 三ツ沢球技場では、国見が盛岡商業高校と対戦した。平山相太も在校生と共に、スタンドからメガホンを叩いて声援を送った。結果は藤枝東のチームスタッフが言ったとおりだった。福士徳文の4試合連続ゴールなど、盛岡商業の反撃に追い詰められながらも、国見は3対2のスコアで逃げ切った。国立行きの切符と同時に手に入れたのは、次回大会のシード権だ。

「優勝を狙うと1回戦を戦ったところと、1回戦が無かったところでは最後に違いが効いてくる。ウチではこのシード権を取ることをひとつの約束にしている。今年も先輩たちが1回戦をパスさせてくれた。だから、今日も彼らに後輩たちのためにシード権をキープするように伝えました」。小嶺忠敏総監督が語ったように、短期決戦でひとつパスできるアドバンテージは大きい。実際、今大会も国立へ歩を進めた4校は、いずれも1回戦をパスしたチームである。

 次の試合を前に、市立船橋高校のベンチでひとり震えていたのは中村勇紀だった。「興梠に抜かれたらすぐに1点。点を取られたら俺の責任…」。鹿島アントラーズ入団が内定している鵬翔高校のエース・興梠慎三。石渡靖之監督からマーカーを任命された中村は、その役目を完璧に果たし、3対0の勝利に貢献した。「興梠を止めて、あれが凄い自信になりました」と笑顔で語った中村。高校生は短期間で成長する。



 取材終了後、三ツ沢球技場を後にしようとしたところ、運営係の高校生たちがチケットボックスを球技場内に押していっていた。しかし、球技場の入口はタチの悪い坂道。「これマジで重いよ〜」。何とか途中まで押しては、またズルズルと坂道を下げられる。他の場所から応援がやってきて再チャレンジ。報道陣からその背中に「がんばれよー」という無責任な声が飛ぶ。

 市立船橋、鹿児島実業、国見、そして星稜。4強が揃い、国立決戦の3試合を残すのみ。
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