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 webnews 05/02/11 (金) <前へ次へindexへ>
ドイツへの最後の戦いが始まった。
繰り返される劇的勝利。もう誰も奇蹟とは呼ばない。
2006FIFAワールドカップドイツ アジア地区最終予選グループB 日本代表vs.北朝鮮代表

2005年2月9日(水)19:31キックオフ 埼玉スタジアム2002 観衆:59,399人 天候:曇り
試合結果/日本代表2−1北朝鮮代表(前1−0、後1−1)
得点経過/[日本]小笠原(4分)、[北朝鮮]南成哲(61分)、[日本]大黒(91分)


取材・文/西森彰

 1次予選のオマーン戦では、インフラが悪いスタジアムから家路を急いだ大量のファンが、久保竜彦のVゴールを見逃した。あれから1年が過ぎ、この日もゲームは似たような状況に陥っていた。しかし、オマーン戦やアジアカップでドラマチックな幕切れを見せられてきたファンは、試合終了の笛までスタジアムに残って試合を見守った。そしてまた劇的なフィナーレが訪れた。



 グループBで最も格下のチームと思われる北朝鮮。それを相手のホームゲームは、初戦と言えども勝ち点3が絶対条件だ。1次予選では最大のライバル・オマーンがいきなり最初の相手だったが、今回のようなグループ最弱と目されるチームとの戦いもまた、別のプレッシャーがかかる。

「引き分けたら」「負けたら」という恐怖はつきまとう。不安を振り払う特効薬は早い時間帯での先制点。日本はそのチャンスをいきなりプレゼントしてもらう。三都主の突破が相手DFのファールとイエローカードを誘って得た左サイドからのFK。これを小笠原満男がニアサイドに絶妙なコントロールで蹴りこんだ。

 日本、北朝鮮両国の関係を考えて早め早めの決断をしたファールはともかく、イエローカードまで必要なところだったか? ペナルティエリア内でオーバーアクションをした井原正巳が貰ったPKを、エースの三浦知良が決めて、好スタートを切った日本のフランス大会の最終予選。同じヨーロッパの地・ドイツを目指す今回の最終予選でも、全く似たような形で先制点を奪い、順調な滑り出しを見せたかに見えた。

 専用スタジアムに集った6万人弱の大歓声が、北朝鮮イレブンの動揺を誘っていたのは明らか。落ち着いてプレーできていたのは、名古屋グランパスエイトの安英学とサンフレッチェ広島の李漢宰だけではないか。Jリーグでプレーするこのふたりは完全なアウェーゲームの中でも積極的なプレーが目立っていた。だが、その他は浮き足立っている。特に左サイドは壊滅的な状態。尹正水監督は、前半に早くも交代カードを2枚切った

 しかし、日本代表は自分たちからペースダウンしてしまう。左サイドの三都主アレサンドロがベタ引きになって、ほとんど4バックのような形で動く。北朝鮮得意の右サイドからの攻撃に蓋をしたものの、日本も加地亮の右サイドだけが活発な片肺飛行になった。後方でボールをキープしながら、ゆっくりと戦う日本。華々しい立ち上がりを飾った試合開始直後に、一瞬盛り上がったスタンドは、時間を追うごとにしらけていった。


近くて遠い隣国・北朝鮮が初戦の相手。

 後半に入ると日本代表が左右両翼から攻撃を始たが、相手が混乱している前半に仕掛けておきたかった。1点をリードされ、攻め手を封じられていた北朝鮮にとってこれはもっけの幸い。ハーフタイムを挟んで落ち着きを取り戻した選手たちは、日本ゴールを脅かし始める。三都主が上がった後を突いて中澤佑二を引きずり出し、手薄になった中央へボールを運ぶ。

 後半開始からちょうど5分、早いリスタートからがら空きになった金映水が右サイドを上がり、イエローカードに抗議し、カバーの遅れた田中誠の裏に文人国が飛び込む。この決定的なヘディングシュートは川口能活が防いだ。だが、北朝鮮の勢いは止まらない。中盤でボールの落ち着き所が無いために、互いの陣地を振り子のようにボールが行き来してしまうのだ。

 ドタバタした展開は往々にして、ゴールの呼び水となる。60分、右サイドでボールを奪った北朝鮮は、日本のプレスを掻い潜ってパスをつないでカウンターを見舞う。最後は左サイドの南成哲が、クロスに備えた川口の裏を欠いて、アウトにかけた強烈なシュートでニアサイドを抜く。一瞬にして静まり返るさいたまスタジアム2002。北朝鮮の応援団が陣取った一角だけが、沸きに沸いた。
 
 この失点でジーコ監督が動いた。満を持して高原直泰、中村俊輔のふたりを投入する。高原が積極的にシュートを放ってリズムを戻し、両サイドに開いてレシーバー役をも務めた中村はボールを落ち着かせる。さらに3バックから4バックへの布陣変更。北朝鮮はこれらの新たな脅威に、前線の選手まで呼び戻さなくてはいけなくなった。カウンターを食う危険は大きく減じられた。ハーフコートゲームだ。さあ、追いつけるか?

 ゴール前に張り付くだけになった相手を見て、大黒将志が呼ばれる。久保竜彦の代役として呼ばれた大黒が、この最後の場面で投入された。ゴール前に人数を欠ける北朝鮮に玉田圭司のスペースは潰されていた。左右両足に頭のどれでもゴールを奪える大黒が、パワープレーからの混戦で生きるかもしれない。ジーコ監督にもそんな計算はあっただろうが、最後は動物的な感覚がこの采配を生んだのだろう。

 そして、ロスタイムに勝ち越しゴールが生まれた。右サイドから小笠原が上げた好クロスに、相手GKは再三見せていたパンチングで対応する。ゴール正面にこぼれたボールを奪った福西崇史が、グラウンダーのボールで大黒に託す。最後に呼ばれたFWは、北朝鮮のマーカーを巻き込むように体勢を入れ替えて、重い1点を左足で流し込んだ。前半はしらけて、後半は固唾を飲んで、ほとんど声を発しなかったメインスタンド、バックスタンドもお祭り騒ぎになった。


最後にモノを言ったのが、分厚い選手層。

 相手が地に足をつけられなかった試合開始の10分に二の太刀を浴びせられず、前半は1点だけ。ここで止めをさせなかったことが、苦戦に陥った最大の原因である。後半に試合を決めるためのラッシュに出るなら、先制した直後に畳み掛けるべきだった。また確実に勝ち点3を奪うなら、前半と同じように後半もゲームをコントロールするだけで良かった。この日の日本代表は、挙げられた選択肢の中で最悪のものを選んだように思う。

 しかし、そんなことをやっても勝ち点3を奪える力強さが、今のこのチームにはある。ヨーロッパ発の助っ人は嫌な流れを完全に断ち切り、もう一度自分たちにペースを取り戻した。彼らが勝負の時間帯にスタミナ切れを起こさなかったのは、途中出場だったから。最低限のノルマをクリアして彼らにつないだ先発隊にも、ちょっぴり拍手を送ってあげたい。

 そして何よりファンがチームの勝利を信じている。チームの好き嫌い、支持不支持は別にして「それでも勝つ」と呟けるだけの信頼を持っている。長丁場の戦いで一番重要なのは、どこまで勝利を信じられるか。ここまで何度も踏み絵をさせられた日本には、その点で一日の長がある。





(日本代表) (北朝鮮代表)
GK: 川口能活 GK: 沈勝哲
DF: 田中誠(66分/中村俊輔)、宮本恒靖、中澤佑二 DF: 李明滲、張石哲、漢成哲、朴映哲(43分/南成哲)
MF: 加地亮、福西崇史、遠藤保仁、三都主アレサンドロ、小笠原満男 MF: 安英学、李漢宰(84分/朴男哲)、金永峻、文人国
FW: 鈴木隆行(64分/高原直泰)、玉田圭司(79分/大黒将志) FW: 洪映早、崔哲万(29分/金映水)
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